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帰還&約束の・・・
「エヴァンさまが今日の午後にはお帰りになるそうです。」
嬉しい。
耳と尻尾がピョコンと飛び出るのが分かる。
尻尾ふりふりが止まらない。
でも、冷静に、冷静に……。未来の領主夫人らしく振る舞わなくちゃ。
「お早いお帰りで良かったわ。お迎えの準備をしましょう。」
気取って上品にそう言うと、私はエントランスの花を変えたり、湯殿や食事の準備を皆に指示した。
お淑やかにしずしずと歩いているのに、尻尾だけはブンブンしちゃう。
耳をピコピコ動かせば、お姉さま方のヒソヒソ声が聞こえる。
「キオネさまのお耳と尻尾が出てるわっ。」
「閣下が居ない間、全然出なかったのにねー。」
「ふふふ。喜びが隠しきれないみたい……。」
「キオネさまが元気になって良かったわー。」
えーー!?
遠征の間、私は元気無かったと思われてたのかしら?
いつも通りに振る舞っていたつもりなのに……。心配かけてすみません。
私はウキウキ気分のまま、エヴァンさまをお迎えする準備を整えた。尻尾と耳はずっと飛び出たまま。
予定の時刻に合わせて、屋敷のみんなが外に出てエヴァンさま達の帰還を待った。
「あっ、帰ってらしたぞっ!!」
先頭の大脚馬に乗ったエヴァンさまが見える。怪我はしていないみたいで元気そう。
どや顔のタートルに乗ったエヴァンさまは、私を見つけると大きく手を振ってくれた。
恋する乙女の欲目か、エヴァンさまだけに後光が差して見える。
エヴァンさまがタートルから降りたところで私は彼に飛び付こうと駆け出した。
「ま、待て。キオネ。俺は魔獣の血や埃で汚れている。」
ピタリと止まりエヴァンさまを見上げる。
私は待てが出来る女です。
しっかりと止まりましたっ!
黒い戦闘服なので目立たないが、確かに身体のあちこちに血が付いているのが分かる。
でも、
エヴァンさまは元気そう。良かったーー。
久しぶりにエヴァンさまに会えた事が嬉しくて尻尾がパタパタ止まらない。
そんな私の尻尾に急かされるようにエヴァンさまはレベックさんに声を掛けた。
「湯は準備してあるか?」
「は、はい。用意してございます。」
「直ぐに入る。」
エヴァンさまは早足で屋敷に入ると、直ぐに風呂に入った。
ごめんなさい、エヴァンさま。
私の尻尾が急かせているようで……。
私はレベックさんにサロンで待つよう言われた。
「レベックさん、私の尻尾のせいでエヴァンさまを急かせてしまって申し訳ないわ。」
「閣下が居ない間、キオネさまの尻尾が見れなくて屋敷の者たちも心配しておりました。皆、喜んでおりますよ。」
エヴァンさまがお風呂から上がるのをそわそわして待っていると、濡れた髪をガシガシと拭きながらエヴァンさまが部屋に入ってきた。尻尾は今や最高潮っ!
はだけたシャツの隙間から、盛り上がった筋肉がチラチラ見えて色っぽい。
キャーっっ。
恥ずかしいけど横目で見ちゃうっ。
いつもこの胸に抱きしめられていたのかと思うと頬が熱くなる。
エヴァンさまは私を見て微笑むと両手を広げてくれた。
「キオネ、ただいま。こっちにおいで。」
お淑やかにしたいのに、嬉しくてやっぱり飛び付いてしまう。エヴァンさまの胸の中で石鹸の香りを吸い込みながら、彼の肩に頬擦りした。
「寂しかった?」
「寂しかったけどお屋敷の人たちがみんな親切にしてくれました。」
「俺も寂しかった。キオネの事が気になって仕方が無かったよ。」
「エヴァンさまは危険な討伐なのですから、集中してください。」
「ははっ、そうだな。」
エヴァンさまの首筋に顔を埋めたまま小声で会話する。こうすると、真っ赤になった顔を見られなくてすむから話しやすい。
そう思っていると、エヴァンさまは私を抱きかかえたままソファーに座り少し身体を離した。
急に至近距離で見つめ合う格好になり、恥ずかしい………。
きゃーっっ、ち、近いっ!!
エヴァンさまは真剣なお顔で私をじっと見つめる。
「や、約束のキスを……。」
忘れてたっ!
エヴァンさまが心配で、怪我をしないようにおまじないしたんだ……。
帰って来てくれるだけで浮かれてて頭からすっぽり抜け落ちてたっ。
こ、心の準備がーーーーーっ!!!
とはいえ、
その時は来てしまうもので……
チュッ
エヴァンさまの唇が優しく重ねられ、軽くリップ音を鳴らして離れていく……。
えっ?えっ?
終わり?
私の読む恋愛小説ではキスって温かくて気持ちいいって書いてあったのに……。
体温なんて感じなかったわ。
エヴァンさまが照れ屋で短すぎるのかしら?
お風呂で唇も冷えてる?
あっ。
私の尻尾がエヴァンさまのお風呂を急かせたからエヴァンさまが冷えてしまったのね?
「え、エヴァンさま、お身体が冷えています。もう一度湯殿に浸かってきては?」
「いや、充分に温まったよ。何故そう思う?俺の身体が冷たいのか?」
「い、いえ……唇が温かく無かったので、冷えてるのかな?…と……。」
「うん?唇が温かくない??」
エヴァンさまは自分の手を唇に当て考える仕草をした。
「わ、私の読む恋愛小説にキスは温かいって書いてあったのに……ぁんまり温かく無いなぁーって……。」
徐々に声が小さくなっちゃう。
私、もしかして……凄く恥ずかしいことを喋ってる??
「そうか……温かいキスか……。」
エヴァンさまは私の顎を掬い、怪しく微笑んで今度はじっくりと唇を合わせる。
「ぅん。」
今度のキスはじっくりと唇が合わさりエヴァンさまの体温を感じることが出来る。
角度を変えて何度も口づけを交わすと、エヴァンの吐息が、熱が……伝わる……。
きゃー、きゃー、
私は内心で大騒ぎ、だけど………
口づけを重ねる度、息が苦しくて、何だか、何も考えられなくなってくる……。
頭の中が蕩けていくみたい……。
私がぐったりした頃、漸くエヴァンさまは唇を離してくれた。
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