呪われた皇帝の執着或いは溺愛

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プロローグ

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私は幼い頃、海辺の小さな教会に捨てられていたらしい。

牧師様はそんな私を育ててくれた。

ただただ温厚で優しい人。

私には前世の記憶がぼんやりとあった。
発展した日本という国で暮らした記憶。
だから、年齢よりほんの少し聞き分けの良い子だったと思う。



~・~・~・~・~



8歳の頃、教会に男の子がやって来た。
黄金色の髪、トパーズのような瞳を持つ天使のように綺麗な男の子。

母親を亡くしたばかりのその男の子はレイと名乗った。

一つ年下の彼は、夜が来るとお母さんを思い出して泣いていた。
幼い彼の悲痛な泣き声は聞いていると胸が抉られるよう………。

「……お、ぉがあざん゛…えっ…ぐ……ひっぐ……。」

彼がどんなに呼んでも、この広い世界で一番会いたい人には会えない。
幼い子供にとって、母親はこの世界の道しるべだ。
どんな時でも自分の傍に居て守ってくれる絶対的な存在。
それを喪ってしまった彼に寄り添ってあげたかった。

「レイ……。悲しいね。眠れないの?」

彼は頷いて真っ赤になった目を更に擦り続けた。

「……うっ……えっ…えっぐ……。」

しゃくり上げて返事も出来ない彼の手を握った。

「…レイ、お星さまを見に行こう。」

部屋の隅にしゃがみ込んで震えて泣いている彼を、屋根裏の部屋に案内した。

「ちょっと待ってて。」

部屋に布団と毛布を一枚ずつ持ち込んで二人で毛布にくるまって天窓から星空を眺める。

「お母さんはお星さまになって、きっとレイを見ているよ。」

「………ひっぐ……かぁさまが………おほし……さまに?」

「うん。そうだよ。死んじゃった人は星になって生きている人を見守っているんだって。」 

震えるレイの背中をとんとんと優しく叩く。
やがて鼻を啜る音が聴こえなくなると私は安心して彼の背中に手を置いたまま眠りにつく。

雨の日だって、雨粒がガラスにぶつかる音を子守唄にして眠った。

少し肌寒い日だって二人で寄り添って毛布にくるまれば暖かい。
いつしか彼は、夜になっても泣かなくなった。  

それでもずっと彼は私と眠りたがった。

彼が来てからは、毎晩お星さまを見ながら屋根裏部屋で一緒に眠っていた。
距離が近いから自然と声は小さくなって、ヒソヒソ声でお喋りする。
話に夢中になっているうちに時間が経てばいつの間にか眠る。 

屋根裏部屋で過ごす時間は閉鎖的で、この世界に私たちだけしかいないような、そんな錯覚を起こさせた。

夜の静寂に私たちの話し声が響く。

とっても大切な秘密の話をしているようで、胸が擽ったい。

思い出すと懐かしくてほんの少し胸が締め付けられる。

………そんな記憶だ。




~・~・~・~・~




レイが来て一年が過ぎる頃には、私たちはすっかり打ち解けて仲良くなっていた。

教会には子供のオモチャなんて何も無くて、朝のお掃除とお洗濯のお手伝いが終わると私たちはよく砂浜に遊びに来ていた。

「ジェンナ見て、すごく立派なお城ができたよ。」
「うん。今まででいちばん大きいね。」

夢中で砂遊びをしていたら、いつの間にか大きな男二人に囲まれていた。

「っ!!」
「おじちゃんたちだれ?」

男たちは無言のまま、レイに襲いかかった。

「きゃーーーー!!」

「わっっ!」

私たちは慌てて逃げようとするが男達の動きの方が早かった。

「レイっ!危ないっ!」

男がレイを掴まえようと腕を伸ばしたその瞬間

ブスッ!!

男の腕に、ナイフが突き刺さる。

「グゥアアーーーッ!!」

男がうめき声を上げながら腕を押さえて蹲った。 
赤い血が砂浜に滴り落ちる。

「こちらへ。」

その隙に真っ黒な服を着た女性がレイを抱きかかえて逃げて行った。

「レイっ!!」
「ジェンナっ!!」

砂浜の上だというのに、女性の足は速く、レイはあっという間に遠ざかっていった。
私が呆然とレイが連れ去られるのを見ている間に襲ってきた男二人は助けに入った男性によって捕らえられていた。

助けてくれたのは見たことも無い戦闘服を着た男たち。
この町の警ら隊では無い。

「………レイ…。」

助けてくれた男たちは私に何も言わず、縛った男を引き摺って去っていった。

男たちに踏まれて壊れた砂の城を残して、浜辺には私だけが取り残された。

どうやって帰ったのかよく覚えていない。

泣きながら教会に戻った私を牧師様は優しく慰めてくれた。

そして、「レイは無事だよ。急に別の町に引っ越す事になった。」と教えてくれたのでほっとした。 

「レイは無事なの…ね……。……良かった……。」

安心した私を牧師様は複雑そうに眺め「レイからのプレゼント。」といって小さな箱を渡してくれた。

そこにはレイの瞳と同じ色の石が嵌まったペンダントが入っていた。



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