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その後
「エヴァンさまぁー、レグルスー、お茶入れたから休憩にしましょうよ!」
あれから私はもう一人男の子と女の子を一人産んだ。
長男のレグルスは今や私が見上げるぐらい大きくて、お父さんに似た筋肉質な身体はちょっと細身ながらも充分に引き締まっている。
我が子を見上げるって何だか悔しい。
5才から剣を握りエヴァンさまや辺境の兵士に鍛えられてきた。
やんちゃな素質のあるレグルスはみるみると強くなった。
ある日ーーー
「母上やったーー!父上が俺を大規模討伐に参加させてくれるって!」
討伐に参加することが決まり、レグルスは目を輝かせて私に報告してきた。
お父さんに一人前として認められたことが嬉しかったみたい。
レグルスは15才。初めての大規模討伐への参加。
彼は鍛練にも真面目に取り組んでいたし、討伐への準備も慎重だった。
けれど、討伐中にレグルスが転倒したせいで、魔獣に襲われそうになり、庇った兵士が一人怪我をした。
討伐から帰ってきたエヴァンさまは見たことのない厳しい表情をしていた。
「弱いのではない。気を抜いていた訳でもない。ただどこか危機感が足りないのだ。」
その日から、エヴァンさまはレグルスを鍛えるため、自ら稽古をつけている。
※※※
私が大きな声で呼び掛けると、二人は振り向いて此方に歩いて来た。
「っ!!」
駆け寄ってきたレグルスを近くで見ると、大小沢山の傷があって服もボロボロ。
………
毅然としなくちゃ……。
エヴァンさまの視線を感じる。
私は努めて冷静に、レグルスにほんの少し冷めたお茶を渡した。
休憩中は少しだけエヴァンさまの表情が和らぐ。父親として、領主として、エヴァンさまは領民を守れる領主へとレグルスを育てる責任がある。
父親の厳しさも慈悲も、きっとレグルスは理解して厳しい訓練に耐えている。
「おかあさま~~、イリアも一緒にお茶のむ~っ!!」
トテトテと6才になる末娘のイリアが歩いて来た。
イリアはレグルスを見てびっくりして泣き出してしまった。
「おにぃちゃー、いたい?」
レグルスに近づいてその小さな手を頬の擦り傷に当てた。
瞳に涙をいっぱい浮かべて、今にも泣き出しそう。
エヴァンさまの表情が、ほんの少し罪悪感に歪むのを見て、私はイリアを抱っこした。
「お兄ちゃんは大丈夫よ。治癒師に治療して貰うからね。イリアは向こうでお母様と一緒に遊びましょう。」
「ああ、イリア。お兄ちゃんは大丈夫だからあっちで遊んでおいで。お兄ちゃんは訓練があるからね。」
レグルスの笑顔を見て、やっとイリアは安心したようにニカッと笑った。
「お兄ちゃん頑張ってくださいっ!」
エヴァンさまは二人のやり取りを複雑そうな表情で見ていた。
イリアは私が抱っこして頭を撫でると嬉しいのか、小さな尻尾をブンブン振り回して、キャッキャと幼児特有の甲高い笑い声をあげる。
ふと振り返るとエヴァンとレグルスは鍛練に戻るようで、向こうへと歩いていくのが見えた。
近づき難い大きな背中。
男同士の立ち入れない世界。
私はその姿を見送ることしか出来ない。
~~~~~
「キオネ………。」
夜、お風呂から出て寝室に入ってきたエヴァンさまがベッドに腰を下ろす。
少し、落ち込んでいるのかしら?
手を伸ばして彼の真っ赤な髪を梳いた。
「お疲れなのですか?」
「……ん。まあな。」
エヴァンさまは私をそっと抱きしめた。
温かくて硬い……大きな胸はいつもの石鹸の香りがする。
「レグルスもわたくしも……、エヴァンさまの背負っているものの大きさは理解しているつもりです。私にも……エヴァンさまの辛さを少し分けてくださいませ……。」
エヴァンさまは泣き笑いみたいに複雑な表情を見せた後、私の頬に手を添え親指でそっと唇をなぞる。
「結婚して随分経つが、キオネの強さを知るたびに、俺はどんどんキオネに溺れていくみたいだ。その小さな身体にどれだけの強さを秘めているのだろうな……。」
薄暗い照明の中、赤い瞳が煌めく。
「そんなに強くありません。」
その視線の強さに思わず目を反らすように俯くと、顎を掬われ強く唇を押し付けられる。
下唇を食まれ、舌を吸われる。少し、唇を離すと、瞼に、頬に、鼻に、キスが降りてくる。
こうやってエヴァンさまの気持ちが高ぶっている時には抗わず身を任せる他、ない。
くたりと力を抜いた私をぎゅっと抱きしめ、エヴァンさまは耳元で大きく息を吐いた。
「キオネ、愛してる。ソナタの中に入りたい。」
その日エヴァンさまは私への愛しさが爆発したみたいで、久しぶりに一晩中寝かせて貰えなかった。
私の耳元で何度も好きだと囁いてくれる。
名前を呼びながら果ててくれる。
それが震えるほど嬉しい。
エヴァンさまの心が身体が…私をひたすらに求めてくれる。
~~~~~
「キオネ………ありがとう。」
朝動けなくなった私の額に口づけを落とし尻尾を撫でると、エヴァンさまは仕事へと向かっていった。
※一応一旦完結とさせていただきます。
何か思い付けば小話を書きたいと思っています。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。
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