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第7章 理の使命
67 最古の記憶
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一通りの対処をして、屋敷でぼんやり静養を続けることにした。
しかし、気になる点があった。出産した子供のこと。見間違えようもなく、男の子だった。単為生殖の私の場合、自分自身を出産して、出産した子供がある程度、18歳になると同時に今の身体から、その子に移動することが可能になる。もちろん、性別は女の子限定。
男の子の場合、単為生殖を選択できない。つまり、私はここで終わりってこと。もちろん、使命が消えるわけじゃない。私という意識の寿命が尽きただけ。集合意識体の中で、しばらく眠りに就く。次に起きるときには、全てが終わっているかもしれないけれど。
次の私は、おそらくあの集合意識体の中で生成中だろうし。夜見君ともしばらくはお別れね。次に会うのは、夜見君のことを知らない子だと思う。
***
走馬灯のように、昔を思い出した。
昔々、私がまだ普通の人間だった時の事。住んでいた村が燃えていた。盗賊団に襲撃され、家屋に火を放たれた。その日、私と姉は、近くの草原に薬草を探しに出かけていて、盗賊団には会わなかった。村の方で煙が上がっていることに気が付き、急いで村に戻ってみたのが、あの光景。まだ、盗賊が何人か残っていたので、なるべく音を立てないように、私たちの家族が住んでいた家へ近づいていったが、火がパチッと弾けた際に思わず、「わっ!」と声を出したら、姉妹ともに捕まってしまった。
売ればお金になるとか、この場で喰ってしまえとか、物騒な言葉が聞こえてくる。
シュパ
今まで聞いたことがないような音が何回か続いて、気が付くと盗賊たちの声が聞こえなくなっていた。目の前に立つ、黒いローブの男。声から男だと思った。
「大丈夫か?ここには、もう何もない。盗賊団の残りも戻ってくるかもしれない。この場から立ち去るといい。」
男は、そう行ったけれど、他の村などは行ったこともないし、行く方向も分からない。なにより、全ての物が焼けてしまった。村に残っていた両親も長老も、幼馴染も。何もする気力も湧かなかった。姉妹2人で放心状態だったのに、男は見捨てることなく、私をおぶって、姉の手を引いて、どこかに連れて行こうとしているらしい。
さっき、薬草を取っていた草原にやってきた。さっきは、草原を渡る風が気持ちよかったのに、今は何にも感じない。
男は、姉の手を放し、私を姉の隣に座らせた。
「ここまで来れば、盗賊に追いかけられることもない。少し準備をするから、そこで見つからないように隠れていろ。そのまま横になっていてもいいぞ。」
ここの草は、薬草を取っていた場所に比べて高いものが多い。座っていると、頭が少し出てしまうけれど、寝転んで入れば、気が付かれることはないと思った。でも、そんなことすらできない。村の光景が浮かんできてしまう。精神的ストレスはかなりのものなんだろうけど、まだ思考停止状態で、村の現実を受け入れられなかった。両親や村のみんなの最後に見たのは、ほんの数時間前なのだから。
男が何かをやっているようだ。声が聞こえる。でも、ぼんやりと聞いているだけで、そちらの方に行こうとする気力すらなかった。
男がいた方向から、ひと際強い風が吹いた。1回、2回、3回。
風が吹くたびに、草が飛んでいく。
「よし、できた。」
さっきと同じように、私をおぶって、姉の手を握り、さっきまで何かをやっていた場所へ。そこは、草がなくなって、土の面が出ていた。二重円に三角の組み合わせ、円と円の間には何かが書いてあるようだけれど、なんて書いてあるか分からない。うっすらと光っているようにも見える。
「ちっ、気づかれたか。」
耳元で矢の音がした。射かけられたようだった。
「転移魔法陣、起動!」
うっすらと光っていた二重円を始めとする模様が、全部、光り出した。
少しずつ、光量が上がっていく。
しかし、矢も多くなっていく。
「うっ…」
私の背中に突き刺さる矢。立て続けに刺さってくる感触が気持ち悪い。意識が遠くなる感覚。
周囲が真っ白になったと思ったら、草原ではなく、真っ暗の中に等間隔に光っている何かが置いてあるところにいた。
私は、背中に突き刺さった矢で体力を急激に消耗して、男の背中に留まることができず、滑り落ちてしまった。うっすらと目を開くと、お姉ちゃんも身体に矢が何本も突き刺さっていた。私と同じように、地面に倒れこんでいる。
「くそっ、毒まで。これじゃあ、助からん。」
よく見れば、男も何本か刺さっているらしい。でも、私が見ることができたのはそこまでだった。急激に周囲が暗くなっていく。呼吸が苦しい。思いっきり空気を吸って、吐くと同時に身体中の力が抜けていくのが分かった。
私は、死んだ。
死んだ身体から、私という存在が抜ける。抜けたばっかりだからかな。一部が薄くなっているけど、生前と同じ身体のように動ける。不思議。
そんな不思議な感覚を体感(?)していたら、突然温かいものが私を抱きしめた。これは、お姉ちゃんだ。顔を上げるような仕草をしたら、涙を流しているお姉ちゃんがいた。何度も、守ってあげられなくてごめんなさい。と言っている。もっと、早く正気に戻っていればとか。
お姉ちゃんと二人で、死んでしまったようだった。そう言えば、私たちを連れてきてくれた男の人は、どうなったのだろうと、周囲を見渡すが、いない。そもそも、ここには2人しかいなかった。真っ白な場所で、さっきまでいた場所とは、完全に違う場所だと分かる。これからどうすれば分からなかった。どうしようと困っていたら、周囲に私たち以外の存在が感じられた。お父さんとお母さん、長老や幼馴染の感覚。みんな死んでしまった事での再会。
みんなは、次に行く先を知っているようだった。私たちも行こうと、みんなの後を歩き始めた。周囲の真っ白さがだんだん暗くなっていった。気が付くと、男が連れてきた場所に似たところに着いた。
お母さんに聞いた。
『ここはどこ?』
『ここは、死んだ私たちが次に行くところを決める場所だよ。』
『どこへ行くの?』
『さぁねぇ~。全然分からない…。みんなとも、ここでお別れかもね。あなたたちも、いつかはここからどこかへ行くと思うわ。その時に悔いのないように、お姉ちゃんとお別れの挨拶をしておいてね。』
そんな声が聞こえ、終わったと思ったら、お母さんが輝き始めた。
『ああ、お別れね。今までありがとう。生まれ変わって覚えていたら、また私の子供として生まれてきてね。さようなら。』
輝きが最高レベルに達し、次の瞬間反転。お母さんがいた場所に黒いものが出たと思った次の瞬間、すーっとという感じで消えていった。お父さん、幼馴染の男の子、隣のまだ小さい女の子。そのお母さん…、次々に消えていく。気が付くと、残ったのは、またお姉ちゃんと2人。
私たちは、いつまで経っても、お母さんたちのようにならなかった。
時間の感覚がなくなっていたので、そこにどれくらいいたのかは分からなかった。
あの、ローブの男がここに来るまでは。
しかし、気になる点があった。出産した子供のこと。見間違えようもなく、男の子だった。単為生殖の私の場合、自分自身を出産して、出産した子供がある程度、18歳になると同時に今の身体から、その子に移動することが可能になる。もちろん、性別は女の子限定。
男の子の場合、単為生殖を選択できない。つまり、私はここで終わりってこと。もちろん、使命が消えるわけじゃない。私という意識の寿命が尽きただけ。集合意識体の中で、しばらく眠りに就く。次に起きるときには、全てが終わっているかもしれないけれど。
次の私は、おそらくあの集合意識体の中で生成中だろうし。夜見君ともしばらくはお別れね。次に会うのは、夜見君のことを知らない子だと思う。
***
走馬灯のように、昔を思い出した。
昔々、私がまだ普通の人間だった時の事。住んでいた村が燃えていた。盗賊団に襲撃され、家屋に火を放たれた。その日、私と姉は、近くの草原に薬草を探しに出かけていて、盗賊団には会わなかった。村の方で煙が上がっていることに気が付き、急いで村に戻ってみたのが、あの光景。まだ、盗賊が何人か残っていたので、なるべく音を立てないように、私たちの家族が住んでいた家へ近づいていったが、火がパチッと弾けた際に思わず、「わっ!」と声を出したら、姉妹ともに捕まってしまった。
売ればお金になるとか、この場で喰ってしまえとか、物騒な言葉が聞こえてくる。
シュパ
今まで聞いたことがないような音が何回か続いて、気が付くと盗賊たちの声が聞こえなくなっていた。目の前に立つ、黒いローブの男。声から男だと思った。
「大丈夫か?ここには、もう何もない。盗賊団の残りも戻ってくるかもしれない。この場から立ち去るといい。」
男は、そう行ったけれど、他の村などは行ったこともないし、行く方向も分からない。なにより、全ての物が焼けてしまった。村に残っていた両親も長老も、幼馴染も。何もする気力も湧かなかった。姉妹2人で放心状態だったのに、男は見捨てることなく、私をおぶって、姉の手を引いて、どこかに連れて行こうとしているらしい。
さっき、薬草を取っていた草原にやってきた。さっきは、草原を渡る風が気持ちよかったのに、今は何にも感じない。
男は、姉の手を放し、私を姉の隣に座らせた。
「ここまで来れば、盗賊に追いかけられることもない。少し準備をするから、そこで見つからないように隠れていろ。そのまま横になっていてもいいぞ。」
ここの草は、薬草を取っていた場所に比べて高いものが多い。座っていると、頭が少し出てしまうけれど、寝転んで入れば、気が付かれることはないと思った。でも、そんなことすらできない。村の光景が浮かんできてしまう。精神的ストレスはかなりのものなんだろうけど、まだ思考停止状態で、村の現実を受け入れられなかった。両親や村のみんなの最後に見たのは、ほんの数時間前なのだから。
男が何かをやっているようだ。声が聞こえる。でも、ぼんやりと聞いているだけで、そちらの方に行こうとする気力すらなかった。
男がいた方向から、ひと際強い風が吹いた。1回、2回、3回。
風が吹くたびに、草が飛んでいく。
「よし、できた。」
さっきと同じように、私をおぶって、姉の手を握り、さっきまで何かをやっていた場所へ。そこは、草がなくなって、土の面が出ていた。二重円に三角の組み合わせ、円と円の間には何かが書いてあるようだけれど、なんて書いてあるか分からない。うっすらと光っているようにも見える。
「ちっ、気づかれたか。」
耳元で矢の音がした。射かけられたようだった。
「転移魔法陣、起動!」
うっすらと光っていた二重円を始めとする模様が、全部、光り出した。
少しずつ、光量が上がっていく。
しかし、矢も多くなっていく。
「うっ…」
私の背中に突き刺さる矢。立て続けに刺さってくる感触が気持ち悪い。意識が遠くなる感覚。
周囲が真っ白になったと思ったら、草原ではなく、真っ暗の中に等間隔に光っている何かが置いてあるところにいた。
私は、背中に突き刺さった矢で体力を急激に消耗して、男の背中に留まることができず、滑り落ちてしまった。うっすらと目を開くと、お姉ちゃんも身体に矢が何本も突き刺さっていた。私と同じように、地面に倒れこんでいる。
「くそっ、毒まで。これじゃあ、助からん。」
よく見れば、男も何本か刺さっているらしい。でも、私が見ることができたのはそこまでだった。急激に周囲が暗くなっていく。呼吸が苦しい。思いっきり空気を吸って、吐くと同時に身体中の力が抜けていくのが分かった。
私は、死んだ。
死んだ身体から、私という存在が抜ける。抜けたばっかりだからかな。一部が薄くなっているけど、生前と同じ身体のように動ける。不思議。
そんな不思議な感覚を体感(?)していたら、突然温かいものが私を抱きしめた。これは、お姉ちゃんだ。顔を上げるような仕草をしたら、涙を流しているお姉ちゃんがいた。何度も、守ってあげられなくてごめんなさい。と言っている。もっと、早く正気に戻っていればとか。
お姉ちゃんと二人で、死んでしまったようだった。そう言えば、私たちを連れてきてくれた男の人は、どうなったのだろうと、周囲を見渡すが、いない。そもそも、ここには2人しかいなかった。真っ白な場所で、さっきまでいた場所とは、完全に違う場所だと分かる。これからどうすれば分からなかった。どうしようと困っていたら、周囲に私たち以外の存在が感じられた。お父さんとお母さん、長老や幼馴染の感覚。みんな死んでしまった事での再会。
みんなは、次に行く先を知っているようだった。私たちも行こうと、みんなの後を歩き始めた。周囲の真っ白さがだんだん暗くなっていった。気が付くと、男が連れてきた場所に似たところに着いた。
お母さんに聞いた。
『ここはどこ?』
『ここは、死んだ私たちが次に行くところを決める場所だよ。』
『どこへ行くの?』
『さぁねぇ~。全然分からない…。みんなとも、ここでお別れかもね。あなたたちも、いつかはここからどこかへ行くと思うわ。その時に悔いのないように、お姉ちゃんとお別れの挨拶をしておいてね。』
そんな声が聞こえ、終わったと思ったら、お母さんが輝き始めた。
『ああ、お別れね。今までありがとう。生まれ変わって覚えていたら、また私の子供として生まれてきてね。さようなら。』
輝きが最高レベルに達し、次の瞬間反転。お母さんがいた場所に黒いものが出たと思った次の瞬間、すーっとという感じで消えていった。お父さん、幼馴染の男の子、隣のまだ小さい女の子。そのお母さん…、次々に消えていく。気が付くと、残ったのは、またお姉ちゃんと2人。
私たちは、いつまで経っても、お母さんたちのようにならなかった。
時間の感覚がなくなっていたので、そこにどれくらいいたのかは分からなかった。
あの、ローブの男がここに来るまでは。
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