殿下、私も恋というものを知りました。だから追いかけないでくださいませ。

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8.噂

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 それからも、殿下は時々私の教室に押し掛けてきた。

「レイチェル、お願いだ。俺ともう一度婚約してくれ!もう耐えられないっ……。」
「無理ですわ……。」
 丁寧にお断りしていると彼の背後には
「殿下、探しましたのよ。」
 殿下の肩を叩いて微笑むクラーラ様。
「ク、クラーラっ!!こ、これは……レイチェルぅ~~~~っ!!」
  と、悲痛な声を上げながら殿下はクラーラ様に連れ戻されていた。

 別の日には研究室に駆け込んできて、

「レイチェル、見てくれっ!この俺の美しい肌にオデキが出来たんだ。ストレスに違いないっ!!どうにかしてくれ!」
オデキぐらいで大騒ぎして私の所に助けを求めてやってきて
「殿下、オデキの治療は侍医に任せましょう。さあ!行きますわよ。」
「ス、ストレスがあるんだぁーーーーっ!!」

 またもやクラーラ様に連れ戻されたりしていた。
 
 学園の名物になりつつある。





 やがて、ディアーク殿下は放課後、拉致されるかの如く、ツリメーノ公爵家へと連れ去られるようになった。臣籍降下するための教育がツリメーノ公爵夫人に任されたそうだ。

 それ以来殿下はバネで出来た姿勢矯正スーツを制服の下に身に付けているようで、動く度にガチャガチャ音がしていた。
 授業中煩いらしい。

 一年もすれば殿下はツリメーノ公爵のように、定規みたいな姿勢を身につけるのだろう。

 殿下は時々クラーラ様の目を盗んで私に会いに来るけど、気が付くとクラーラ様は背後に立っている。
 全く無理やりには見えないのに、速やかに殿下を連れ去る手腕は見事としか言いようが無い。

 時々機械仕掛けの人形のように廊下を歩く殿下を見掛ける。もう鏡の前でポージングすることも、奇妙な独り言を呟くことも無くなった。






 それは偶然だった。

「生徒会の顧問の先生が代わるらしいですわ!」

「え?こんな中途半端な時期に?今の先生は楽な方でしたのに……。次はいったい誰になるんですの?」

「ラシャド先生ですって。」 

「まあっ!厳しい先生ですわね。困りましたわ。」
 
 生徒会室に書類を取りに行ったらこんな会話が耳に入ってきた。 
 
 え?
 顧問がクロヴィス先生じゃ無くなるの?
 毎日会っているのに、そんな話聞いたことない。

 私はその噂話をしていた女子生徒に話の真偽を尋ねた。

「その話、本当ですの?誰から聞いたのですか?」

「担任の先生が言ってらしたわ?なんでもお辞めになるそうです。」

 そんな!!

 あんなに研究が好きな先生が?









「クロヴィス先生、ウェリタス王立学園を辞めちゃうんですか?」

 私はノックも忘れて、先生の研究室に駆け込んだ。

「あっ?ああ、お前か。ちょっと思うところがあってな。」

「え?研究は?」

「しばらく休むことにした。ちょうど一段落ついたところなんだ。」

 先生は荷物を整理していた。辞めるなんて、そんな大切な事を教えてくれないのが寂しかった。

「直ぐに辞めるんですか?私の卒業まで待っててくれないんですね。」

 卒業までに先生を口説き落とそうと思ってたのに、突然お別れなんて……。先生は私の方を見ないまま淡々と部屋を片付けていた。俯いていて、その表情は見えない。
 
「ああ、急ぐんだ。勉強は続けろよ?」

「私の成績知らないんですか?」

  先生の背中に可愛くない言葉を投げ掛けた。

「知ってるさ。頑張り屋の所も……な。」

 先生は短い挨拶だけして、学園を去っていった。
 荷物を運び出す作業が大変で、別れを惜しむ暇もない。呆気なさ過ぎて、頭の整理が追い付かなかった。

 放課後、いつも通り研究室に来ると部屋にはもう誰も居なかった。
 先生が埋もれそうなほど多かった本や書類は無くなり、研究室はがらんとしていて……。

「どうやって片付けたんだか……。」

 座る場所も、物を置く場所も無くて狭く感じていた部屋は嘘みたいに広かった。

 あの古い本の埃っぽい匂いなんてしない。カーテンは開けられ部屋の中には明るい日差しが燦々と降り注ぐ。
 
 「告白……したのに……。」
 
 私、フラれたのかな?
 寂しくて、学園生活が急に楽しくなくなって、卒業までの日々を茫然と過ごしていた。
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