異界からの救世主が来て、聖女の私はお役御免です。

文字の大きさ
25 / 26

プロポーズ

しおりを挟む


 後日、アルフレード殿下は、魔法王国イシュールで聖魔力を魔法陣に保存出来る方法を見つけたことを発表した。
 いつの日にか再び結界が壊れても、集めて保存していた魔力で結界を作れるようになるらしい。
 そのために聖魔力の高い者を募り、少しずつ魔力を貯めていくことになった。
 数十年後には、この国を覆う結界を張れるだけの魔力が貯まる。

 なんて素晴らしいんだろう。
 これでもう、誰かが犠牲になることはない。
 






 
「ねぇ、これで良いと思う?」

「はい、思いますよ。リズリーネ様は何を着てもお美しいですから」

「もうっ!からかわないで。アルったら、どこに行くか教えてくれないんだもの」

 今日は私の誕生日。
 アルがデートに誘ってくれたので今はその準備中。

 アルとは彼の帰国後何回かデートをしていた。だけど、決定的な言葉はまだ。
 そろそろだとは思っているんだけどなぁ。

 私達は、付き合い初めの初々しい恋人同士のような時間を楽しんでいた。
 何回かデートを重ねるうちに少しずつ距離が近くなり、最近では愛称で呼び合うようになったし、街を歩くときは手を繋いだりなんかもしちゃう。ちょっぴり恥ずかしかったけれど、手を繋いでぶんぶん腕を振って歩く私達は、普通の恋人同士。

 アルは私との時間をやり直してくれているんだ。そう思うと嬉しかった。



 
 
 屋敷まで迎えに来てくれたアルはいつものラフな服装とは違って、紺よりはやや青みの強いスーツを品よく着こなしていた。

 かくいう私も、いつもより気合いの入ったドレス。誕生日という記念日だし、何か特別なことがあるかもしれない、なんて期待していた。

 アルが計画してくれたデートコースはオペラ鑑賞後、ちょっとお洒落なお店でのディナー。

 人気の演目で、冷たい姫が真実の愛を知るストーリー。
 ボックス席で、二人きり。アルが手を繋ぐから、ちょっと緊張して、あまり集中出来なかった。

 そしてディナーの後、海辺に案内された。
 
「もう少ししたら送るから。ちょっとだけ見せたいものがあるんだ」

 夜の海は果て無く暗くてちょっと怖い。風が強くて身震いすると、アルが私の肩に優しく手を回し抱き寄せてくれた。
 頭をアルの肩に預け、規則的な波の音が耳に響くのを心地よく聞いていた。

「ちょっと待っててね。そろそろだから」

 何を待っているのだろう。アルはしきりに空を気にしている。

「はじまるよ」

 アルが指差した方向の空を見た。

 シュルシュルと花火のような音が聞こえる。
 そしてーー

「あっ!」

 夜の空に浮かぶ赤い薔薇。よく見るとそれは赤い光で、チカチカと点いたり消えたりしている。
 赤い光は次々と空に浮かんで、真っ赤な薔薇の花束を形造った。

「何、これ?」

「魔法陣で作ったんだよ。俺の魔力を込めたんだ」

「アルの魔力……」

「イシュールではこうやって愛を伝えるのが流行ってるんだ。もっと規模は小さいけどね。せっかくだから大きくって思ったけど、大きすぎたかな?」

 えへっ、なんて……悪戯っぽく笑うレベルじゃない。
 目の前の空全体に広がっていく光の薔薇。
 それは、花火にも似ているけど、いつまでも消えずに空を彩り続けていた。

 大きくて赤い薔薇はあまりにも目立つから、街中の人たちが「なんの騒ぎだ?」と家からぞろぞろと出てきた。

「目立つわ」

「いいんだ。やっと堂々とプロポーズ出来るようになったから」

 私はちょっと恥ずかしいのに、アルは余裕で。
 彼は私から身体を離して、今度は目の前に立った。そしてうやうやしく私の手を取り跪く。

「リズリーネ、俺と結婚して欲しい。君の未来の幸せを約束するから、お願いだ、どうか俺の手を取って」

 大勢の人のが固唾を呑んで見守る。
 アルは真剣な表情。選んだのは真面目な彼らしいプロポーズの言葉。それが嬉しくて……。

「はい」

「「「おーーっ!!」」」

 私が殿下の手を取ると、周囲にいた人たちが拍手をして「おめでとう、兄ちゃん」なんて、お祝いしてくれた。

 彼らは今プロポーズしているのが、この国の次期国王だとは知らない。

 アルは立ち上がると、ほっとしたように笑って、私の身体を抱きしめた。

「ずっと自信が無くて……。君があまりに素敵過ぎて、俺はどうやったら君に相応しくなれるのかをずっと考えてたんだ。だけど、旅に出たら……リズ、君が恋しくて、恋しくて。格好つけて『相応しい男になる』なんて言ってたけど、君が他のヤツを好きにならないか心配だった。馬鹿だな、ずっと後悔していた。君がそばにいてくれたら、俺はもう君を離さないし間違えない」
 
 空に浮かぶ赤い薔薇は、浮かんでは消えてを繰り返し夜の空を華やかに演出している。

 その華々しい光景と、目の前で繰り広げられるプロポーズに、人々からの拍手と祝福の口笛は鳴り止まない。

「キス……していい?」
「こんな人前で?」
「結婚式も人前だよ」

 やっぱり彼は少し変わった。以前の彼ならこんな大勢の人の前でそんな事言わなかっただろう。
 
「ん?」

 眉を上げ、私の意思を確認してくる。その堂々した様子に、私も覚悟を決めた。

「うん」

 顔を上げギュッと目を閉じる。
 確か、キスってこうするんだよね?

 アルが息を呑む微かな気配。私の頬に乾いた指が添えられて……。柔らかい何かが唇に触れる。

 大きくなる歓声。だけど、その音は不思議と遠く感じた。

「はぁー」

 唇が離れると、すぐに彼は私を胸の中に抱き込み短く息を吐いた。キスをしていた瞬間より、今の方が鼓動が激しい。彼の胸の中で私の体温がどんどん上がっていって、熱くてたまらない。

 彼の匂いに包まれながら、真っ赤な顔が見られなくて良かった、なんて思う。

 周囲の人々はまだ騒がしい。空の薔薇はまだ消えないのだろうか?

 恥ずかしくて、私はこの場から消えてしまいたいと思いながらも、その胸の中があまりに心地良くて『このままずっとくっついていたいな』なんて思ってもいた。



ーー(完)ーー


 

※神様のお話オマケで1話あります。
しおりを挟む
感想 144

あなたにおすすめの小説

過去の青き聖女、未来の白き令嬢

手嶋ゆき
恋愛
私は聖女で、その結婚相手は王子様だと前から決まっていた。聖女を国につなぎ止めるだけの結婚。そして、聖女の力はいずれ王国にとって不要になる。 一方、外見も内面も私が勝てないような公爵家の「白き令嬢」が王子に近づいていた。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~

サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

黒の聖女、白の聖女に復讐したい

夜桜
恋愛
婚約破棄だ。 その言葉を口にした瞬間、婚約者は死ぬ。 黒の聖女・エイトは伯爵と婚約していた。 だが、伯爵は白の聖女として有名なエイトの妹と関係をもっていた。 だから、言ってはならない“あの言葉”を口にした瞬間、伯爵は罰を受けるのだった。 ※イラストは登場人物の『アインス』です

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

聖水を作り続ける聖女 〜 婚約破棄しておきながら、今さら欲しいと言われても困ります!〜

手嶋ゆき
恋愛
 「ユリエ!! お前との婚約は破棄だ! 今すぐこの国から出て行け!」  バッド王太子殿下に突然婚約破棄されたユリエ。  さらにユリエの妹が、追い打ちをかける。  窮地に立たされるユリエだったが、彼女を救おうと抱きかかえる者がいた——。 ※一万文字以内の短編です。 ※小説家になろう様など他サイトにも投稿しています。

処理中です...