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討伐に行くそうです
パタパタパタパタ
「キオネさま、走ると危ないですよ。」
「大丈夫よ。…あれっっーー」
ビターーーン
「キオネさまーーー!」
廊下で派手に転んでエリーゼに抱き起こされた。
「いたたたたっ。ごめんなさい。」
「大丈夫ですか?」
「ええ、絨毯がふかふかだから怪我はしてないと思う……。」
「ここ、絨毯が新しくなったんですよ。」
「ええ、本当ね。」
「あっ!キオネ様、お鼻が真っ赤かです。」
「うわっ。顔から転んだから……。」
絨毯が新しくなったのか……。
どおりでまた歩きにくいと思った。
辺境の兵士の靴底には滑り止めの突起が付いていて、床が傷まないように絨毯がふかふかになっている。しかも、所々捲れ上がってたりするのでとても歩きにくい。
以前
「王宮の絨毯はこんなにフカフカじゃ無かったわ。」
とエヴァンさまに言ったら
「王都の騎士は足場の悪い所に出たこと無いからな。」
と言って笑ってた。
そんな事を思い出していたら、
「キオネーーっっ!!」
廊下の奥からエヴァンさまが走ってきた。
「ど、どうされたんですか?」
「キオネの痛いって声が聞こえた。」
エヴァンさま、凄いです。
書斎、結構離れてますよね。
「すみません。驚かせて。躓いて転んじゃいました。」
「鼻が赤くなっている……。」
エヴァンさまが顔を近づけて確認してくるので恥ずかしい。
エヴァンさまは真剣な顔なのに照れちゃう。
あんまりじっと見ないでーー
「だ、大丈夫です。」
そう言って顔を反らせた。
あっ!
「そうだ、エヴァンさま。遠征のお守りにハンカチに刺繍を入れました。」
ジャーン!!
私は自信作の刺繍をエヴァンさまに見せた。
「凄いな。大変だっただろう?」
エヴァンさまはハンカチの刺繍を愛おしそうに指でなぞった。
喜んでもらえて嬉しい……。
「刺繍は得意です。」
ユピテル辺境伯家の紋章の周囲を蔦模様で囲み、小さい狼が寄り添うデザイン。
「ありがとう。大切に使うよ。」
ハンカチを大切そうに畳んで胸ポケットに仕舞うと、エヴァンさまは私の頬にチュッとキスをしてくれた。
私はそれだけで幸せな気分に満たされる。
そして彼は当たり前のように私を抱えて廊下を歩きだした。
「え、エヴァンさま?どちらへ?」
「明日からキオネと暫く会えない。今日はなるべく一緒にいたい。いいか?」
「え、は、はい。」
そうして私は一日中エヴァンさまの書斎で過ごすことになった。
エヴァンさまたちは明日から年2回行う魔獣の大規模討伐の遠征に出掛ける事になっていた。
~・~・~・~・~
「エリーゼ、明日の出発はお見送りしたいの。」
寝仕度をしながらエリーゼにエヴァンさまの出立の1時間前には起こして欲しいと伝えた。
きちんと婚約者らしくお見送りをしたい。
「ふふふ、キオネ様がお見送りをするのなら、閣下の気合いが入りますね。」
私は明日の早起きに備えて早々に布団に入った。
~・~・~・~・~
翌朝、早起きに成功し身支度を整えて玄関に出てみると、既に兵士たちは遠征の準備を整えていた。
「寒いわ。エヴァンさまどこかしら?」
夜明け前の暗がりの中、松明の灯りがあちらこちらで動いている。
一際大きい燈火台の傍にエヴァンさまが立っていた。
オレンジの灯りに照らされた顔は厳しい表情。討伐前の緊張感が漂っていた。
エヴァンさまは私が来たことに気が付くと、少し表情を緩めた。
「キオネ、見送ってくれるのか?ありがとう。」
「勿論です。これからも毎回お見送りさせていただきます。」
毎回大規模討伐では、数人の怪我人を出し、時には命を落とす兵士もいる危険な任務らしい。
エヴァンさまも兵士の皆様も戦闘服に身を包んでいた。
王都の騎士服とは違う、実戦用に誂えられた無骨なデザイン。
騎士服のような飾りは一切無くて……
その服に身を包んだエヴァンさまを近くで見たら急に、彼は危険な場所に行くことを実感して怖くなった。
「エヴァンさま。しゃがんでいただけますか?」
「ん?」
エヴァンさまは私の前に来て膝を付いてしゃがんでくれた。
「……ご武運を。」
額に一筋だけ垂れた赤い前髪をそっと手で払い、その精悍な額に口づけを落とした。
「……。」
「……これは、王都では危険な任務に向かう夫や恋人の帰還を願うおまじないです。……帰ったら、お返しのキスを……約束するんです……。」
「お返しのキスか……。」
「…約束のキスは……く、…唇に貰うのが決まりです。」
「そ、そうか……必ず返そう……。約束だ。」
エヴァンさまは照れながらもしっかりと頷いてくれた。
「この馬に乗るんですか?」
恥ずかしくて話題を変えようと、エヴァンさまの乗る馬を見た。
「ああ、この馬は大脚馬と言って魔獣だが、温厚で人懐っこい。俺たちは普通の馬には乗れないからな。」
普通の馬より目が大きくて垂れている。鼻も短くて何だか愛嬌のある顔だ。
「こいつはタートル。」
「こんにちはタートルさんっ!エヴァンさまをよろしくお願いします。」
タートルさんは『お前なんか知らないぞー。』なんて表情で私には興味が無さそうに欠伸を一つした。
するとエヴァンさまが私にまあるくてちょっと分厚い葉っぱを渡してくれた。
「これをやると態度が変わる。」
「え?……はい。」
恐る恐る口元に葉っぱを差し出すと、タートルさんはむしゃむしゃと口を縦にうごかして満足そうに咀嚼しはじめた。
ゴクンと葉っぱを飲み込むと、身体を私に擦り付け甘えてくる。
か、可愛い……。
「タートルさん、エヴァンさまをよろしくね。」
タートルさんは『勿論。』と言うようにブヒンッと小さく鳴いて返事をしてくれた。
やる気になったタートルさんはエヴァンさまを乗せて、「ブヒヒーーン」と大きく嘶いた。
「お気をつけて。」
私が声を掛けると、エヴァンさまはハンカチが入っているであろう胸のポケットに手を当て私を振り返った。
空が白み始める中、エヴァンさまの討伐隊はあっという間に見えなくなってしまった。
「キオネさま、走ると危ないですよ。」
「大丈夫よ。…あれっっーー」
ビターーーン
「キオネさまーーー!」
廊下で派手に転んでエリーゼに抱き起こされた。
「いたたたたっ。ごめんなさい。」
「大丈夫ですか?」
「ええ、絨毯がふかふかだから怪我はしてないと思う……。」
「ここ、絨毯が新しくなったんですよ。」
「ええ、本当ね。」
「あっ!キオネ様、お鼻が真っ赤かです。」
「うわっ。顔から転んだから……。」
絨毯が新しくなったのか……。
どおりでまた歩きにくいと思った。
辺境の兵士の靴底には滑り止めの突起が付いていて、床が傷まないように絨毯がふかふかになっている。しかも、所々捲れ上がってたりするのでとても歩きにくい。
以前
「王宮の絨毯はこんなにフカフカじゃ無かったわ。」
とエヴァンさまに言ったら
「王都の騎士は足場の悪い所に出たこと無いからな。」
と言って笑ってた。
そんな事を思い出していたら、
「キオネーーっっ!!」
廊下の奥からエヴァンさまが走ってきた。
「ど、どうされたんですか?」
「キオネの痛いって声が聞こえた。」
エヴァンさま、凄いです。
書斎、結構離れてますよね。
「すみません。驚かせて。躓いて転んじゃいました。」
「鼻が赤くなっている……。」
エヴァンさまが顔を近づけて確認してくるので恥ずかしい。
エヴァンさまは真剣な顔なのに照れちゃう。
あんまりじっと見ないでーー
「だ、大丈夫です。」
そう言って顔を反らせた。
あっ!
「そうだ、エヴァンさま。遠征のお守りにハンカチに刺繍を入れました。」
ジャーン!!
私は自信作の刺繍をエヴァンさまに見せた。
「凄いな。大変だっただろう?」
エヴァンさまはハンカチの刺繍を愛おしそうに指でなぞった。
喜んでもらえて嬉しい……。
「刺繍は得意です。」
ユピテル辺境伯家の紋章の周囲を蔦模様で囲み、小さい狼が寄り添うデザイン。
「ありがとう。大切に使うよ。」
ハンカチを大切そうに畳んで胸ポケットに仕舞うと、エヴァンさまは私の頬にチュッとキスをしてくれた。
私はそれだけで幸せな気分に満たされる。
そして彼は当たり前のように私を抱えて廊下を歩きだした。
「え、エヴァンさま?どちらへ?」
「明日からキオネと暫く会えない。今日はなるべく一緒にいたい。いいか?」
「え、は、はい。」
そうして私は一日中エヴァンさまの書斎で過ごすことになった。
エヴァンさまたちは明日から年2回行う魔獣の大規模討伐の遠征に出掛ける事になっていた。
~・~・~・~・~
「エリーゼ、明日の出発はお見送りしたいの。」
寝仕度をしながらエリーゼにエヴァンさまの出立の1時間前には起こして欲しいと伝えた。
きちんと婚約者らしくお見送りをしたい。
「ふふふ、キオネ様がお見送りをするのなら、閣下の気合いが入りますね。」
私は明日の早起きに備えて早々に布団に入った。
~・~・~・~・~
翌朝、早起きに成功し身支度を整えて玄関に出てみると、既に兵士たちは遠征の準備を整えていた。
「寒いわ。エヴァンさまどこかしら?」
夜明け前の暗がりの中、松明の灯りがあちらこちらで動いている。
一際大きい燈火台の傍にエヴァンさまが立っていた。
オレンジの灯りに照らされた顔は厳しい表情。討伐前の緊張感が漂っていた。
エヴァンさまは私が来たことに気が付くと、少し表情を緩めた。
「キオネ、見送ってくれるのか?ありがとう。」
「勿論です。これからも毎回お見送りさせていただきます。」
毎回大規模討伐では、数人の怪我人を出し、時には命を落とす兵士もいる危険な任務らしい。
エヴァンさまも兵士の皆様も戦闘服に身を包んでいた。
王都の騎士服とは違う、実戦用に誂えられた無骨なデザイン。
騎士服のような飾りは一切無くて……
その服に身を包んだエヴァンさまを近くで見たら急に、彼は危険な場所に行くことを実感して怖くなった。
「エヴァンさま。しゃがんでいただけますか?」
「ん?」
エヴァンさまは私の前に来て膝を付いてしゃがんでくれた。
「……ご武運を。」
額に一筋だけ垂れた赤い前髪をそっと手で払い、その精悍な額に口づけを落とした。
「……。」
「……これは、王都では危険な任務に向かう夫や恋人の帰還を願うおまじないです。……帰ったら、お返しのキスを……約束するんです……。」
「お返しのキスか……。」
「…約束のキスは……く、…唇に貰うのが決まりです。」
「そ、そうか……必ず返そう……。約束だ。」
エヴァンさまは照れながらもしっかりと頷いてくれた。
「この馬に乗るんですか?」
恥ずかしくて話題を変えようと、エヴァンさまの乗る馬を見た。
「ああ、この馬は大脚馬と言って魔獣だが、温厚で人懐っこい。俺たちは普通の馬には乗れないからな。」
普通の馬より目が大きくて垂れている。鼻も短くて何だか愛嬌のある顔だ。
「こいつはタートル。」
「こんにちはタートルさんっ!エヴァンさまをよろしくお願いします。」
タートルさんは『お前なんか知らないぞー。』なんて表情で私には興味が無さそうに欠伸を一つした。
するとエヴァンさまが私にまあるくてちょっと分厚い葉っぱを渡してくれた。
「これをやると態度が変わる。」
「え?……はい。」
恐る恐る口元に葉っぱを差し出すと、タートルさんはむしゃむしゃと口を縦にうごかして満足そうに咀嚼しはじめた。
ゴクンと葉っぱを飲み込むと、身体を私に擦り付け甘えてくる。
か、可愛い……。
「タートルさん、エヴァンさまをよろしくね。」
タートルさんは『勿論。』と言うようにブヒンッと小さく鳴いて返事をしてくれた。
やる気になったタートルさんはエヴァンさまを乗せて、「ブヒヒーーン」と大きく嘶いた。
「お気をつけて。」
私が声を掛けると、エヴァンさまはハンカチが入っているであろう胸のポケットに手を当て私を振り返った。
空が白み始める中、エヴァンさまの討伐隊はあっという間に見えなくなってしまった。
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