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5.住み込み二日目の夜
しおりを挟むギャビン視点
昨夜はキツかった。
忍耐力がギリギリだったように思う。
初めは良かった。
クラリッサと眠ると安らかな気持ちになり、寝入るのはスムーズだった。
意識が心地よい微睡みの中に沈んでいく。
悪夢も見ない。
本当に深い睡眠。
けれど突然、夜中に目が覚めた。
悪夢に魘されて飛び起きるのでは無くて、ふと睡眠に終わりが訪れる……。
そんな風な目覚め方。
それからはひたすら忍耐の時間が続いた。
時々香ってくる彼女の甘い匂いは悪魔的だ。
~~~~~
翌日、俺は兎に角今夜は必ず眠れるようにと、魔力を意識を保てるギリギリまで使った。
王宮を出る頃には、既にふらふらで気を張っていないと意識が飛びそうな状態。
家の近くの食堂で掻き込むように夕食を食べて家に帰る。
今日はアイマスクをして眠ることに決めていた。これで余計な煩悩は起きないだろう。
覚束無い足取りで、眠りに落ちる寸前の幸福感を楽しみに屋敷の扉を開けた。
「お帰りなさいませ、旦那さま。」
「……。」
クラリッサが赤いエプロンを身に付けて俺を出迎えてくれた。
花が綻ぶような、ふわりとした笑顔。
……ん?
今……なんと?
思わぬ言葉に一瞬思考が停止した。
「だ、旦那さま?俺のことか?」
「はい。王宮を辞めたのにいつまでも役職で呼ぶのはおかしいと思って……。ダメ……でした……か?」
「い、いや、そうか。そうだな。……旦那さま……か。」
「お仕事お疲れ様です。私、今日旦那さまが良く眠れるようにスープを作ったんですよ。安眠のために良い食材を使っています。飲んでくださいませんか?」
「スープ……わざわざ作ってくれたのか。ありがとう。いただくよ。」
「では、旦那さまがお風呂に入っている間に用意しておきますね。お風呂も沸いてますからどうぞ。」
ふと屋敷を見渡すと、掃除をしたのか全体的にスッキリとしていて、あちこちに花が飾ってある。
屋敷全体が明るくて温かい雰囲気の空間になっている。
まるで新婚家庭ではないか!?
入浴中は何度も意識を落としそうになった。
眠るというより最早気絶に近い状態なのだろう。
さすがに今日は魔力を使いすぎたか?
まあ、お蔭で仕事は捗ったが……。
俺は何とか風呂から上がり、クラリッサの作ってくれたスープを飲み干した。
味も良くて、身体がぽかぽか温かくなるスープだった。
「だが……。」
「クラリッサ。これは何が入っている?」
「えっと……………。」
クラリッサの教えてくれた食材は全て精力剤の原料となるもので……。
しかもこの寝室には妙な香りがする。
甘くて官能を呼び覚ますような危険な香り。
俺はこのままじゃ、下半身をおっ勃てたまま眠ってしまう。
俺は素早くアイマスクを着けてクラリッサを抱き込み、ベッドに倒れ込んだ。
もう何も考える事など出来なかった。
アイマスクを着けた俺を彼女が訝しがっていたのは分かったが、説明する気力も無かった。
寝てしまえばいいのだ。
ああ、彼女がそばにいると安心する。
限界に達していた俺は、心地よい眠りの海に沈んでいった。
~~~~~
「……またか……。」
今夜も、心地よい睡眠の終わりが唐突に訪れた。
アイマスクをしているから視界は真っ暗。
しかし……。
昨夜のネルの厚手のパジャマと違って、薄手のパジャマからは、クラリッサの柔らかな肌と体温を直に感じとってしまう。彼女の静かな呼吸音と、胸に掛かる熱い吐息。
俺の胸に当たるふわふわした感触は………。
気になって仕方がない。
寝室に漂う香の匂いに、彼女の肌から立ち上がる甘い香りが混ざって俺を煽る。
視界を塞いだせいで尚更感覚が研ぎ澄まされ、あられもない妄想を生み出していく。
もっといろんな所を触りたい、味わいたい、クラリッサを組み敷きたい。
初めて閨を共にした時、クラリッサは『そのつもりだった』と言っていた。
今日は旦那さまと呼ばれ、精力の付くスープを食べさせられ、寝室には欲情を煽る香が焚いてあった。パジャマも薄手で身体の線がハッキリと分かるものに変えてある。
これは誘っていると考えて問題ないのだろう……。
このまま、手を伸ばしても問題ないよな?
そっと彼女の背中に手を這わせ、ゆっくりと臀部までを撫でていく。
薄手のパジャマの生地は滑らかで、自分とは違う柔らかな感触を指に感じる。
「……んっ……。」
俺の胸の中で身じろぎした彼女の髪が顔に掛かって擽ったい。ふわりと香るシャンプーの匂い。
いいよな?
俺はもう我慢出来ずにアイマスクを外した。
目に入ったのはクラリッサの警戒心の無い安らかな寝顔。
『襲うことはしない。約束しよう。』
自分が彼女に言った言葉が甦り手を止める。
そして俺は再び悶々としたまま朝を迎えた。
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