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 手を動かしながら唇を塞ぐと、響も積極的に応えてくれる。絡まる舌は柔らかくて、熟した果実のように甘い。
 指先に響のカラーが触れた。うなじ部分を撫でると響のキスが深くなる。
 片手で響自身を慰め、片手は番になるための場所に触れている。
 響を自分だけのものにしたような、まるで、支配しているような気持ちになった。
 背中にぞくぞくとした興奮が走る。
 長いキスを終わらせ唇を離すと、溶けたような顔の響と目が合った。
 響の小さな頭を引き寄せ、また深い口付けを始める。そのままベッドへと押し倒し、響の上に覆い被さった。
 壱弥の頭は沸騰したようにうまく働かない一方で、ひどく冷静にこの状況を理解していた。
 これが正しい形だ。なんの問題もない。
 ――響を支配するのは俺なんだから。
 唇を首筋に移動させ、カラーのすぐ下あたりを強く吸った。
 響が身体を震わせ、甘く声を上げる。
 壱弥の五感は研ぎ澄まされ、響の全てを脳に刻み込む。
 響の塊から鳴る濡れた音、壱弥のシャツをきつく握る指先、汗を含んで額に張り付いた前髪、火傷してしまそうに熱い肌。
 そして、こぼれた大粒の涙。
 ずっとギリギリの表面張力に耐えていた響の大きな瞳が、ついに決壊した。 
「……俺……本当に、オメガなんだな……」
 赤く艶めいた響の唇が、独り言のように言葉を落とした。
 涙に濡れたその小さな声は、諦めや自嘲の色を含んでいて、響に似合っていなかった。
 強い引力に抵抗して、壱弥はなんとか響の上から身体を起こす。
 気を抜けばまた響に触れそうになるのを、自分の唇を噛んで堪える。血の味が広がり、その痛みに思考が少しまともになった。
「……いち、や……?」
「……響、……ちょっと、待ってて」
 肩で息をしながら、椅子にかけられたジャケットを掴む。ポケットを探り、抑制剤を取り出した。
 自分の襟元を引っ張ると、シャツの釦がいくつか飛んでいく。かまわず、鎖骨の下辺りにパッチ剤を貼った。
 ヒヤリとした感触に息を吐く。
「……壱弥……どうしたの……?だいじょ、ぶ……?」
 自分も苦しいだろうに、心配そうに壱弥を見上げる響に、混乱に近い衝動とも、凶暴な本能とも違う、温かな気持ちが広がる。
「……大丈夫、だよ。ごめんね。……今、楽にして、あげる」
 響の頭を撫でて、目尻にキスをする。
 辛そうに震える響のものを再び握った。
「っあ!……ん、い、ち……っ」
 ぶわりとフェロモンが匂い立ち、今にもその蜜に浸かってしまいそうになる。
 俺は響を支配したいんじゃない。大事にしたい。傷つけたくない。
 オメガだとかアルファだとか、バース性が何であろうと関係ない。
 響は俺の唯一で、全てだ。
 誰よりも、なによりも大事で大切な存在なんだと響に伝わるよう、興奮に震える手で、出来る限り優しく触れた。
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