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番さんに会いました!
しおりを挟む番に会えないままレネールに戻るのは嫌。でも獣人だと気付いて貰えないまま、ここで殺されちゃったらどうしよう……。
ずっとキューキュー鳴いていたら、急に噎せるような甘い匂いに包まれた。
……この匂い……。
もしかして……番の匂い?
私は声を振り絞ってより一層高い声を出し番さんを呼んだ。
(番さーーん)
匂いがだんだん濃くなって番さんが近づいてくるのが分かる。
「あー、こんな所にチンチラが引っ掛かってらー」
姿を表したのは、背が高くて整った顔立ちの男性と、男性に腕を絡めた女性。
まるで恋人同士みたいに寄り添っている。
「鳴き声はここだったの?きゃー、可愛いっ!!うさぎ?」
「いや、違う。チンチラだよ」
「チンチラ?……まあ、いいわ。それにしても白くてふわふわで可愛いわねー」
「キューキュー」(番さん、助けて……)
「あー足怪我してら」
番さんは私のそばに近づいてくるとしゃがんで慎重に足を罠から外してくれた。
ガチャッーーー
引っ掛かっていた後ろ足が外され動けるようになった。番さんは私の事が番だって分かっているのかしら?
直ぐに人化して「私が貴方の番のエラトです」って言いたい!
けれどーーそこではっと気がついた。
……このまま人の姿になると、
服を着ていないから恥ずかしい……。
私は急いで番さんの前から走り去った。
罠で傷付いた踵が地面に付くたびに痛い。
でもーー番さんに会えた!
番さんはこの街に居ることは分かったし、顔も覚えた!
今度はちゃんと人の姿で可愛い服を着て番さんと出逢いたい!
夜道を走って宿に帰り、もう居ないかなと思いつつも人化して服を着て港に戻った。けれど倉庫に人の姿は既になくて……。
あの女の人と一緒に居るのだろうか?
恋人??
ただの友達には見えなかった。恋人がいたら番さんを諦めなきゃいけないのかな……。
番さんに会えた高揚感と不安や嫉妬……。よく分からない感情が渦巻いて胸がザワザワする。
「うーん、悪い事は考えない!」
悪い想像は首を振って頭の中から吹き飛ばす!
私の長所は元気だけだもの!
私は翌日、ベンさんに近くで住み込みで働ける場所を教えて貰った。
この街で暫く滞在してもう一度番さんに会いたい。恋人が居るかもだけど、このまま諦めるのは嫌だった。
~・~・~・~・~
「いらっしゃいませ!」
「俺、焼き魚定食!」
「俺は日替わりで!」
「はーい!」
私は今、ラザニさんの店で働いている。港に近い定食屋さん。市場で働く人たちがよくお昼ご飯を食べにくるお店だ。
ラザニさんはデラさんの弟さんなんだって。
いつも一緒に店を切り盛りしている奥さんのミアさんが今は妊娠中で、大変らしい。
「ちょうど元気な子を探してたんだ。エラトちゃんなら大歓迎さ」
ラザニさんはそう言って私を快く雇ってくれた。このお店は仕事中に食べにくるお客さんが多いから、愛想の良い子の方が助かるんだって。
あれからずっと街には番の気配があるのに会えずにいた。
けれどある日ーー
「こんにちは、私の番さん!」
私は、買い物中に番さんを見つけて駆け寄った。
番って凄い!
匂いだけで幸せな気持ちになって、今まで見ていた景色が輝いて見える。
まずはお名前を教えてもらわなくちゃ!
「お名前は何ですか?」
「は?お前……何?」
番さんとの再会。私は嬉しいのに、番さんは面倒くさそうに振り向いた。
「私はチンチラ獣人のエラトです。この前、倉庫で助けてくれてありがとう」
「チンチラ?……ああ、あのチンチラはお前なの?」
「はい。……私この国まで番さんを探しにきたんです。匂いをたよりに番さんを探してたら罠に引っ掛かっちゃって……番さんが助けてくれて嬉しかった。お礼も言えずに逃げてごめんなさい」
「え?……俺がお前の番って事?参ったな……獣人って番一筋なんだよな……確か……」
番さんはポリポリ頭を掻きながら困ったように私を見ていた。
「ルカ、その子誰?迷子なの?」
番さんの背後から綺麗な女性が話し掛けてきた。以前会った時に腕を組んでいたのとは別の人。やっぱり友達には見えなくて、番さんの腕をベタベタと触っている。
どちらかが、恋人なのだろうか?
「いや、俺が番だって言うんだ」
女性はチラリと私に視線を走らせると
「子供じゃないの」と嗤った。
子供?
改めて、自分を見てみると、確かに背が低くてズボンを履いてリュックを背負う私はこの国では子供みたいかもしれない。
何だか急に自分が恥ずかしくなって俯いた。
一方の女性はミニ丈のスカートにハイヒール。髪は大きく巻かれていて赤い唇は艷やかで色っぽい。
獣人の国にはあまり居ないタイプの人。そもそも獣人は番の匂いを消してしまう化粧品や香水は好まないから……。
「あの……私の番は貴方で間違いないんです。……その……番さんは何も感じませんか?」
「俺?……感じる……何を?俺はそもそもロリコンじゃねぇしな。特定の恋人は作らねぇんだわ。他を当たってくれよ」
「貴女ねー、ルカは貴女みたいな子供は相手にしないの。お家に帰ったら?」
「で、でも……。番は一人だけだから……」
特定の恋人は作らないって言った!
だったらこの女の人も恋人じゃないんだ。
「ねぇ、しつこいんじゃない?番、番って。私達は人間なんだから関係ないでしょ?今からルカは私達と遊びに行くんだし迷惑なの。さっ、ルカ行きましょう」
「番さん、お願いします。お話だけでも……。子供っぽいなら私、大人っぽくなるように努力しますから……」
女性に腕を取られて歩き出す番さんの手を引っ張っると、
「しつこいって言ってるでしょっ!」
女性がトンと私の肩を押すと、罠で痛めた足が痛くて踏ん張ることが出来ず、大きくバランスを崩してしまいーー
「きゃー」
そのまま膝を地面に擦りつけるように転んだ。
番さんは直ぐに私に駆け寄って跪くと、その膝の擦り傷を見て心配そうに顔を歪めた。
「な、何、大袈裟に転んでんのよっ!軽く押しただけでしょ?」
番さんは溜息を吐いて女性を睨んだ。
「カーラー、お前こそ性格悪すぎね?大体、お前も馴れ馴れしいんだわ。今日はもう行かねー」
「え、嘘でしょ?ルカが来ないとつまんないじゃん」
「どうせ、いつもと同じような顔ぶれだろ?いい加減飽きたし……もういいよ。別の奴誘ったら?」
そこにもう一人番さんの知り合いらしき男性がやってきた。
「カーラー、何やってんだ?ルカ早く行こうぜ」
「ロビン、俺ヤメとくわ。」
「え、マジ?ルカ目当ての女の子がほとんどだぜ?頼むから来てくれよ!」
「そうよ!ルカが行かないなら私も行かないわ」
「好きにしろよ。じゃあな」
「何よ。番って言い張るその女に絆されたの?」
「マジ?番って……獣人?番……ルカが?小さくね?ロリコンじゃん?ルカ、お前、ロリコンに目覚めたの?」
「いや、別にこんなガキ臭い女とはヤリたいとは思わねーよ。ただ、怪我した小さい子を放っておけねーだろ?」
番さんは、私の膝の下に手を差し込み、もう片方の手を背中に回してさっと抱き上げてくれた。
「ちっ、結構大きく擦りむいたな。痛いだろ?」
やっぱり番さんに良い匂い。この匂いだけで幸せな気持ちになる。
「俺の家近いから手当てしてやるよ。手は出さねーから心配するな」
こうして番さんは私を家に運んでくれた。
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