六道輪廻

山波斬破

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輪廻転生はまだ終えず

第二話 冥族シラヌイ

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 生まれてすぐに、固形物を食べさせられた。蛾である。虫は栄養が豊富なのはわかる、歯が生えていたのも驚きながら食べたが、母乳ではないのはやはり歯があるからか?

 食べられるだけ幸せかもしれない、が。和食がもはや恋しい。まだ生まれて一日だが。和食が私の楽しみだからだ。大人たちは角が立派で毛深い。女性は体毛は濃くないが、立派な乳房を惜しげもなく晒している。美乳が多く、引き締まった肢体をしていて目のやり場に困る。


「アスラよ、お前の神通力はすさまじい可能性を秘めている。人は我らを迫害するが、神通力は人に恩恵をあたえているのに、嘆かわしく憎たらしい奴らだ」

 どうやら、鬼のような見た目からか悪鬼羅刹と思われているのか人間から迫害されているようだ。嫌われている理由は教えられなかった。

「シラヌイの血は受け継がれている。お前は人間からは鬼子と恐れられる血筋だ。精進せよ」


 シラヌイ……よく、わからないが鬼子とは。やはり修羅道なのか? 何かをつらぬきすぎて阿修羅と同じように善趣から外れたのか……?

「忘れるな。我らは天族に泥水を啜ってでも復讐せねばならん。シラヌイの娘を無理矢理に奪った奴らを」

 天族にシラヌイ……関係が帝釈天と阿修羅のようだ。偶然だろうか?

 シラヌイについても、天族についても今はよくわからないが、争いになるのは決まりのようだ。私はどうやらシラヌイという鬼子に生まれてしまったようだから、人間ではないらしい。


「お前は口数が少ないやつだなアスラよ。思慮深いのかアホかはわからないが」

 生まれたばかりの赤子に何を期待しているのか、この父は。まあ、話せなくはないんだがな。なんだか、話しづらい。父とは思えないからか。

「ふむ、お前の教育はお前の兄たちに任せるか」

 しかし、深緑に囲まれたこの拠点はなかなか生き物の気配が濃いな。絶滅種がたくさんいた日本では考えられない源住種がたくさんいるだろう。外来種ばかりに脅かされた日本では見られないような。

――――――――――――――――――――――――

「アスラ……お前は臆病だな」

 兄、シュラウトが私にそう睥睨して淡々と言い放つ。臆病とは的を射ている。私は力が怖いのだ。自分の力を御する自信がない。

 シュラウトは、兄として私には接しない。腹違いの兄だから。シラヌイの血は継いではいないようだ。シラヌイの血はシラヌイ同士で掛け合わせてしか継がれないらしい。

「力を御するには受け入れねばならない」

 シラヌイではないシュラウトに、神通力はあまり宿っていない。しかし、神通力は自分の願いを具現化する力だ。魔法のような物かな。世界の理は曲げられないが、凄まじい力だ。私はこの神通力が怖い。闘争を引き起こす引き金になりかねない。血で注ぐ闘争の始まりは大きな力が原因であることもある。

「下っ端のシラヌイも継げないような俺にはよくわからないがな。神通力でいつかは冥族に平穏がやってくることを願うよ」

 平穏か。血で血を洗う闘争にはならないことを祈ろう。
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