不眠症魔術師の添い寝婦として雇われました

文字の大きさ
5 / 19

5.住み込み二日目の夜

しおりを挟む

ギャビン視点

昨夜はキツかった。
忍耐力がギリギリだったように思う。

初めは良かった。
クラリッサと眠ると安らかな気持ちになり、寝入るのはスムーズだった。
意識が心地よい微睡みの中に沈んでいく。
悪夢も見ない。
本当に深い睡眠。

けれど突然、夜中に目が覚めた。
悪夢に魘されて飛び起きるのでは無くて、ふと睡眠に終わりが訪れる……。
そんな風な目覚め方。

それからはひたすら忍耐の時間が続いた。
時々香ってくる彼女の甘い匂いは悪魔的だ。

~~~~~

翌日、俺は兎に角今夜は必ず眠れるようにと、魔力を意識を保てるギリギリまで使った。
王宮を出る頃には、既にふらふらで気を張っていないと意識が飛びそうな状態。
家の近くの食堂で掻き込むように夕食を食べて家に帰る。
今日はアイマスクをして眠ることに決めていた。これで余計な煩悩は起きないだろう。

覚束無い足取りで、眠りに落ちる寸前の幸福感を楽しみに屋敷の扉を開けた。

「お帰りなさいませ、旦那さま。」

「……。」

クラリッサが赤いエプロンを身に付けて俺を出迎えてくれた。
花が綻ぶような、ふわりとした笑顔。

……ん?
今……なんと?

思わぬ言葉に一瞬思考が停止した。

「だ、旦那さま?俺のことか?」

「はい。王宮を辞めたのにいつまでも役職で呼ぶのはおかしいと思って……。ダメ……でした……か?」

「い、いや、そうか。そうだな。……旦那さま……か。」

「お仕事お疲れ様です。私、今日旦那さまが良く眠れるようにスープを作ったんですよ。安眠のために良い食材を使っています。飲んでくださいませんか?」

「スープ……わざわざ作ってくれたのか。ありがとう。いただくよ。」

「では、旦那さまがお風呂に入っている間に用意しておきますね。お風呂も沸いてますからどうぞ。」

ふと屋敷を見渡すと、掃除をしたのか全体的にスッキリとしていて、あちこちに花が飾ってある。
屋敷全体が明るくて温かい雰囲気の空間になっている。

まるで新婚家庭ではないか!?

入浴中は何度も意識を落としそうになった。
眠るというより最早気絶に近い状態なのだろう。

さすがに今日は魔力を使いすぎたか?
まあ、お蔭で仕事は捗ったが……。

俺は何とか風呂から上がり、クラリッサの作ってくれたスープを飲み干した。

味も良くて、身体がぽかぽか温かくなるスープだった。
「だが……。」

「クラリッサ。これは何が入っている?」

「えっと……………。」

クラリッサの教えてくれた食材は全て精力剤の原料となるもので……。

しかもこの寝室には妙な香りがする。
甘くて官能を呼び覚ますような危険な香り。

俺はこのままじゃ、下半身をおっ勃てたまま眠ってしまう。

俺は素早くアイマスクを着けてクラリッサを抱き込み、ベッドに倒れ込んだ。
もう何も考える事など出来なかった。
アイマスクを着けた俺を彼女が訝しがっていたのは分かったが、説明する気力も無かった。
寝てしまえばいいのだ。

ああ、彼女がそばにいると安心する。

限界に達していた俺は、心地よい眠りの海に沈んでいった。

~~~~~

「……またか……。」

今夜も、心地よい睡眠の終わりが唐突に訪れた。

アイマスクをしているから視界は真っ暗。
しかし……。
昨夜のネルの厚手のパジャマと違って、薄手のパジャマからは、クラリッサの柔らかな肌と体温を直に感じとってしまう。彼女の静かな呼吸音と、胸に掛かる熱い吐息。

俺の胸に当たるふわふわした感触は………。
気になって仕方がない。
寝室に漂う香の匂いに、彼女の肌から立ち上がる甘い香りが混ざって俺を煽る。
視界を塞いだせいで尚更感覚が研ぎ澄まされ、あられもない妄想を生み出していく。
もっといろんな所を触りたい、味わいたい、クラリッサを組み敷きたい。

初めて閨を共にした時、クラリッサは『そのつもりだった』と言っていた。

今日は旦那さまと呼ばれ、精力の付くスープを食べさせられ、寝室には欲情を煽る香が焚いてあった。パジャマも薄手で身体の線がハッキリと分かるものに変えてある。

これは誘っていると考えて問題ないのだろう……。

このまま、手を伸ばしても問題ないよな?

そっと彼女の背中に手を這わせ、ゆっくりと臀部までを撫でていく。
薄手のパジャマの生地は滑らかで、自分とは違う柔らかな感触を指に感じる。

「……んっ……。」

俺の胸の中で身じろぎした彼女の髪が顔に掛かって擽ったい。ふわりと香るシャンプーの匂い。

いいよな?

俺はもう我慢出来ずにアイマスクを外した。
目に入ったのはクラリッサの警戒心の無い安らかな寝顔。

『襲うことはしない。約束しよう。』

自分が彼女に言った言葉が甦り手を止める。

そして俺は再び悶々としたまま朝を迎えた。


しおりを挟む
感想 106

あなたにおすすめの小説

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...