六道輪廻

山波斬破

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輪廻転生はまだ終えず

第一話 死して生を成す

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 私は自分の技を今まで研いてきた。たゆまぬ鍛練に型を繰り返し修正をしていく。

 息は乱れぬよう静かに。だが、力強く受け防御の型だけを。

 私の我流である体術は受けにこそ真骨頂がある。全ては受けに始まり受けに終わる。軽く汗を流し朝の鍛練を終える。

「ふむ、今日はこれくらいにしよう」

 稽古場である庭に向けて一礼。

「っす!」

 習慣になった礼節。誰も見ていなくとも忘れてはならない。自分を律するのだ。心に鬼を住まわせながら、表には出さない。

 鬼になるとき、それは人を殺めるときだ。だから、今の時代には役立たない鬼は内に秘めるにとどめる。


「よし、次は仏像を彫ろう」

 和室に並ぶ、木目が綺麗に見えるように上手く加工し特殊な薬液を塗布した仏像を見て、まだ鬼がいると知る。

 私のなかにはまだ戦いを待ち望む鬼がいると。木で出来ていて漆の作用なのか。私の腕が悪いのか煤けているように見えるようだが、光がある。殺意という鬼の。

 玉眼がいけないのか? なかなか鬼気迫るな。

「ふむ、この木材の大きさならば毘沙門天かな?」

 三眛耶形は、どうしようか? 棒で良いかな。宝塔がいいのだが、ふむ。やってみよう。

――――――――――――――――――――――――――

「むぅ……やはり鬼は抜けてはくれぬか」

 形相、構え、三眛耶形、どれをとっても鬼が宿る。何も持たず、何も構えず、何も浮かべぬ。それではただの木偶だ。魂が宿らねば。しかし、鬼を住まわせても良しとはせん。

 出来た仏像を、処理された仏像の横にならべる。ふむ、趣味ではじめてはみたが、難しくもなかなかに手先を使う、荒削りだがやはり自分で作ってみるとなかなか。

「私の今、作れる最高のものだ」

 少し満足感があるな。しかし、何が私のなかに鬼を住まわせているのか。私の技を活かせていないからか? ただ、自分と向き合うだけの技は何に活かすでもなし。教える相手もいない。子もいない。嫁も出来なかった。戦争も経験していない。

 大戦が始まるなんて、言われた時もあったがついぞ起こらなかった。起きても小競合いくらい。大戦にはならんかった。それに、兵器に頼る戦いだ。活かされない技は消えていくしかないのか。

 私は縁側に座り、茶を一服。

「む? 茶柱がたっている」

 少し幸せな気持ちになる。こうして、1日を過ごすようになってから何年たつか。旅をして、自分の作った銀や木の装飾品等を売りながら見て回った。

 しかし、世界をすぺて知れたとは言いきれない。強者と呼ばれる者を見てきたが、闘争心に任せて楽しむ者が多いこと。

 手合わせをすることもあったが、強いと有名な者はとにかく技がない。自分の身体に合った技を持たないのだ。それに受けが疎かだ。攻めばかり研ぐように鍛えているから隙が見える。

 私の会った者には居なかっただけかもしれん。

 一見隙がなくても、攻めれば隙を生む。どんな受けにも対応できる攻めがあれば、違うかもしれないが。力みがあれば、隙になるから難しい。

――――――――――――――――――――――

 麗らかな空気を感じた。私はとかく、人とのつながりは木工作品を売るときくらいなものだ。普段は山奥に自分で建てたあばら家みたいな場所に居を構えている。

 訪ねてくる者は、とにかく私を気にした役人くらいなものだ。生死の確認にやってくるのだ。私はまだ死なんよ。春の息吹きを感じながら、そっと縁側に座る。鳥の鳴き声や風の音や運ばれてくる優しい森の薫り。

 気性の荒い生き物も、たまに訪れたりもするが私を見れば一目散に逃げ出す。私はどうやら動物には殆ど好かれない。しかし鳥は別だ、鴉や鷹に梟などは私を見れば肩に止まりたがる。私は止まり木ではないのだが?

「ほれ、ネズミを食うか?」

 家で罠にかかったネズミを捌いた肉を、梟にやると啄んだ。

「お前も飽きもせずによく来るやつだ」

 そっと、立ち上がると梟は飛んで逃げるのが普通だが私はとにかく息を合わせて梟にバランスを崩させない事を心得ている。

「なかなか上手いこと欲を消せぬ」

 自分の中で眠る鬼は、ただ時を待つのみ。自ら起きようとはしない。それが、救いでもあるが戒めにもなる。戒燕として、死ぬ。決して鬼にはならないそう戒めるのが心を落ち着けた。

――――――――――――――――――――

 久しぶりに山を降りた。野山の動植物だけでは飽きるし、調味料も自前で作ってはいるが足りないからな。村でしかないここは、人口100人にも満たない。しかし、農業に従事した者が多く、おおらかな人柄の人間がほとんどだ。


 しかし、私は本当に平和なんて望んでいるのか。時に疑問を抱く。漫画や小説アニメ、その中の住人は闘争に生きるものが多くいる。それは、人間の欲求ではないか。そうも、思わないか自問する。確かに、そんなに危険ならば嫌だろう。だけど、自分が圧倒的に安全に闘争に生きれるならばと物語に入り込むのではないか……。ふむ、ならば私が戦記を好むのも頷ける。

 必要な調味料や食料を買い漁り帰路につく。だが、何故か不吉な予兆が次々におこる。今朝に見た夢を思い出す。赤い馬を見た、真っ赤な馬を。昔に流行った夢占いというもので、確か生命力的な不具合の予兆とも言われていたな、なんて思い出す。それに、黒猫に威嚇されたしいつもは穏やかな鴉が警告のように鳴き声をあげて私の帰路を邪魔する。

 まるで、最後の晩餐になるような予感を覚えながら大好きな白米に、昨夜から煮込んでいた自作の調合したスパイスで作ったカレーをかけてカレーライスにする。ふむ、死ぬのか? 私は……?

 舌に慣れ親しんだカレーと白米の調和に私は、しばし瞑目する。

「うむ、今日は瞑想しよう」

 夜も夜更けに私は縁側に座して、静かに瞑想に耽る。執念とも言うべきか、妄執か。私は死の後に待つ苦しみを夢想する。

「小腹が空いたな」

 私は死ぬとすれば、白米を食べながら死にたい。森の狩人たる梟がカレーライスの中の肉に目敏く気づき私の肩に止まる。

「私の死に立ち合うのは主か。お前も律儀なやつだ」

 やはり私も人であった。外縁にはなれなんだ。天狗、あるいは仙人を目指したがやはり無理があった。何かを世に遺せば良かったと、無我には至れず死に直面し後悔している。

 あぁ、死ぬのか。ポロリと米粒が口からこぼれ落ちた。

――――――――――――――――――――

 ひどく懐かしい温もりに包まれたような安心感が私を満たしていた。これが、死か?

 血のような生々しい匂い。不意に激痛が頭を締め付けるように襲いかかる。すわっ、地獄への入口か? などと思うが、こんな生ぬるい地獄があってたまるか。

「立派な角を持ち生まれたな」

 上手く呼吸が出来ない。なんだ? 角だと?

 額から伸びる何かの初めての感覚に戸惑いながら、私は額に手を伸ばすが届かない。えらく小さな体に違和感が半端ではない。これは……転生というやつだろうか?

「天が与えし名はアスラ。お前の名だ」

 アスラ? 阿修羅? 似ているが、どうなのであろうか? 私は外縁ではなく、修羅道に落ちたのだろうか?


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