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空を見上げる竜の涙
第一話
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籐の籠に入ったバケット。その独特の薫りに食欲を刺激されながら充は、黄金の蛙で出来たパイプの先から大口をあけて煙を吐き出すのを、胡乱に見つめた。
パイプの筒の半ばに煙草の草を入れる型のキセルで、火をつけると草の入れ場に蓋をする仕組みだ。扱いにくいキセルだが、充は気に入っている。
鴉の濡れ羽色の前髪を充は指先で弄る。
「そろそろ切らないといかんかな?」
じいさんのように、しゃがれた声に我ながら驚く充は、少し着崩した黒のブルゾンシャツで冷めた目を持ってビルの窓から行き交う者たちを見渡した。
「ゴミムシどもめ」
口は悪いが、表情は柔らかい。口と表情が別の生き物のようで少し不気味だ。
「充くん。そろそろ貴方も探偵として自立すべきだ」
齢80はとうに過ぎたとわかる皺の目立つ目尻やほうれいせんが堂に入った彼は南波重光。この南波探偵事務所の最高責任者である。
「重光さん、しかしですね。私は監視されています。個人行動はあらぬ疑いを持たれてしまうかもしれません」
まだ、18歳ほどにしか見えない充は、この南波探偵事務所の客にはバカにされるばかりだ。しかし、事件を解決する手際は不思議なほどに効率的で無駄がない。他の効率的である人間とは異質なやり方ではあるが。
「関係ないさ。客にはそれこそ気にするようなことではないじゃないか。君が苦労すればいいだけなんだよ。若いうちに苦労しておくべきだよ? 充くん」
重光は片眉をつり上げて、充の顔をなめ回すように見ると、フッと息を吐く。
「厄介者は出ていけと、そうはっきり言ってくださいよ? 重光さん」
忌ま忌ましいと言いたげな重光は、小さく舌打ちして充に言い負かされて終始苛立っている。
事務所の、整頓された書類棚。犯人との闘争の時の為の装備が立て掛けられた壁掛け。すべてが、絶妙な配置で置かれているのも充の手際だ。他の職員は重光とは違い充に有り難みを感じているくらいだ。
何が重光の癇に触るのか充は不思議でならない。出世はしないと重光自身が充に課した約束であるのだ。何を心配するのか、焦るのか。充には理解の外だった。人とは心理が複雑すぎる、と充はため息をひとつ吐いて首を重たげにふった。
パイプの筒の半ばに煙草の草を入れる型のキセルで、火をつけると草の入れ場に蓋をする仕組みだ。扱いにくいキセルだが、充は気に入っている。
鴉の濡れ羽色の前髪を充は指先で弄る。
「そろそろ切らないといかんかな?」
じいさんのように、しゃがれた声に我ながら驚く充は、少し着崩した黒のブルゾンシャツで冷めた目を持ってビルの窓から行き交う者たちを見渡した。
「ゴミムシどもめ」
口は悪いが、表情は柔らかい。口と表情が別の生き物のようで少し不気味だ。
「充くん。そろそろ貴方も探偵として自立すべきだ」
齢80はとうに過ぎたとわかる皺の目立つ目尻やほうれいせんが堂に入った彼は南波重光。この南波探偵事務所の最高責任者である。
「重光さん、しかしですね。私は監視されています。個人行動はあらぬ疑いを持たれてしまうかもしれません」
まだ、18歳ほどにしか見えない充は、この南波探偵事務所の客にはバカにされるばかりだ。しかし、事件を解決する手際は不思議なほどに効率的で無駄がない。他の効率的である人間とは異質なやり方ではあるが。
「関係ないさ。客にはそれこそ気にするようなことではないじゃないか。君が苦労すればいいだけなんだよ。若いうちに苦労しておくべきだよ? 充くん」
重光は片眉をつり上げて、充の顔をなめ回すように見ると、フッと息を吐く。
「厄介者は出ていけと、そうはっきり言ってくださいよ? 重光さん」
忌ま忌ましいと言いたげな重光は、小さく舌打ちして充に言い負かされて終始苛立っている。
事務所の、整頓された書類棚。犯人との闘争の時の為の装備が立て掛けられた壁掛け。すべてが、絶妙な配置で置かれているのも充の手際だ。他の職員は重光とは違い充に有り難みを感じているくらいだ。
何が重光の癇に触るのか充は不思議でならない。出世はしないと重光自身が充に課した約束であるのだ。何を心配するのか、焦るのか。充には理解の外だった。人とは心理が複雑すぎる、と充はため息をひとつ吐いて首を重たげにふった。
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