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2.夜会で出会った嫌な男
しおりを挟む「なぁ。あれ、お前の婚約者だろ?なんでお前と踊らずに他の女と踊ってんだ?」
直ぐ後ろで声が聞こえ、振り向くと知らない男性が立っていた。特徴の無い地味な顔立ち。
「俺はルーファス・スタンリー。お前、フィオナ・ローレラ伯爵家の令嬢だろ?」
不躾な言葉に少しカチンときて、顔を背けて彼を無視することにした。
聞いたことの無い家名だし、こんなに失礼な相手なら無視しても別に構わないと思ったから……。
けれど、男はしつこく私の前に回り込んできた。
「なぁ、本当はあのセレニティーって奴が邪魔だろ?」
私の顔を観察するような目。面白がっているのだろうか?
「私たちの事情も知らないで勝手な事を言わないでっ。」
軽い口調に腹が立って、思わず声を荒げると、周囲の人々がぱっと私たちに注目したのを感じて慌てて口を噤んだ。
「あの二人どう見ても想い合ってるよな。」
「……。」
それでもなおしつこく私に話し掛けてくる男性が鬱陶しくて、私はホールを出て化粧直しへと向かった。
「なんなのよっ、あの人っ。失礼な……。だって、しょうがないじゃない……。」
あの男の言葉を思い出し、化粧室の鏡の前で独り小さくぼやいた。
「酷い顔。こんな顔で戻ったら、レニィが心配するわね。」
鏡に映る自分を見ると眉間に皺を寄せて苛ついた表情。こんな顔をセレニティーに見せたくなくて、笑顔を作った。
早くホールに戻らないと二人が心配するかもしれない。
あの嫌な男には会いたく無かったがホールへ戻ろうと廊下を急ぐ。
「……ん?……あれ……。」
中庭に面した廊下を歩いていると、四阿にセレニティーの水色のドレスがチラリと見えた。
セレニティーが花を見たいと我が儘でも言ったのだろうか?
「もうっ。夜は冷えるのに……。」
彼女は最近特に体調を崩しやすくなっていた。
私はバルコニーから庭園へと下りて四阿に向かった。すると背後から、またあの嫌味な男の声が聞こえた。
「恋人同士の時間を邪魔するなんて無粋だな。行かない方がいいと思うよ。それとも覗きが趣味なの?」
「セレニティーは身体が弱いのっ。こんな夜風に当たったら、また熱を出してしまうわっ!!」
男の声を無視して進むと、セレニティーのドレスの裾が見えた。
「レニ……。」
手を挙げて二人に向かって声を掛けようとした時、見えた光景に息を呑んだ。
二人が濃厚な口づけを交わしていた。
「……ぁ……。」
二人のその慣れた仕草で、このキスが初めてで無いだろうということは経験の無い私でも分かった。
「このぶんじゃ、身体の関係もありそうだな。」
背後から再び男の声が聞こえ、思わず振り向いて男をドンッと突き飛ばした。
「……っ……。」
「……なっ」
この男の言う通りだった。二人を探さなければ良かった。
二人は相思相愛なんだもの。キスしていても不思議じゃない。なのに、どうしてこんなに混乱しているのか、自分でも分からなかった。
完全に八つ当たりだ。泣き顔のまま、男を睨み付け私は物音を立てないように来た道を引き返した。
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