5 / 29
アーシャント殿下視点
私には幼い頃からラディールという婚約者がいた。
ラディールはセルック公爵家の令嬢で利発で明るい少女だった。
婚約者といっても幼い頃から知っているため、半ば妹のような存在だったが、王族なのだから政略結婚は当たり前だ。
この友愛のような感情もいずれ恋に変わるのだろう、そう思っていた。
我が国は魔の森に隣接する。
結界が弱まってきて魔獣の出没が増えてきた所で、我が国に保護されている孤児院の少女が聖女であることが判明した。
しかもその少女は我が国に留まる事を希望しているという。
父である国王から聖女との婚姻を命じられた。
歴代の聖女は全て王族と結婚するか、教会で生涯を過ごしている。
王族で無ければ聖女を守りきれないからだ。
ラディールのと婚約は円満に解消され、私はミュゼリールと結婚することになった。
初めてミュゼリールに会った時、彼女の周囲だけが痛いくらい高潔で無垢な空気に包まれていた。
輝く黄金の瞳には一切の翳りも無く………触れるのが畏れ多い程だった。
傷付けることの無いよう、エスコートする手も震える。
近くで見る彼女は真っ白な肌に赤い唇が扇情的で…………いつかその真っ白な肌に自分の痕を刻むことが出来ると思うと胸が滾った。
話してみると、彼女は人柄も好ましく頭も良い。会話する度に惹かれていく。
ミュゼリールが自分の妻になってくれることが誇らしく、その日を指折り数えて待った。
けれど結婚式の後、セルック前公爵が私の元にきて耳打ちをした。
「ラディールが毒を飲みました。」
驚いて前公爵の顔を見ると、前公爵は申し訳無さそうに話を続けた。
「こんなこと大変な醜聞ですから内密に。ラディールは今夜が峠だと侍医が申しておりました。」
私の婚約解消に笑顔で応じてくれた筈だ。
その後は?彼女は別れる時どんな表情をしていた?
彼女の気持ちには気付いていた。それなのに…………。
俺は自分の事しか考えていなかったのか………。
公爵邸に着くと侍医が峠は越えたと教えてくれた。
「ラディール様が殿下に一目会いたいと。」
ラディールはベッドに寝かされていた。その顔色は青白く、あんなに溌剌としていた彼女の弱々しい姿に胸が抉られるようだ。
「アーシャント殿下?」
彼女の声はか細く、不安げに揺れていた。
「このまま手を繋いでいてくださいますか?」
ミュゼリールとの初夜だ。彼女に恥をかかせる訳にはいかない。王宮に戻らなければ。
けれど縋るように握られた手を、私は振りほどく事が出来なかった。私はラディールに付き添ったまま一晩を明かしてしまった。
初夜に公爵邸で過ごすなど………。
そのまま、私はミュゼリールと話す事が出来ないまま、彼女は祈りの儀に入ってしまった。
そして私は再び公爵家に呼ばれた。
「ラディールが食事を食べられないのです。このままでは衰弱してしまう。どうか殿下から説得して欲しいのです。」
ラディール公爵から頭を下げられ、断る訳にもいかなかった。
私が姿を見せるとラディールは嬉しそうに迎えてくれた。
「殿下となら食べれそうですわ。」
私が勧めれば、ラディールはよく食べた。
「やはり、殿下とならばラディールは食欲が戻るようです。」
公爵から頼まれ、これからもラディールの食欲が回復するまで、公爵邸に通う事を約束してしまった。
理由を話せばミュゼリールなら許してくれるだろうと思っていた。
人の命に関わることだ。
聖女であるミュゼリールなら………。
祈りの儀から出たミュゼリールは魔力が枯渇し、歩くことも出来なかったと聞いた。
ミュゼリールの体調も戻ったとの報告を聞いて彼女に初夜の時の事を説明しようとするが、話題を反らされる。
彼女との会話も業務的な内容ばかり………。
甘い空気を作ろうとすれば、やんわりと避けられる。
ミュゼリールとの距離を縮める事が出来ないまま、数ヶ月が過ぎようとしていた。
相変わらず、ミュゼリールが祈りの儀に入るとセルック公爵家に呼ばれる。
前公爵は王家の血を引くとはいえ、断れないことは無かった。
けれど、弱々しくなったラディールの頼みを断る事が出来なかった。
そしてとうとう、
「アーシャント殿下、後生です。私を抱いてくださいませ。殿下と結婚出来ない事は分かっております。けれど、………。長年殿下だけを想ってきました。どうか一度だけでも情けを………。私に思い出をください。」
ラディールが背後から私に縋りつき、請うように声を絞り出す。
私のせいで毒まで飲むほど苦しんだ彼女を振り払う事など出来なかった。
ラディールは小刻みに震え、私を見上げる目は潤んでいて……。
…強烈な劣情が私を支配した。
とうとう私はラディールを抱いてしまった。
一晩だけだと自分に言い訳しながら………。
ラディールはセルック公爵家の令嬢で利発で明るい少女だった。
婚約者といっても幼い頃から知っているため、半ば妹のような存在だったが、王族なのだから政略結婚は当たり前だ。
この友愛のような感情もいずれ恋に変わるのだろう、そう思っていた。
我が国は魔の森に隣接する。
結界が弱まってきて魔獣の出没が増えてきた所で、我が国に保護されている孤児院の少女が聖女であることが判明した。
しかもその少女は我が国に留まる事を希望しているという。
父である国王から聖女との婚姻を命じられた。
歴代の聖女は全て王族と結婚するか、教会で生涯を過ごしている。
王族で無ければ聖女を守りきれないからだ。
ラディールのと婚約は円満に解消され、私はミュゼリールと結婚することになった。
初めてミュゼリールに会った時、彼女の周囲だけが痛いくらい高潔で無垢な空気に包まれていた。
輝く黄金の瞳には一切の翳りも無く………触れるのが畏れ多い程だった。
傷付けることの無いよう、エスコートする手も震える。
近くで見る彼女は真っ白な肌に赤い唇が扇情的で…………いつかその真っ白な肌に自分の痕を刻むことが出来ると思うと胸が滾った。
話してみると、彼女は人柄も好ましく頭も良い。会話する度に惹かれていく。
ミュゼリールが自分の妻になってくれることが誇らしく、その日を指折り数えて待った。
けれど結婚式の後、セルック前公爵が私の元にきて耳打ちをした。
「ラディールが毒を飲みました。」
驚いて前公爵の顔を見ると、前公爵は申し訳無さそうに話を続けた。
「こんなこと大変な醜聞ですから内密に。ラディールは今夜が峠だと侍医が申しておりました。」
私の婚約解消に笑顔で応じてくれた筈だ。
その後は?彼女は別れる時どんな表情をしていた?
彼女の気持ちには気付いていた。それなのに…………。
俺は自分の事しか考えていなかったのか………。
公爵邸に着くと侍医が峠は越えたと教えてくれた。
「ラディール様が殿下に一目会いたいと。」
ラディールはベッドに寝かされていた。その顔色は青白く、あんなに溌剌としていた彼女の弱々しい姿に胸が抉られるようだ。
「アーシャント殿下?」
彼女の声はか細く、不安げに揺れていた。
「このまま手を繋いでいてくださいますか?」
ミュゼリールとの初夜だ。彼女に恥をかかせる訳にはいかない。王宮に戻らなければ。
けれど縋るように握られた手を、私は振りほどく事が出来なかった。私はラディールに付き添ったまま一晩を明かしてしまった。
初夜に公爵邸で過ごすなど………。
そのまま、私はミュゼリールと話す事が出来ないまま、彼女は祈りの儀に入ってしまった。
そして私は再び公爵家に呼ばれた。
「ラディールが食事を食べられないのです。このままでは衰弱してしまう。どうか殿下から説得して欲しいのです。」
ラディール公爵から頭を下げられ、断る訳にもいかなかった。
私が姿を見せるとラディールは嬉しそうに迎えてくれた。
「殿下となら食べれそうですわ。」
私が勧めれば、ラディールはよく食べた。
「やはり、殿下とならばラディールは食欲が戻るようです。」
公爵から頼まれ、これからもラディールの食欲が回復するまで、公爵邸に通う事を約束してしまった。
理由を話せばミュゼリールなら許してくれるだろうと思っていた。
人の命に関わることだ。
聖女であるミュゼリールなら………。
祈りの儀から出たミュゼリールは魔力が枯渇し、歩くことも出来なかったと聞いた。
ミュゼリールの体調も戻ったとの報告を聞いて彼女に初夜の時の事を説明しようとするが、話題を反らされる。
彼女との会話も業務的な内容ばかり………。
甘い空気を作ろうとすれば、やんわりと避けられる。
ミュゼリールとの距離を縮める事が出来ないまま、数ヶ月が過ぎようとしていた。
相変わらず、ミュゼリールが祈りの儀に入るとセルック公爵家に呼ばれる。
前公爵は王家の血を引くとはいえ、断れないことは無かった。
けれど、弱々しくなったラディールの頼みを断る事が出来なかった。
そしてとうとう、
「アーシャント殿下、後生です。私を抱いてくださいませ。殿下と結婚出来ない事は分かっております。けれど、………。長年殿下だけを想ってきました。どうか一度だけでも情けを………。私に思い出をください。」
ラディールが背後から私に縋りつき、請うように声を絞り出す。
私のせいで毒まで飲むほど苦しんだ彼女を振り払う事など出来なかった。
ラディールは小刻みに震え、私を見上げる目は潤んでいて……。
…強烈な劣情が私を支配した。
とうとう私はラディールを抱いてしまった。
一晩だけだと自分に言い訳しながら………。
あなたにおすすめの小説
『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい
歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、
裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会
ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った
全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。
辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
傷物令嬢エリーズ・セルネの遺書
砂礫レキ
恋愛
『余計な真似をして……傷物の女などただの穀潰しでは無いか!』
通り魔から子供を庇い刺された女性漫画家は自分が美しい貴族令嬢になってることに気付く。彼女の名前はエリーズ・セルネで今度コミカライズを担当する筈だった人気小説のヒロインだった。婚約者の王子と聖女を庇い背中に傷を負ったエリーズは傷物として婚約破棄されてしまう。そして父である公爵に何年も傷物女と罵倒されその間に聖女と第二王子は婚約する。そして心を病んだエリーズはその後隣国の王太子に救い出され幸せになるのだ。しかし王太子が来るまで待ちきれないエリーズは自らの死を偽装し家を出ることを決意する。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。