不眠症魔術師の添い寝婦として雇われました

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3.住み込み一日目の夜

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私は王宮の宿舎を引き払いその足でギャビン室長の屋敷へと案内された。
王宮よりも良い仕事を見つけた今、女官長にはそれはもう嫌味な程清々しい笑顔でお別れの挨拶をしてきた。
王宮に未練なんてもう無い。

~~~

ギャビン室長に案内されたのは、広くて手入れの行き届いた屋敷だった。
無駄なものや装飾がほとんど無く寂しい印象。

確か……先代の室長ノア様は子爵位だったような……。

「ここでの住み込みとなるが、日中は自由時間だ。好きに過ごすといい。」

「この屋敷には使用人さんは?」

あまりにも屋敷内が静かで、人の気配も無い。

「通いの家政婦が一人。食事はほとんど外で食べるからコックは居ない。」

今はほとんど使っていないと見せて貰ったキッチンは、広くて使い勝手が良さそうっ!!
使わないなんて勿体無い。

「では、キッチンを使用しても良いですか?」

「ああ、自分で食べる分は自分で作ればいい。ここでの生活費の他に、王宮勤めをしている間に実家に送っていた金額と同じだけを実家の男爵家に送ろう。」

「そんなに高いお金……。良いんですか?」

「使う事が無いからな。子爵家はノア様の実弟が継いでいるし、俺はこの魔術の研究に使っていた屋敷だけを貰った。何も縛られることも無い自由の身だ。」

気楽に働けそう。
食事は自炊して節約出来るといいけど……。

今日のところは夕食の準備もしていないため、二人で近くの食堂に行って夕食を食べた。
共通の話題は王宮の話だけ。
ギャビン室長に愚痴を聞いて貰う形になってしまった。
なんだか申し訳なく思うけど許して欲しい。。
緊張……していたのだ。

屋敷に帰ると先に風呂に入るように勧められた。
先に入るなんて…、と遠慮したが、室長は頑として譲らない。
結局、私が先に入ることになった。

男の人の部屋のお風呂に入るなんて………。
まるで今からイケナイことをするみたいにドキドキして胸が高鳴る。

シャンプーも石鹸も、王宮の共同風呂に置いてあるものとは違って高級感がある。

「あーいい匂い。一人でゆっくりお風呂に入るなんて何年ぶりかしら?」

浴室も一人で入るには充分な広さ。
ゆっくりと贅沢な時間を堪能して、お風呂から上がり寝支度を整える。
その間にギャビン室長も一人でお風呂に入ったようだ。

「ナイトキャップはどうだ?」

私が髪を乾かして肌の手入れが終わった頃、濡れた髪をガシガシと無造作に拭きながらギャビン室長が寝室に入ってきた。
髪が濡れると更に色気が増しているみたい。

色男……、恐るべし。

「い、いえ、遠慮しておきます。昨日の記憶も曖昧なので、」

「じゃあ、もう寝るか。」

ギャビン室長はさっさとベッドに入ると自分の隣に来いというように、ポンポンとベッドを叩いた。

「し、失礼します。」

おずおずと布団の中に潜り込むと、室長は私を抱き込むように腕を回した。

「ああ、おやすみ。……よく眠れそうだ。」

ひゃーーひゃーーー
室長から、なんだか男の人の匂いがする。
腕も太くって、胸板も厚い。
男の人って……私と全然違う。
室長は私と一緒にベッドに入って何にも感じないのかしら?

顔を上げると、穏やかな表情で目を閉じて健やかな寝息が聞こえる。

もう寝てるっ?
確かに慢性的に不眠症で、寝不足だって言ってたけど………。

私は意識のある状態で男の人と寝るのは初めてで、ガチガチに緊張しているのに……。
すやすや眠る、室長がちょっと怨めしい……。

だいたい何よ!
寝顔も凄く綺麗。
美形ってやっぱり違う。いつまでも見てられるもの。
はぁ、私……今晩眠れないわ……。


~~~~~


ギャビン室長視点

「ん……?………っっ!!?」

いつの間にか俺の腕枕でクラリッサが眠っている。


何年間にも渡る慢性的な不眠症のせいで眠気は限界だった。
なんだかほっとする雰囲気の彼女と布団に入って俺は瞬く間に眠りについた。

けれどーーー

俺っ!!
どうして今起きた??

いつもどこか物憂げなクラリッサが、今俺の腕の中で無防備に眠っている。

どうしてこんなにもすやすや眠れるんだ?
警戒心が無さすぎるだろう?

「ん……。」

彼女が身じろぎすると甘やかな香りが立ち上がり鼻腔を擽る。
少しはだけた襟元から見える鎖骨のしたに伸びるなだらかな曲線が目に入る。
これは…
思っていたよりかなりヤバいな。
ゴクリと唾を飲み込んで堪える。

無防備に少し空いた唇はふっくらとしてて柔らかそうで、ほんの少し顔を寄せればその甘さを堪能出来るだろう。

そんな良からぬ想像に股間がムクムクと反応する。
はぁーー。
彼女の身体の体温が直に伝わるこの状況で眠れる訳がない。

俺は悶々とした気持ちのまま、窓の外が仄かに明るくなるまで眠れず朝を迎えた。

この邪な気持ちを悟られず、朝シャワーを浴びたい。
クラリッサに胯間の状態も充血した目も見られたく無い。
俺はクラリッサが起きる前に、ベッドから降りてシャワーを浴びるため浴室へと向かった。
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