私は番を探しに人間の国に来ました

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人間の国!

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 人間の国マーヤに入った後、とにかく人の多い市場に向かった。けれど、番らしい匂いはしない……。

「直ぐに見つかると思ったんだけどな……」

「お嬢ちゃん、もしかして……迷子かい?」

「えっ……。いいえ、旅行に来たの」

「一人で?」

「ええ」

 市場で果物を売っていた母親ぐらいの年齢の女性が声を掛けてくれた。
 少しふくよかで声の大きい面倒見の良さそうな人。
 女性は私が一人で旅をしていると知って心配そうに首を傾げた。

「そう……。女の子一人は危ないねぇ。宿はもう決まったのかい?」

「まだです」

「それじゃ、ベンさん家の宿屋に泊まんなよ。ベンさんに変な男が寄り付かないようにお願いしといてあげるよ」

「え……そんな……ご迷惑じゃ?」

「遠慮しなくていいよ。この街はそんなに治安が悪い方じゃないけど、若い女を狙う輩ってのはどこにだっているからね。私のことはデラって呼んでおくれ」

 デラさんは、気の良さそうな笑顔で私の背中をバンバン叩いた。
 大きい身体のデラさんは軽く叩いているのかもしれないけれど私にとっては結構な衝撃だ。

「デラさん……少し痛い……です」

「デラ!オマエは力が強いんだからお嬢ちゃんが壊れてしまうぞ!」

 奥から出てきたのは恰幅の良い男性。デラさんとお揃いのエプロンを着けているから夫婦なのかもしれない……。

「ああ……ごめんね。えっと……」

「エラトです」

「エラトちゃん。今、地図を書いてあげるから待ってて」

 デラさんは店の奥から紙とペンを持ってきて宿までの地図を書いてくれた。
 そんなに遠くないみたい。
 お店に来るお客さんたちも、デラさんとお喋りしてから買い物をしていくし、会話を聞いていてもこの夫婦がお客さんたちに好かれているのが分かる。

 デラさん夫婦は信用して大丈夫そう。

「デラさん、私……チンチラ獣人なんですけど、番を探しに来たんです。人が多く集まる場所って知りませんか?」

「おやまあ、チンチラ獣人かい。可愛いねえ。そうかい……番かい……。この街はそんなに大きな街じゃないからね。隣の街はどうだい?港もあるし、人も多いから、番も見つけやすいかもしれないよ?」

「デラさん、ありがとうございます。明日行ってみます」

「ベンさんの宿屋は隣町との境目にあるからね。少し歩くと港が見えるよ」

 私はデラさんに言われた通りベンさんの宿屋に泊まり、翌日隣町のファイに来た。

「わー、凄い……」

 ファイには見た事もない大きな船が着港していて、商人や買い物客で賑わっていた。すれ違う人たちはみんなよそ行きの服を着ていて髪型もお洒落。レネールでは、結婚式に出席するような一張羅を皆が着ていて、私は何だか場違いみたい。

「スカートを履いてくれば良かった……」

 でも、今日は動き易いことが大切。
 匂いで番を探したいのに、この辺りは香水を付けた人が多くて匂いが分かりにくい。

「この姿じゃ探しにくいわ」

 私は獣化してチンチラの姿で番を探すことにした。この姿の方が感覚が鋭くなるから番も見つけやすいと思う。

 私はチンチラの姿で街のあちこちを探し回った。ファイは小さな通りも多くて道が複雑に入り組んでいた。けど、この街には微かに番の気配がある。私は夢中になって番の匂いを探した。

「ここ……どこかしら……?」

 気が付くと港に迷い込んだみたいだった。大きな倉庫がいっぱい並んでいて、所々に荷物が沢山積んで置いてある。けれど人通りは少なくて……。

「ここから出たいなー」

 チンチラの姿のまま、倉庫をウロチョロして出口を探した。何だか薄暗くて気持ち悪い。

「痛っ!」

 急に後ろ足に痛みを感じて振り返ると、後ろ足が鼠取りの仕掛けに引っ掛かっていた。

 しまった!何よ!この大きい鼠取り!
 
「キュー、キュー」

 人化したいのに足が引っ掛かっているから上手く戻れない。
 自分の力だけでは足が抜けないし痛い。
 誰か!気付いて!
 
 ちょうど日の落ちる時間帯で誰も通らない。
 私はずっとか細い鳴き声で助けを呼び続けた。
 
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