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よん!
フローレンス視点に戻ります。
私の結婚相手ヴィンス・ラティオー様。
とても怖そうな軍人。
十も違う年齢と、厳つい姿絵、軍人だという肩書き。
姿絵などは、相手を竦み上がらせるような威圧を放っていて、見合い相手を怖がらせてどうするのだろうと思ってしまうほどだった。
「お父様、私の結婚相手は本当にこの人?」
「ああ、私がちゃんと選んだ。尊敬出来る人柄だ。軍の部下からの信頼も厚い。フローレンス、男は見た目ではないぞ」
父はにこやかに答えるが、私の心中は穏やかでは無い。いつか、素敵な貴公子と思っていた結婚相手が、こんな野獣のようにおそろしげな人なんて……。
「彼は任務で国境沿いの砦を長く守護してきたこの国の英雄だ。だが、兄君の急逝で爵位を継ぐため王都に戻ってくることになった」
「では、このお年で初婚ですの?」
「ああ、ちょっと姿絵は怖そうだが、本人は女性には優しいしフローレンスのことも大切にしてくれるだろう」
この厳つい男性を父は絶対的に信頼しているらしい。
もちろん、私には話さない政略的なあれこれもあるのだろうが。
私の脳裏にキース様の顔が浮かんだ。
同時にリディアから聞いたあの言葉が甦る。
『女にとって初めての相手はずっと特別』
初めてを好きな人に捧げたいのは、女の子にとって当然のことだと思えた。
ラティオー卿は、退官に伴う諸々の事情で忙しく、一日だけ王都へ滞在した時、私との顔合わせをした。
流石は国境の守護神。姿絵で想像していたより更に大きくて、周囲を威圧するような迫力がある。そして、話し方も無愛想で、仲の良い夫婦になるのは無理そうだと思った。
「俺はずっと軍にいたから、話も苦手だ。その……よろしく頼む」
笑顔ひとつ見せずそう言ったきり彼は黙り込んだ。
「お気遣いありがとうございます。正式な婚約式の後には、ラティオー伯爵夫人として、相応しくなれるように頑張りますわ」
どうにか笑顔を作るけれど、まるで会話が続かない。
その日はろくな会話もないまま、二人で無言のままお茶を飲んだ。
正式な婚約式は一ヶ月後。私が自由に恋愛を楽しめるのはそこまで。
彼が退官して爵位を継いだ後、私達は王都で結婚式を挙げて領地に戻る手筈となっていた。
私達の新生活は領地のお屋敷でスタート。彼の両親も兄弟も早世で、お屋敷では使用人以外は私達二人となる。
細かい日程などはこれから調整するが、もうあまり自由な時間はない。嫁ぎ先が伯爵家ということもあって、きっと準備が大変だからだ。
☆
「キース様、わたくし結婚が決まりましたの」
「……そうか」
彼は感情の分からない声色で返事をした。
本当は、彼に結婚を申し込んで欲しかったのに……。恨めしげに思いながら、自分の思いの丈をぶつけた。
「キース様、わたくしは不貞はしないでおこうと思っております。ですが、どうしても貴方への思いを捨てきれず。思い出にどうか、一夜を共に過ごしてくださいませんか?あと数日で正式にヴィンス様との婚約が整ってしまいます。わたくしが誰かのものでないうちに、どうか……」
「僕に、君の初めてをくれるってこと?」
「はい」
キース様は片方だけ僅かに口角を上げ……。その笑顔が歪んで見えた。
(自分から誘ってくるなんて手間が省けたな)
キース様は小声で何か呟くけれど、私には聞き取れなかった。
いつも貴公子然としている彼の下卑た嗤い方に違和感を感じながらも、私には考え直す余裕など無く、その場は受け流してしまった。
「そう、君の方から来てくれるなんて思わなかったよ。素敵で、忘れられない夜にしてあげる」
そう言ってキース様は私を抱き寄せてくれた。
あー、私はとうとう大好きな人に純潔を捧げるのね。
夢だったシュチュエーション。初めての夜の想い出を胸に、私は別の男性の元へ嫁ぎます。
安っぽい大衆演劇のヒロインになった気分に浸っていた意識をキース様の声が現実に引き戻した。
「ちょうど良かったよ。今から行こうか?」
へ?今から?
ロマンチックなデートをした後……とかでは無いんだ。
情緒もなく、急かされてる感じで……。
「さあ、これに乗って」
キース様に乗せられたのは家紋の無い小さな馬車。無口な御者は、キース様の合図に黙って頷き馬を走らせた。
「フローレンスの初めてをもらえるなんて感激だなぁ。優しくするよ。テクニックには自信があるんだ」
話す内容に情緒がなさ過ぎて引いてしまう。それに……。さっきから、手を繋いだまま指で手の甲を撫でられて……気持ちが悪い。
私が男性に慣れていないからなの?これ普通?
触り方がねっとりとしていて、なんだか嫌な感じ。
「着いたよ。さあ、降りてっ」
ん?
ここはキース様の屋敷の裏口?
促されて馬車を降りるとそこには見たことのない男性が立っていた。
「誰??」
「うん?俺達は性交渉をもっと自由に楽しむための仲間でね。お互いにパートナーを交換したりもするんだ。一度きりのフローレンスの初体験はみんなで見守ってあげるよ。気持ち良くてきっとハマッちゃうよ」
なにそれ?
意味不明。
「嫌っ!!」
握られていた手を勢いよく振りほどいて、距離を取った。
こんな気持ち悪い人だったなんて……。
……キース様ってヤリ○ンだったのー??
(※令嬢らしくない言葉につき自主規制)
するといつの間にか後ろに回っていた男に羽交い締めにされ、口を何かで塞がれた。
「う゛ーっ」
嫌!
必死でもがく。
誰かっ!
助けてっ!
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