婚約破棄された私は辺境伯家で小動物扱いされています

文字の大きさ
26 / 29

その後



「エヴァンさまぁー、レグルスー、お茶入れたから休憩にしましょうよ!」

あれから私はもう一人男の子と女の子を一人産んだ。
長男のレグルスは今や私が見上げるぐらい大きくて、お父さんに似た筋肉質な身体はちょっと細身ながらも充分に引き締まっている。

我が子を見上げるって何だか悔しい。

5才から剣を握りエヴァンさまや辺境の兵士に鍛えられてきた。
やんちゃな素質のあるレグルスはみるみると強くなった。

ある日ーーー

「母上やったーー!父上が俺を大規模討伐に参加させてくれるって!」

討伐に参加することが決まり、レグルスは目を輝かせて私に報告してきた。
お父さんに一人前として認められたことが嬉しかったみたい。

レグルスは15才。初めての大規模討伐への参加。
彼は鍛練にも真面目に取り組んでいたし、討伐への準備も慎重だった。

けれど、討伐中にレグルスが転倒したせいで、魔獣に襲われそうになり、庇った兵士が一人怪我をした。

討伐から帰ってきたエヴァンさまは見たことのない厳しい表情をしていた。

「弱いのではない。気を抜いていた訳でもない。ただどこか危機感が足りないのだ。」

その日から、エヴァンさまはレグルスを鍛えるため、自ら稽古をつけている。

※※※

私が大きな声で呼び掛けると、二人は振り向いて此方に歩いて来た。

「っ!!」

駆け寄ってきたレグルスを近くで見ると、大小沢山の傷があって服もボロボロ。

………

毅然としなくちゃ……。
エヴァンさまの視線を感じる。
私は努めて冷静に、レグルスにほんの少し冷めたお茶を渡した。

休憩中は少しだけエヴァンさまの表情が和らぐ。父親として、領主として、エヴァンさまは領民を守れる領主へとレグルスを育てる責任がある。
父親の厳しさも慈悲も、きっとレグルスは理解して厳しい訓練に耐えている。

「おかあさま~~、イリアも一緒にお茶のむ~っ!!」

トテトテと6才になる末娘のイリアが歩いて来た。
イリアはレグルスを見てびっくりして泣き出してしまった。

「おにぃちゃー、いたい?」

レグルスに近づいてその小さな手を頬の擦り傷に当てた。
瞳に涙をいっぱい浮かべて、今にも泣き出しそう。
エヴァンさまの表情が、ほんの少し罪悪感に歪むのを見て、私はイリアを抱っこした。

「お兄ちゃんは大丈夫よ。治癒師に治療して貰うからね。イリアは向こうでお母様と一緒に遊びましょう。」

「ああ、イリア。お兄ちゃんは大丈夫だからあっちで遊んでおいで。お兄ちゃんは訓練があるからね。」

レグルスの笑顔を見て、やっとイリアは安心したようにニカッと笑った。

「お兄ちゃん頑張ってくださいっ!」

エヴァンさまは二人のやり取りを複雑そうな表情で見ていた。
イリアは私が抱っこして頭を撫でると嬉しいのか、小さな尻尾をブンブン振り回して、キャッキャと幼児特有の甲高い笑い声をあげる。

ふと振り返るとエヴァンとレグルスは鍛練に戻るようで、向こうへと歩いていくのが見えた。

近づき難い大きな背中。
男同士の立ち入れない世界。
私はその姿を見送ることしか出来ない。



~~~~~



「キオネ………。」

夜、お風呂から出て寝室に入ってきたエヴァンさまがベッドに腰を下ろす。
少し、落ち込んでいるのかしら?
手を伸ばして彼の真っ赤な髪を梳いた。

「お疲れなのですか?」

「……ん。まあな。」

エヴァンさまは私をそっと抱きしめた。
温かくて硬い……大きな胸はいつもの石鹸の香りがする。

「レグルスもわたくしも……、エヴァンさまの背負っているものの大きさは理解しているつもりです。私にも……エヴァンさまの辛さを少し分けてくださいませ……。」

エヴァンさまは泣き笑いみたいに複雑な表情を見せた後、私の頬に手を添え親指でそっと唇をなぞる。

「結婚して随分経つが、キオネの強さを知るたびに、俺はどんどんキオネに溺れていくみたいだ。その小さな身体にどれだけの強さを秘めているのだろうな……。」

薄暗い照明の中、赤い瞳が煌めく。

「そんなに強くありません。」

その視線の強さに思わず目を反らすように俯くと、顎を掬われ強く唇を押し付けられる。
下唇を食まれ、舌を吸われる。少し、唇を離すと、瞼に、頬に、鼻に、キスが降りてくる。
こうやってエヴァンさまの気持ちが高ぶっている時には抗わず身を任せる他、ない。
くたりと力を抜いた私をぎゅっと抱きしめ、エヴァンさまは耳元で大きく息を吐いた。

「キオネ、愛してる。ソナタの中に入りたい。」

その日エヴァンさまは私への愛しさが爆発したみたいで、久しぶりに一晩中寝かせて貰えなかった。
私の耳元で何度も好きだと囁いてくれる。
名前を呼びながら果ててくれる。
それが震えるほど嬉しい。
エヴァンさまの心が身体が…私をひたすらに求めてくれる。


~~~~~


「キオネ………ありがとう。」

朝動けなくなった私の額に口づけを落とし尻尾を撫でると、エヴァンさまは仕事へと向かっていった。






※一応一旦完結とさせていただきます。
何か思い付けば小話を書きたいと思っています。
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。
感想 238

あなたにおすすめの小説

兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした

こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】 伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。 しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。 そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。 運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた―― けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった―― ※「小説家になろう」にも投稿しています。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

【完結】私は義兄に嫌われている

春野オカリナ
恋愛
 私が5才の時に彼はやって来た。  十歳の義兄、アーネストはクラウディア公爵家の跡継ぎになるべく引き取られた子供。  黒曜石の髪にルビーの瞳の強力な魔力持ちの麗しい男の子。  でも、両親の前では猫を被っていて私の事は「出来損ないの公爵令嬢」と馬鹿にする。  意地悪ばかりする義兄に私は嫌われている。

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

冷徹義兄の密やかな熱愛

橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。 普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。 ※王道ヒーローではありません