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プロポーズ
しおりを挟む後日、アルフレード殿下は、魔法王国イシュールで聖魔力を魔法陣に保存出来る方法を見つけたことを発表した。
いつの日にか再び結界が壊れても、集めて保存していた魔力で結界を作れるようになるらしい。
そのために聖魔力の高い者を募り、少しずつ魔力を貯めていくことになった。
数十年後には、この国を覆う結界を張れるだけの魔力が貯まる。
なんて素晴らしいんだろう。
これでもう、誰かが犠牲になることはない。
☆
「ねぇ、これで良いと思う?」
「はい、思いますよ。リズリーネ様は何を着てもお美しいですから」
「もうっ!からかわないで。アルったら、どこに行くか教えてくれないんだもの」
今日は私の誕生日。
アルがデートに誘ってくれたので今はその準備中。
アルとは彼の帰国後何回かデートをしていた。だけど、決定的な言葉はまだ。
そろそろだとは思っているんだけどなぁ。
私達は、付き合い初めの初々しい恋人同士のような時間を楽しんでいた。
何回かデートを重ねるうちに少しずつ距離が近くなり、最近では愛称で呼び合うようになったし、街を歩くときは手を繋いだりなんかもしちゃう。ちょっぴり恥ずかしかったけれど、手を繋いでぶんぶん腕を振って歩く私達は、普通の恋人同士。
アルは私との時間をやり直してくれているんだ。そう思うと嬉しかった。
☆
屋敷まで迎えに来てくれたアルはいつものラフな服装とは違って、紺よりはやや青みの強いスーツを品よく着こなしていた。
かくいう私も、いつもより気合いの入ったドレス。誕生日という記念日だし、何か特別なことがあるかもしれない、なんて期待していた。
アルが計画してくれたデートコースはオペラ鑑賞後、ちょっとお洒落なお店でのディナー。
人気の演目で、冷たい姫が真実の愛を知るストーリー。
ボックス席で、二人きり。アルが手を繋ぐから、ちょっと緊張して、あまり集中出来なかった。
そしてディナーの後、海辺に案内された。
「もう少ししたら送るから。ちょっとだけ見せたいものがあるんだ」
夜の海は果て無く暗くてちょっと怖い。風が強くて身震いすると、アルが私の肩に優しく手を回し抱き寄せてくれた。
頭をアルの肩に預け、規則的な波の音が耳に響くのを心地よく聞いていた。
「ちょっと待っててね。そろそろだから」
何を待っているのだろう。アルはしきりに空を気にしている。
「はじまるよ」
アルが指差した方向の空を見た。
シュルシュルと花火のような音が聞こえる。
そしてーー
「あっ!」
夜の空に浮かぶ赤い薔薇。よく見るとそれは赤い光で、チカチカと点いたり消えたりしている。
赤い光は次々と空に浮かんで、真っ赤な薔薇の花束を形造った。
「何、これ?」
「魔法陣で作ったんだよ。俺の魔力を込めたんだ」
「アルの魔力……」
「イシュールではこうやって愛を伝えるのが流行ってるんだ。もっと規模は小さいけどね。せっかくだから大きくって思ったけど、大きすぎたかな?」
えへっ、なんて……悪戯っぽく笑うレベルじゃない。
目の前の空全体に広がっていく光の薔薇。
それは、花火にも似ているけど、いつまでも消えずに空を彩り続けていた。
大きくて赤い薔薇はあまりにも目立つから、街中の人たちが「なんの騒ぎだ?」と家からぞろぞろと出てきた。
「目立つわ」
「いいんだ。やっと堂々とプロポーズ出来るようになったから」
私はちょっと恥ずかしいのに、アルは余裕で。
彼は私から身体を離して、今度は目の前に立った。そしてうやうやしく私の手を取り跪く。
「リズリーネ、俺と結婚して欲しい。君の未来の幸せを約束するから、お願いだ、どうか俺の手を取って」
大勢の人のが固唾を呑んで見守る。
アルは真剣な表情。選んだのは真面目な彼らしいプロポーズの言葉。それが嬉しくて……。
「はい」
「「「おーーっ!!」」」
私が殿下の手を取ると、周囲にいた人たちが拍手をして「おめでとう、兄ちゃん」なんて、お祝いしてくれた。
彼らは今プロポーズしているのが、この国の次期国王だとは知らない。
アルは立ち上がると、ほっとしたように笑って、私の身体を抱きしめた。
「ずっと自信が無くて……。君があまりに素敵過ぎて、俺はどうやったら君に相応しくなれるのかをずっと考えてたんだ。だけど、旅に出たら……リズ、君が恋しくて、恋しくて。格好つけて『相応しい男になる』なんて言ってたけど、君が他のヤツを好きにならないか心配だった。馬鹿だな、ずっと後悔していた。君がそばにいてくれたら、俺はもう君を離さないし間違えない」
空に浮かぶ赤い薔薇は、浮かんでは消えてを繰り返し夜の空を華やかに演出している。
その華々しい光景と、目の前で繰り広げられるプロポーズに、人々からの拍手と祝福の口笛は鳴り止まない。
「キス……していい?」
「こんな人前で?」
「結婚式も人前だよ」
やっぱり彼は少し変わった。以前の彼ならこんな大勢の人の前でそんな事言わなかっただろう。
「ん?」
眉を上げ、私の意思を確認してくる。その堂々した様子に、私も覚悟を決めた。
「うん」
顔を上げギュッと目を閉じる。
確か、キスってこうするんだよね?
アルが息を呑む微かな気配。私の頬に乾いた指が添えられて……。柔らかい何かが唇に触れる。
大きくなる歓声。だけど、その音は不思議と遠く感じた。
「はぁー」
唇が離れると、すぐに彼は私を胸の中に抱き込み短く息を吐いた。キスをしていた瞬間より、今の方が鼓動が激しい。彼の胸の中で私の体温がどんどん上がっていって、熱くてたまらない。
彼の匂いに包まれながら、真っ赤な顔が見られなくて良かった、なんて思う。
周囲の人々はまだ騒がしい。空の薔薇はまだ消えないのだろうか?
恥ずかしくて、私はこの場から消えてしまいたいと思いながらも、その胸の中があまりに心地良くて『このままずっとくっついていたいな』なんて思ってもいた。
ーー(完)ーー
※神様のお話オマケで1話あります。
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