約束の続き

夜空のかけら

文字の大きさ
8 / 48
第7章 理の使命

67 最古の記憶

しおりを挟む
一通りの対処をして、屋敷でぼんやり静養を続けることにした。
しかし、気になる点があった。出産した子供のこと。見間違えようもなく、男の子だった。単為生殖の私の場合、自分自身を出産して、出産した子供がある程度、18歳になると同時に今の身体から、その子に移動することが可能になる。もちろん、性別は女の子限定。
男の子の場合、単為生殖を選択できない。つまり、私はここで終わりってこと。もちろん、使命が消えるわけじゃない。私という意識の寿命が尽きただけ。集合意識体の中で、しばらく眠りに就く。次に起きるときには、全てが終わっているかもしれないけれど。
 次の私は、おそらくあの集合意識体の中で生成中だろうし。夜見君ともしばらくはお別れね。次に会うのは、夜見君のことを知らない子だと思う。

***

走馬灯のように、昔を思い出した。
昔々、私がまだ普通の人間だった時の事。住んでいた村が燃えていた。盗賊団に襲撃され、家屋に火を放たれた。その日、私と姉は、近くの草原に薬草を探しに出かけていて、盗賊団には会わなかった。村の方で煙が上がっていることに気が付き、急いで村に戻ってみたのが、あの光景。まだ、盗賊が何人か残っていたので、なるべく音を立てないように、私たちの家族が住んでいた家へ近づいていったが、火がパチッと弾けた際に思わず、「わっ!」と声を出したら、姉妹ともに捕まってしまった。
 売ればお金になるとか、この場で喰ってしまえとか、物騒な言葉が聞こえてくる。
シュパ
 今まで聞いたことがないような音が何回か続いて、気が付くと盗賊たちの声が聞こえなくなっていた。目の前に立つ、黒いローブの男。声から男だと思った。

「大丈夫か?ここには、もう何もない。盗賊団の残りも戻ってくるかもしれない。この場から立ち去るといい。」

男は、そう行ったけれど、他の村などは行ったこともないし、行く方向も分からない。なにより、全ての物が焼けてしまった。村に残っていた両親も長老も、幼馴染も。何もする気力も湧かなかった。姉妹2人で放心状態だったのに、男は見捨てることなく、私をおぶって、姉の手を引いて、どこかに連れて行こうとしているらしい。
さっき、薬草を取っていた草原にやってきた。さっきは、草原を渡る風が気持ちよかったのに、今は何にも感じない。
男は、姉の手を放し、私を姉の隣に座らせた。

「ここまで来れば、盗賊に追いかけられることもない。少し準備をするから、そこで見つからないように隠れていろ。そのまま横になっていてもいいぞ。」

ここの草は、薬草を取っていた場所に比べて高いものが多い。座っていると、頭が少し出てしまうけれど、寝転んで入れば、気が付かれることはないと思った。でも、そんなことすらできない。村の光景が浮かんできてしまう。精神的ストレスはかなりのものなんだろうけど、まだ思考停止状態で、村の現実を受け入れられなかった。両親や村のみんなの最後に見たのは、ほんの数時間前なのだから。
男が何かをやっているようだ。声が聞こえる。でも、ぼんやりと聞いているだけで、そちらの方に行こうとする気力すらなかった。
男がいた方向から、ひと際強い風が吹いた。1回、2回、3回。
風が吹くたびに、草が飛んでいく。

「よし、できた。」

さっきと同じように、私をおぶって、姉の手を握り、さっきまで何かをやっていた場所へ。そこは、草がなくなって、土の面が出ていた。二重円に三角の組み合わせ、円と円の間には何かが書いてあるようだけれど、なんて書いてあるか分からない。うっすらと光っているようにも見える。

「ちっ、気づかれたか。」

耳元で矢の音がした。射かけられたようだった。

「転移魔法陣、起動!」

うっすらと光っていた二重円を始めとする模様が、全部、光り出した。
少しずつ、光量が上がっていく。
しかし、矢も多くなっていく。

「うっ…」

私の背中に突き刺さる矢。立て続けに刺さってくる感触が気持ち悪い。意識が遠くなる感覚。
周囲が真っ白になったと思ったら、草原ではなく、真っ暗の中に等間隔に光っている何かが置いてあるところにいた。
私は、背中に突き刺さった矢で体力を急激に消耗して、男の背中に留まることができず、滑り落ちてしまった。うっすらと目を開くと、お姉ちゃんも身体に矢が何本も突き刺さっていた。私と同じように、地面に倒れこんでいる。

「くそっ、毒まで。これじゃあ、助からん。」

よく見れば、男も何本か刺さっているらしい。でも、私が見ることができたのはそこまでだった。急激に周囲が暗くなっていく。呼吸が苦しい。思いっきり空気を吸って、吐くと同時に身体中の力が抜けていくのが分かった。
私は、死んだ。
死んだ身体から、私という存在が抜ける。抜けたばっかりだからかな。一部が薄くなっているけど、生前と同じ身体のように動ける。不思議。
そんな不思議な感覚を体感(?)していたら、突然温かいものが私を抱きしめた。これは、お姉ちゃんだ。顔を上げるような仕草をしたら、涙を流しているお姉ちゃんがいた。何度も、守ってあげられなくてごめんなさい。と言っている。もっと、早く正気に戻っていればとか。
お姉ちゃんと二人で、死んでしまったようだった。そう言えば、私たちを連れてきてくれた男の人は、どうなったのだろうと、周囲を見渡すが、いない。そもそも、ここには2人しかいなかった。真っ白な場所で、さっきまでいた場所とは、完全に違う場所だと分かる。これからどうすれば分からなかった。どうしようと困っていたら、周囲に私たち以外の存在が感じられた。お父さんとお母さん、長老や幼馴染の感覚。みんな死んでしまった事での再会。
みんなは、次に行く先を知っているようだった。私たちも行こうと、みんなの後を歩き始めた。周囲の真っ白さがだんだん暗くなっていった。気が付くと、男が連れてきた場所に似たところに着いた。
お母さんに聞いた。

『ここはどこ?』
『ここは、死んだ私たちが次に行くところを決める場所だよ。』
『どこへ行くの?』
『さぁねぇ~。全然分からない…。みんなとも、ここでお別れかもね。あなたたちも、いつかはここからどこかへ行くと思うわ。その時に悔いのないように、お姉ちゃんとお別れの挨拶をしておいてね。』
そんな声が聞こえ、終わったと思ったら、お母さんが輝き始めた。
『ああ、お別れね。今までありがとう。生まれ変わって覚えていたら、また私の子供として生まれてきてね。さようなら。』

輝きが最高レベルに達し、次の瞬間反転。お母さんがいた場所に黒いものが出たと思った次の瞬間、すーっとという感じで消えていった。お父さん、幼馴染の男の子、隣のまだ小さい女の子。そのお母さん…、次々に消えていく。気が付くと、残ったのは、またお姉ちゃんと2人。
私たちは、いつまで経っても、お母さんたちのようにならなかった。

時間の感覚がなくなっていたので、そこにどれくらいいたのかは分からなかった。
あの、ローブの男がここに来るまでは。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...