聖女は仮面夫婦を望みます

文字の大きさ
6 / 29

アーシャント殿下視点2

「私はなんて事をしてしまったんだ。」

朝になり凄まじい後悔に襲われる。
自分のしでかしてしまった事の重大さに目の前が真っ暗になった。

裏切った。
あの聖女であるミュゼリールを裏切ってしまったのだ。

「許してもらえるだろうか?」

もう自分を見失うことはしないと固く心に誓った。
ラディールに二度と触れることはせず、彼女が起きる前に公爵邸を後にした。


それからは後悔の日々。
後ろめたさでミュゼリールとは更に余所余所しくなってしまう。もっと距離を縮めたいのに………。
私はラディールと一度だけ身体を重ねてしまったが、それ以降は何もしていない。

けれどその罪悪感や自己嫌悪で自分が汚れたように感じる。あの清廉なミュゼリールに触れることすら躊躇ってしまう。
 
しかし、聖女と私が白い結婚だと広まると不味い。

ミュゼリールとの関係を修復する必要がある。

このままではいけない。そんな思いで、私はラディールの所に通う事を止める事を決断した。

そんな事を考えながら過ごしていたある日、書類仕事が一段落着くと、ノクティスが徐に口を開いた。
「王宮に行儀見習いに上がっている令嬢数名がミュゼリール様に嫌がらせしています。対処してはいかがでしょう?」
「なに!そんな不届きな者が?」
「いますね。彼女たちの実家も後ろ暗い事がありますし、不正の証拠も揃えてあります。どうされますか?」
「分かった。早急に対処しよう。」
ノクティスはテキパキと文官達に指示を与える。

「それから、もうすぐミュゼリール様の誕生日です。どうされますか?」
「ドレスと、何か花を………。」
「ドレスはマダムフレルに頼みましょう。この間仕立てた服を気に入っていたようでしたし。花は何を?」
「うーん。薔薇にしようか?」
「アザレアはいかがでしょう?ミュゼリール様はよく庭園でアザレアを見ていますから。」
ノクティスがミュゼリールの好みを知っていることが意外だった。
こいつは社交界でも浮いた噂一つない。
どんなに美しい令嬢が近づいて来ても表情一つ動かさないような奴だ。
幼なじみであり、従兄弟であり、側近でもある。一番近い存在。
「どうしてそんなことを知ってる?」
ノクティスは呆れたように溜め息を吐いた。
「逆にどうして花の好みぐらい知らないのですか?」
そう言われれば従う他無い。
私はプレゼントの手配をノクティスに頼んだ。


★★★


「ミュゼリール、誕生日おめでとう。」
そう言って花を渡せば、ミュゼリールは驚いて目を丸くしている。

「私の好きな花………ご存知だったのですね。」
「……これは……ノクティスが………。」

肯定すれば良いものを、意地があったのかノクティスが選んだことを正直に話した。

「そう。ノクティス様が………。」

花を受け取ったミュゼリールは嬉しそうに花をギュッと胸に抱き込んだ。
ふんわりと柔らかな表情で花を見る。
ミュゼリールのそんな無防備な表情は普段見ることが無い。

ああ、この笑顔が私に向けられたのならどんなに幸せだろう。

「ミュゼリール、初夜は本当にすまなかった。許されるなら、そなたと本当の夫婦になりたい。私の愛を受け入れて欲しい。」

私は彼女に愛を乞うよう、そう口にした。
感想 170

あなたにおすすめの小説

『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい

歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、 裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会 ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った 全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。 辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

傷物令嬢エリーズ・セルネの遺書

砂礫レキ
恋愛
『余計な真似をして……傷物の女などただの穀潰しでは無いか!』 通り魔から子供を庇い刺された女性漫画家は自分が美しい貴族令嬢になってることに気付く。彼女の名前はエリーズ・セルネで今度コミカライズを担当する筈だった人気小説のヒロインだった。婚約者の王子と聖女を庇い背中に傷を負ったエリーズは傷物として婚約破棄されてしまう。そして父である公爵に何年も傷物女と罵倒されその間に聖女と第二王子は婚約する。そして心を病んだエリーズはその後隣国の王太子に救い出され幸せになるのだ。しかし王太子が来るまで待ちきれないエリーズは自らの死を偽装し家を出ることを決意する。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。