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しおりを挟む「ただいま、アイ姉ちゃん!」
「おかえり、トーイって、あれ?王城でなんかお祝いの宴でもあるんじゃないの?」
トーイは魔王討伐の長い旅から帰って来たというのに、毎日会っていたかのように当たり前の調子で家に入って来た。
「うん、でもアイ姉ちゃんのメシが食いたい。獅子肉持ってきたからさっ。お願いっ!下処理もしてあるから、唐揚げにしてよっ。」
身体は大きくなったくせにあの頃と同じ屈託の無い笑顔。
笑うと八重歯が見えて、ちょっと怖い顔が幼く見える。
「分かったよ。ちょっと待ってて。」
私は昔から彼の笑顔に逆らえない。
彼の要望に応えるべく、キッチンに向かって下味の材料を混ぜ始めた。
「変わんないね、姉ちゃん家の中。」
彼は懐かしむように部屋を見回すと、いつも座っていた椅子に座った。
懐かしい光景に顔が綻ぶ。
「俺さー世界中旅してアイ姉ちゃん連れて行きたいとこ何ヵ所か見つけたんだよね。」
「へー、どんな場所?」
背中で彼の声を聞きながら、獅子肉に下味を揉み込んでいく。
「えーと、南の方の島で、果物がこの辺で採れるやつと全然違うんだ。腐っちゃうから持って帰られなかったけど、アイ姉ちゃんに食べさせてあげたかったなー。」
「気持ちだけいただいておくね。」
「なんだー行きたくないのか?俺、姉ちゃんが安心して暮らしていけるように頑張ったんだぜ。」
「あはは、ありがとね。」
「ちぇっ。本気にしてくれないんだもんなー。俺は大人になったってのに……。」
彼は勇者に選ばれるまではよくここに食べに来ていた。
彼の両親は彼を下僕のように働かせ、あまり食事を与えなかった。
だから、彼は小さくて痩せこけていた。
私が誘うと喜んで我が家に来て、何か食べて帰ることが多かったのだ。
「そうだね。トーイ大きくなったね。魔王討伐の旅は大変だった?」
「あー、大変だったよ。でもユンフィーとジンもいいヤツらで仲間に恵まれたよ。」
「へー、聖女様と魔導師様?」
「そー、そんであいつらさー実は…………」
ーーコンコンコン
彼と何気無い話をしながら料理を作っていると会話を遮るようにノックの音が響いた。
「ちょっと待ってトーイ、お客様みたい。どなた?」
ーーガチャ
「トーイ様が此方に来ていませんか?」
玄関ドアを開けると、城の兵士らしき男性が三人立っていた。帯刀しており、威圧感がある。
「ええ…、居ますが?」
「失礼しても?」
「……は、はい、どうぞ。」
兵士達は家の中にズカズカと入って来た。
正直怖い。
身体の大きな兵士三人に囲まれて震えながら奥に案内した。
奥にはトーイが居るから家に入れたが、トーイに出て来て貰えば良かったと少し後悔した。
「アイ姉ちゃん、誰?」
トーイは玄関の騒がしさに気が付いてダイニングから出て来てくれた。
久しぶりに見る不機嫌顔は彼が怒っているのが分かった。
「トーイ様、王城での宴がありますので。」
兵士はトーイを見つけた途端に態度を変えた。
「何だよ、魔王倒したら好きにしていいって約束だろっ!!」
「はっ、それは何とも……。陛下がお待ちです。王城にお戻りください。」
「嫌だ!」
トーイが拒否するとそれまで偉そうな印象だった兵士達が明らかに狼狽えだした。
「い、いえ。それでは我々も困ります。」
兵士達だって命令で探しに来ただけだ。陛下の命令を聞かないなんて思って無かったに違いない。
「皆さん困ってるわ。陛下と話してきたら?帰って来たら食べれば良いじゃない。待ってるよ?」
「うーん。分かった。あいつら強引なんだ。でも絶対戻ってくるからっ!!姉ちゃん唐揚げ作っておいて。俺食べるからさっ!」
「さっ、勇者トーイ様。急いでください。もう始まる時間です。」
トーイは兵士に連れられてしぶしぶ王城に出掛けて行った。
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