受付の不機嫌な彼女

遊良可不可

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第7話、大使館いう名の喫茶店

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 君津駅では乗客の大半が降りた。
 この人たち、どこに行くのか? 音楽フェスでもあるんではなかろうか、と晶子は想像した。
 改札を出て、広々とした駅前ロータリーを見て晶子は驚いた。
「君津って、結構大きい町なんですね」
「だろ、ビバホームとかアピタとか西松屋とか全部あって便利なんだわ」
「そういうのは、ちょい田舎にありがちです」
「そうなの?」
 気にする様子もなく舟橋は、なれた感じで東口と書かれた方向に進んだ。後をついて駅を出ると、そこもキレイに整備され、広い駐車場になっていた。ただ車も人も少ない。
「どうです、鴇田さん迎えに来てますか?」
 晶子は一番気になっていたことを聞いた。
 まぁ、どうせ写真と全然違うオジさんなんだろうけど、どうでもいいわ位の心境でいよう、と晶子は思いつつ、ちょっと心がウキウキする。
「おっ、LINE来ていた。便利だけど気づかねぇのが弱点だな」
 おじさんは設定ミスをアプリのせいにしがち。
「ちょっと署に寄って来るので三十分程遅れるらしい。駅前の『大使館』って名前のレストランで待ち合わせだって」
 スマホを仕舞った舟橋は、付近を見渡した。
「どこにあるんだ、そんな店」
 とりあえず、知らないそのお店に入ったら、捜査の前に何か食べておいた方がよさそうだと晶子は思った。名前が『大使館』というからには、何か老舗レストランっぽい。イタリアンか、フレンチか。
 駅前を舟橋と一通り探したが、それらしいレストランは見当たらない。
 やっぱりマップで調べようと思った時、「ここじゃないか」と舟橋が指さしたのは、さっき一度通り過ぎたお土産物屋のような店。確かに白いプラスティック看板に『大使館』と紫色の明朝体で書いてあった。
 イメージした落ち着いたレストランとは全然違う。
 気乗りしないながらも、舟橋について店に入ると、「いらっしゃいませ。あいてる席どこでもどうぞ」と人の良さそうな私服のおばさん店員に出迎えられた。店内は広く奥行きがあったが、客は二人しかいなかった。舟橋と晶子は入り口すぐの席に座った。
 テーブルには、透明下敷きに入ったメニューが置かれていた。そこには、カツサンド750円、カレー800円、ナポリタン800円、自慢のオムライスハンバーグBIG1000円と、学生が好きそうなワンパクメニューが並んでいた。
 しかも、田舎の喫茶店にしては高くないか? と思ったが、晶子は空腹だったので外れの少ないナポリタンを頼んだ。舟橋はメニューを見ずにアイスコーヒーをオーダーした。
 料理を待ちながら店内を見渡すと、壁には謎の油絵と少年マンガがいっぱい詰まった棚があった。名前の『大使館』的要素はどこにもない。
 これで鴇田の顔見てアウトだったら、速攻帰ろうと晶子は思いはじめた。
「鴇田にLINE返しておいた。返信ではあと十分程で来るそうだ」
「早くないですか」
 さっき三十分って聞いてから、まだあまり経ってないのに、時間の進みが早い。君津では時間の誤差が十分単位なのか? 
 できれば、ナポリタン食べている最中には鴇田に来てほしくないと思っていると、「はい、ナポリタンです」料理がすぐ出てきた。
 一目で、玉ねぎ多めの手作り感と、ケチャップ感のしっかりある、レベル高めナポリタンだと分かった。スポーツ新聞を手にして舟橋は地元オヤジモードなので、そこは無視して晶子はナポリタンに集中することにした。
「いただきます」
 パスタのゆで具合、玉ねぎがまろやかに絡む甘くてコクのあるトマトソースも好み。でもベチャベチャでもなく、オリーブオイルもしつこくない。これは当たりだ。味変は、粉チーズが先か、タバスコが先か……などと孤独のグルメ気分に晶子が浸っていると、店の引き戸が開く音がした。
 パスタを噛みしめながら目線を送ると、逆光の中に長身の人物が立っていた。
「よぉ、ここだ」舟橋が手を上げる。
 声に応えて、その人物は笑みを浮かべると、ナポリタンをほおばる晶子の席に近づいてきた。

 日焼けした肌に白いポロシャツ、短髪で広めのおでこ、しっかりした眉毛、大きくて優しい目、高い鼻、引き締まった口元。
 晶子の頭の中でイケメンパーツ照合が瞬時に働いた。
 間違いない鴇田だ。
 アイコンと見比べても、とさらに精悍に引き締まり、たくましくなっていた。
 いやこれは……男前マシマシだわ。岡田健史の若さを越えて、大人の雰囲気になって、ヒョンビン風味入ってる。わぁどうしよう。
 晶子の頭の中は麻薬成分が出たようになり、さっきまでのモヤモヤが一気に入れ替わった。
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