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 響も、ノーマルなヒート症状の処理相手が、発情しないフィアラル・アルファなら適任だと判断したのだろう。互いの同意もある。ただ彼を助けるだけ。それだけだ。
「最後まではしないよ。……響を楽にするだけだから」
 短く息を吐き、響の頰に手を添えた。
 濡れた目で見上げられ、ぞくりと背中が粟立つ。
 顔を近づけ、響の唇を塞いだ。
 初めてのキスだった。壱弥の人生で初めての。
 それは、痺れるように熱くて甘かった。「応急処置だ」と頭の中で何度も繰り返す。
 一瞬、すぐ側にある椅子の背にかけた自分のジャケットに意識が飛んだ。ジャケットの内ポケット。そこにはアルファ用の抑制剤が入っている。
 発情しないフィアラルであろうとアルファに変わりはない。薬の携帯は壱弥にも義務付けられている。
 けれど、実際に抑制剤が必要だと感じる場面は過去に一度もなかったから、持ち歩くのを忘れてしまったり、何ヶ月も新しい物と交換しなかったりと、薬の管理は正直おざなりだった。
 それなのに、今胸ポケットにある抑制剤はパッチタイプの最新型で、即効性のあるものだ。つい数日前、なんとなく買い替えていた。
 なんとなく、替えておいた方がいいと思った。
 昔から、壱弥の「なんとなく」は良く当たる。 
「……響、こっちも、触るよ」
 唇を離し、響のベルトを緩めた。パンツのフロントホックを外すと、壱弥の作業を助けるように、響の腰が浮く。
 キスも初めてなら、他人のものに触るのだってもちろん初めてだ。
 響のそれはしっかりと芯を持ち、先端は濡れていた。
「……っ、ん、……ごめ……こんなこと、させて……」
 響の声は震えている。快感か、それとも罪悪感か。大きな瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
「……謝らないで。大丈夫だよ」
 壱弥の声も震えていた。
「俺は、オメガのフェロモンに当てられない。絶対……響を傷つけない」
 自分に言い聞かせるように呟く。
 その間にも部屋を満たす響のフェロモンはさらにその濃さを増していく。
「っあ……!」
 ベッドに向かい合うように座り、響の熱い塊を上下に扱いた。
「んんっ……あ、はぁ……っ」
 響が甘く声を上げ、壱弥のシャツを掴む。快感に翻弄されている響を見て、喉が鳴った。
 気づけば、壱弥の下半身も痛いほどに張り詰めている。奥歯を噛み締めても、ふーふーと動物みたいな荒い息が抑えられない。
 響の甘い匂いが、声が、体温が、壱弥の脳髄まで染み込んでいく。
「……響……」
 名前を呼ぶ自分の声は、低く掠れている。
 響。響。……俺の響。
 激しい欲望と征服欲が、堰を切ったように湧き上がった。
 初めて知る強い感情は、けれどやけにしっくりと、壱弥の内側に馴染んでいく。
 それは、初めて知るというより、元からあったものが正しく作用し始めた、という感覚に近いような気がした。
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