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10.ルーファス視点
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※ルーファスが女嫌い設定なので差別的な表現があります。
内偵していた先で知り合った少女が放っておけなかった。底抜けにお人好しな彼女は、周囲の人間に利用されてた……。
☆
初めてフィオナを見た時、彼女は夜会で自分の婚約者と友人がファーストダンスを仲睦まじく踊っているのを、どこか寂しそうに眺めていた。
俺はフィオナがセレニティーに毒を盛ったのだと疑っていた。セレニティーの恋敵であるフィオナには、充分な動機がある。
けれど、ダンスを見ていた彼女の表情が意外だった。
フィオナがセレニティーを憎んでいるのなら、嫉妬や憎しみがその表情に垣間見える。または、完璧な良い友人として微笑んでいただろう。
今その顔に浮かべている寂しげな表情は、あまりにも無防備だ。
『なぁ、本当はあのセレニティーって奴が邪魔だろ?』
俺はフィオナを探るために、夜会で話し掛けた。婚約者と友人に対して従順な彼女は、俺の嫌味には猫のように逆毛を立てて反発した。器用に人を欺けるタイプでは無いらしい。
(彼女はライアット侯爵令息のことは何とも思っていないのだろうか?)
フィオナは結婚を政略的なものだと割り切っているのか?
そう思ったが、それも違っていた。
二人の逢瀬を見た彼女は確かに泣いていた。
なのに、その悲しみは婚約者を寝取った友人を憎むことには繋がらないらしい。
稀有な女ーー
とことん間抜けでお人好し。
人に利用されて尚、人を恨まない。
女なんて狡くて平気な顔で嘘をつく。
諜報活動が生業だった俺はそんな場面を反吐が出るほど見てきた。
女という生き物は嫌いだった。
同じ世界に生きているのに、彼女の見えている世界は優しいのだろう。
そんな世界を俺も見てみたくなった。
☆
婚約者と友人のダンスを寂しそうに見ている彼女を笑顔にしてやりたくて、ダンスに誘った。
それは、とても印象的な時間だった。
彼女は負けん気の強さを発揮し、俺のアレンジについてくる。懸命に身体を動かし、困ったり悔しがったり驚いたり。普通の令嬢なら突然難しいステップを入れられたら怒るだろう。なのに彼女はその刺激を楽しんでいた。くるくる動く表情。その反応はいつだって素直で真っ直ぐだ。
イキイキと踊る彼女は、ポーズを決めると『どうだっ!』と言わんばかりの笑顔を俺に向けた。
『上等だ。』
俺もつられて笑う。それが心地いい。
たった三曲のダンス。
俺はそのダンスで、フィオナに心を奪われてしまったらしい。
フィオナを自分のそばに置きたくなった。
☆
フィオナは一見大切に育てられていた。美しいドレスを着せられ、侯爵令息との婚約も整っている恵まれた環境。婚約者も友人も彼女を可愛がっていた。
彼女の目に映る世界は優しい世界。
けれど、誰もフィオナ自身の幸せを望んでなどいない。
愚かなフィオナは自分が利用されていることを知らない。もし、知っても怒らないかもしれない。
俺がフィオナに『お前の両親はもうすぐ捕まる。』なんて伝えても彼女は俺について来ないだろう。彼女は自分が利用されたことを知っても、妙な連帯感で一緒に罪を背負うかもしれない。
愚かなフィオナ。それがもどかしくて腹が立つ。
任務外の仕事だ。彼女を助ける必要など無い。
けど、あいつは俺が放っておいたら死んでしまうんだ。
だから、奪った。婚約者の前から。
口説くのは後だ。
今、伯爵家からフィオナを逃がさないとーー。
☆
リックネル帝国の植物研究所には多くの貴重な植物が保管されていた。
事の発端は、植物研究所の管理人が金欲しさに買収され、他国の人間を禁止区域に入室させていたことが発覚したこと。
王家の暗部を纏める我が侯爵家に調査が命じられた。俺はサイハル王国に潜入して、メイハン草の出所を探り、ローレラ伯爵家の罪を暴き出した。サイハル王国と我が帝国に真相を報告し、俺の任務は終わりだった。
けれど、フィオナの罪悪感を減らしてやりたくて、俺はサイハル王国の王太子殿下にトマンティノ伯爵を紹介してもらい、医師として解毒剤を渡した。そして、フィオナの死亡という嘘の情報を流してもらった。サイハル王国から彼女の存在を消すために。
両国の話し合いでローレラ伯爵家の罪は秘匿された。
我が帝国サイドとしても、植物研究所の管理が杜撰だったことは公にはしたくない。サイハル王国としても、自国の貴族が留学先の国で起こした犯罪は体裁が悪い案件だ。
伯爵家は禁止薬の売買の罪だけが公表され、お取り潰しとなった。
内偵していた先で知り合った少女が放っておけなかった。底抜けにお人好しな彼女は、周囲の人間に利用されてた……。
☆
初めてフィオナを見た時、彼女は夜会で自分の婚約者と友人がファーストダンスを仲睦まじく踊っているのを、どこか寂しそうに眺めていた。
俺はフィオナがセレニティーに毒を盛ったのだと疑っていた。セレニティーの恋敵であるフィオナには、充分な動機がある。
けれど、ダンスを見ていた彼女の表情が意外だった。
フィオナがセレニティーを憎んでいるのなら、嫉妬や憎しみがその表情に垣間見える。または、完璧な良い友人として微笑んでいただろう。
今その顔に浮かべている寂しげな表情は、あまりにも無防備だ。
『なぁ、本当はあのセレニティーって奴が邪魔だろ?』
俺はフィオナを探るために、夜会で話し掛けた。婚約者と友人に対して従順な彼女は、俺の嫌味には猫のように逆毛を立てて反発した。器用に人を欺けるタイプでは無いらしい。
(彼女はライアット侯爵令息のことは何とも思っていないのだろうか?)
フィオナは結婚を政略的なものだと割り切っているのか?
そう思ったが、それも違っていた。
二人の逢瀬を見た彼女は確かに泣いていた。
なのに、その悲しみは婚約者を寝取った友人を憎むことには繋がらないらしい。
稀有な女ーー
とことん間抜けでお人好し。
人に利用されて尚、人を恨まない。
女なんて狡くて平気な顔で嘘をつく。
諜報活動が生業だった俺はそんな場面を反吐が出るほど見てきた。
女という生き物は嫌いだった。
同じ世界に生きているのに、彼女の見えている世界は優しいのだろう。
そんな世界を俺も見てみたくなった。
☆
婚約者と友人のダンスを寂しそうに見ている彼女を笑顔にしてやりたくて、ダンスに誘った。
それは、とても印象的な時間だった。
彼女は負けん気の強さを発揮し、俺のアレンジについてくる。懸命に身体を動かし、困ったり悔しがったり驚いたり。普通の令嬢なら突然難しいステップを入れられたら怒るだろう。なのに彼女はその刺激を楽しんでいた。くるくる動く表情。その反応はいつだって素直で真っ直ぐだ。
イキイキと踊る彼女は、ポーズを決めると『どうだっ!』と言わんばかりの笑顔を俺に向けた。
『上等だ。』
俺もつられて笑う。それが心地いい。
たった三曲のダンス。
俺はそのダンスで、フィオナに心を奪われてしまったらしい。
フィオナを自分のそばに置きたくなった。
☆
フィオナは一見大切に育てられていた。美しいドレスを着せられ、侯爵令息との婚約も整っている恵まれた環境。婚約者も友人も彼女を可愛がっていた。
彼女の目に映る世界は優しい世界。
けれど、誰もフィオナ自身の幸せを望んでなどいない。
愚かなフィオナは自分が利用されていることを知らない。もし、知っても怒らないかもしれない。
俺がフィオナに『お前の両親はもうすぐ捕まる。』なんて伝えても彼女は俺について来ないだろう。彼女は自分が利用されたことを知っても、妙な連帯感で一緒に罪を背負うかもしれない。
愚かなフィオナ。それがもどかしくて腹が立つ。
任務外の仕事だ。彼女を助ける必要など無い。
けど、あいつは俺が放っておいたら死んでしまうんだ。
だから、奪った。婚約者の前から。
口説くのは後だ。
今、伯爵家からフィオナを逃がさないとーー。
☆
リックネル帝国の植物研究所には多くの貴重な植物が保管されていた。
事の発端は、植物研究所の管理人が金欲しさに買収され、他国の人間を禁止区域に入室させていたことが発覚したこと。
王家の暗部を纏める我が侯爵家に調査が命じられた。俺はサイハル王国に潜入して、メイハン草の出所を探り、ローレラ伯爵家の罪を暴き出した。サイハル王国と我が帝国に真相を報告し、俺の任務は終わりだった。
けれど、フィオナの罪悪感を減らしてやりたくて、俺はサイハル王国の王太子殿下にトマンティノ伯爵を紹介してもらい、医師として解毒剤を渡した。そして、フィオナの死亡という嘘の情報を流してもらった。サイハル王国から彼女の存在を消すために。
両国の話し合いでローレラ伯爵家の罪は秘匿された。
我が帝国サイドとしても、植物研究所の管理が杜撰だったことは公にはしたくない。サイハル王国としても、自国の貴族が留学先の国で起こした犯罪は体裁が悪い案件だ。
伯爵家は禁止薬の売買の罪だけが公表され、お取り潰しとなった。
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