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星の王子さま
しおりを挟むルシール王国の第1王子ロレンツォは臣下から『星の王子さま』と呼ばれています。
それは決して良い意味ではありません。星空を眺めてばかりで勉学を疎かにする彼を揶揄するためにつけられたあだ名です。
彼は七歳の頃、母である王妃さまを亡くしました。
王妃さまは、
「お星さまになっていつもロレンツォをみているからね」
そう言って亡くなったので、ロレンツォは大好きな王妃さまの星を探して夜空を眺めているのです。
ロレンツォは日が暮れると塔の最上階に登り、空を見上げます。
ひときわ大きなお星さまを見つけると「お母さま」と呼びかけてみますが、お星さまは何も応えてはくれません。
そうすると、ロレンツォは再び大きな空の中、王妃さまの星を探すのです。
「あっ、あのお星さま……今ピカッと光ったぞ。あれがお母さまの星かもしれない。お母さま!」
けれどその星は再び光ってはくれません。
「お母さま、返事をしてよ」
けれど星の光は静かなまま。
「あーあ、あのお星さまも違うのか」
ロレンツォはこんな風に、星が見える夜には空が明るくなるまで星空を眺めています。
だから、そんな日の翌日は家庭教師の話を子守唄にして眠ってしまうから、全然勉強が進みませんでした。
「ロレンツォさま、星空を眺める時間を短くなさってはいかがですか?勉学に差し障りが出ますよ?」
「嫌だよ。だって、お星様を眺めているとお母さまと一緒にいるみたいで安心するんだ」
ロレンツォは家庭教師のアドバイスにも従わず、そのまま大きく成長して13歳になりました。
もう幼い頃のように母親の星を探してはいませんが、今でも夜に星空を眺める習慣は残ったままです。
そんな王子さまの将来を、国王陛下はとても心配していました。
ロレンツォには美しく聡明なひとつ年上の幼馴染がいました。彼女の名前はヴァレリア。
ヴァレリアは公爵令嬢で幼い頃からよく王宮に出入りしていました。ロレンツォにとっては姉のような存在です。
勉学に励み、いつも理性的で正義感の強いヴァレリアを、国王陛下はたいそう気に入っていました。
「ヴァレリアはもうフェーヌム語を習得したと聞いたぞ?あの厳しくて有名なアデル女史も感心していたらしい。ロレンツォもヴァレリアを見習いなさい……」
「僕……フェーヌム語は苦手で……」
「情けないぞ、ロレンツォ、お前は恥ずかしいと思わないのか?ヴァレリアに全然敵わないではないか」
「ごめんなさい、父上」
「ロレンツォはもう少し努力しないと駄目よ。将来はロレンツォがこの国を背負うんだからね!」
「ごめん、ヴァレリア」
ロレンツォは、父親である国王陛下と活発なヴァレリアに囲まれると萎縮してしまいます。
自分が優秀ではないことを知っているからこそいたたまれない気持ちになるのです。
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