微笑みの貴公子に婚約解消された私は氷の貴公子に恋人のふりを頼まれました

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シリル視点③

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 ようやくこの日を迎えた。

 今日は僕とヴィアの結婚式。グラディウス公爵家は、代々王都にあるマーテル大聖堂で結婚式を行うことになっている。

 おととい僕はヴィアと初めてのキスをした。

 本当はもっと余裕たっぷりにリードしたかったのに……あんなにあたふたしている姿を見られて恥ずかしい。
 ヴィアへの気持ちを自覚してから、何度も頭の中でキスをした。経験の無い僕は、唇が柔らかいとかそんな想像だけをしていて……。

 けど、現実のキスは、唇のほんのり濡れた感触も、肌の匂いも、頬に触れた手から伝わる体温も……。全てが生々しくて……。

 ジリジリと理性が焼かれる音が聞こえた。

 もっとヴィアの全てを暴きたいなんて衝動を抑えるのが難しい。ヴィアはそんな僕の葛藤に気付きもしないで、僕の胸の中でのんびりと忍び笑いを漏らす。そんな彼女の耳だって熟れた果実みたいに赤かった。





~・~・~・~・~







「どう?変じゃ無い?」

「……」

 純白のウェディングドレス姿。僕の花嫁になるために美しく着飾ってくれた彼女。
 優しい白で艶のある生地は、余計なレースやフリルが無くて、彼女の柔らかな曲線を強調していた。
 どうしよう、ヴィアって可愛すぎない?

「シリル?」
「綺麗だよ。そんな言葉じゃ足りないほど。ヴィアと結婚出来るなんて、夢みたいだ」
「……っ?大袈裟っ」

 モジモジと赤くなるヴィアは、ちょっと照れているらしい。
 そんな彼女を見ていたら、結婚式など取りやめて今すぐ寝所に籠りたくなる。大勢の招待客にこの姿を披露するのがもったいない!

 抱きしめたくて手を伸ばした僕を、ヴィアが制した。
「駄目よ。髪型が崩れちゃうわ」
「ごめん……」

 確かにこの花嫁姿は、公爵家の侍女たちの力作だ。崩してしまっては、僕が非難されるだろう。

 こんなに美しくて可愛くて魅力的なヴィアに触れられないのか……。

 マーテル大聖堂で執り行われる結婚式には王族も招待されていた。我が家は筆頭公爵家でありレオナルド王太子殿下を招待するのは当然なのだが、殿下にだけはヴィアのウェディングドレス姿を見せたく無い。

 心が狭い?そんな事とうに分かってる。


 高く遠く鳴り響く大聖堂の鐘の音。
 歴史ある大聖堂での結婚式は格式高く厳かな雰囲気。
 
 カリテス伯爵にエスコートされヴァージンロードを歩くヴィアを心が引き締まるような気持ちで見ていた。
 王族も招待されている結婚式。カリテス伯爵は少し緊張した面持ち。一方のヴィアは真剣な表情ながらもどこか楽しんでいて余裕があるように見えた。普通の伯爵令嬢ならば、足が震えてしまいそうなものだが、彼女はおっとりとしていて、悠然と構える。元々もっている気質なのかもしれない。

 大聖堂の中、高い窓から差し込む光が彼女の輪郭を縁取ってその楚々とした姿を浮かび上がらせていた。まるで、天から舞い降りた女神のような神々しさで……。

 それはなんという感情なのだろう。嬉しいだけでも無いし、緊張ともちょっと違う。ただ胸がいっぱいになって涙が出そうになった。
 焦がれるって言葉がぴったりだと思う。胸が熱くて焼けそうで……そんな気持ちで彼女が僕の隣に立つ瞬間を待っていた。
 
 結婚の宣誓を読み上げた後は、誓いの口づけ。僕ももちろん緊張していたけど……ヴィアは真っ赤だった。
 
 礼式に則って行う作法でヴィアはこんなにも動揺しなかった。そんな彼女が僕との誓いのキスで表情を崩してしまうことが嬉しい。
 練習通りの軽い口づけ。 
 なんてことのない、唇を合わせる、たったそれだけの行為。なのに身体が幸せな気持ちで満たされた。

「失敗しなくて良かった」
「うん」

 二人にだけ聞こえる声で会話を交わし、招待客に見えないようこっそりと微笑み合う。

 帰国して恋人になって初めて見えてきた素のフラヴィアは、僕が想像していた大人の女性とは大きく違った。
 けれど、等身大の彼女が可愛いくて、会う度にどんどん好意が強くなった。
 欠点も見えてきた。それは欠点ともいえないぐらいのささやかなものだったけど。
 知的で穏やかな性格を好んでいたが、彼女は公爵家に嫁ぐには、お人好し過ぎるし、他人からの悪意に疎い。まあ、それは僕がこれからフォローしていけばいい問題だ。

 
 格式ばった儀礼は全て終わり、開放されたような気持ちで大聖堂を出る。
 目に飛び込む太陽の眩しさに目を細めて空を見上げた。 

「晴れて良かったわ」
「ああ、そうだね」

 僕達が階段を降りると、招待客が色とりどりの花弁を撒いてくれた。空の青に花弁の赤やピンクの鮮やかな色彩はよく映えていて……。

「ふふっ、幸せね」
「うん」

 フラワーシャワーを撒く少女たちの笑顔も、青空も、太陽の光も、歓声も……。全てに祝福されているような気がして幸せだった。

 そんなに信心深い性格じゃない。だけど、僕はなんだかじんとして、神様に心からヴィアを幸せにすることを誓ったんだ。



 そして僕達は国一番の幸せな夫婦になった。



ーー(完)ーー


※一旦完結します。

ここまでお付き合いくださった皆様、ありがとうございます。


 
 

 
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感想 87

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みんなの感想(87件)

あつき
2022.06.09 あつき

こんにちは_(._.)_

また読みたくなって一気に読んでしまいました(*^_^*)
初夜や結婚休暇のことなど番外編お願いしたいです_(._.)_
できれば二人に子どもができるところも読んでみたいです( ´艸`)

2022.06.09

あつき様🌻
こんにちワン♪
    )レz
   _/   \_
  // . ● 、\ \
 ( | ヽ_ノ | )
   ̄\   / ̄
   [二二二]
   ( O )_ノ|
   (ヽzイ /人_ノ
    >∪∪<
また読んでいただけるなんて光栄です!
番外編ですね!
何かイベント時に合わせて考えてみようかな。
リクエストありがとうございます。


🎵 🎵  🎵🎵🎵
🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵
🎵🎵🎵🎵🎵🎵🎵
🎵🎵 🎵🎵
🎵🎵🎵🎵🎵🎵
🎵🎵🎵🎵🎵
🎵🎵🎵
🎵

解除
宇水涼麻
2022.05.01 宇水涼麻

ミリー視点の途中から侯爵の名前が変わっております。――誤字脱字報告――

お話はとても面白かったです。
ヒロインののほほん加減が萌えますね。

2022.05.02

宇水涼麻さま🌸
ご指摘ありがとうございます
  ∧_∧
  (*´>ω<`*)〃
  γ⌒;´-ヽ〟
  (∪(   )
  ∪∪V ̄V

ぽ、ポンコツで申し訳ありません💦💦

解除
柚木ゆず
2022.02.06 柚木ゆず

本日も、こちらの世界にお邪魔しております。

好きなシーンは、いくつもあるのですが。やはりラストのシーン、好きですね……!
こちらは(こちらも、なのですが)、何度も何度も見たくなります……っ。

2022.02.08

柚木ゆず様〜🌟
何度も読んでくださりありがとうございます💖

甘々が足りないかもと思っているので、いつか番外編追加したいです!

解除

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