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「獅子肉の唐揚げ覚めちゃったよ……。」
返事がないのが分かっていて、小さく呟いた。
いつも静かなこの家も、トーイが一人来ただけで一気に明るくなった。
賑やかさの残像だけを残してトーイはまた去っていった。
ずっと不在にしていた時より余計に寂しく感じる。
彼の言葉を信じて待っていた。
昔から約束を破ったことなんて無いから………。
でも、宴に連れていかれたのだから戻るのは難しいのかもしれない。
「もう、こんな時間………。」
もう、流石に戻っては来ないだろう。
だけど、もう少し……。
大変な旅に出ていたトーイを少しでも労ってあげたい。
獅子肉にかぶり付く彼を見たかった。
そう思っている間に椅子に座ったままうとうとと眠ってしまい、朝を迎えた。
★★★
「トーイたちのための宴だもの。帰って来れないよね。」
独りで喋りながら冷めてしまった唐揚げを片付けた。
「もしかしたら今晩また来るかも。好物でも作ってやるか…。」
彼が戻ってきた時に懐かしい料理を食べさせてあげたい。
そう思った私は、町に買い出しへと出掛けた。
彼の好物だった野菜や果物を買っていく。
「さすがに買いすぎたかぁー。トーイが来なかったら腐らせちゃうわ。」
独り暮らしだというのに買った食べ物の量に驚いてしまう。
あの頃より更に沢山食べるのだろうと思って余計に買いすぎた。
「おーい!号外だ!マルガリーゼ様と勇者トーイ様の婚約が発表されたぞっ!!」
(えっ??)
新聞売りの少年が号外を高々と掲げ次々と売り捌いていく。
新聞のあまりの人気に人々は我先にとコインを片手に新聞に手を伸ばす。
(そうか、彼は王女様と結婚するのか。)
もう私の家で食べ物をねだることは無いのだろう。
王女様の婚約者になったのだから、女性の独り暮らしの家に来れる訳が無い。もう、立場が違うし二度と会えないかもしれない。
(貰った獅子肉どうしよう……?トーイは私に結婚の報告に来るつもりなのかな?)
報告に来ても家には入らないだろう。報告だって手紙かもしれない。
(もう待つ必要ないんだな。)
町がこの話題で大騒ぎになっているのを、どこか遠くに聞きながらぼんやりとそんな事を思っていた。
『大きくなったらアイ姉ちゃんと結婚する。』
少年時代の彼のそんな戯言を本気にしてたわけじゃ無い。
そんなの本気にする方が馬鹿だ。
彼に言ったら
『そんな事言ったっけ?覚えてないや。』
そう言われるかもしれない。
けど、何故か忘れられなくて……。
今までに縁談だってあった。
カッコいい人だっていたし、私を口説いてくれた男性だっている。
一度デートだってした。
でも…
デートをしていてほんの少し感じる後ろめたさ。
恋人でもないのに………。
美味しい物を食べていても、魔王討伐の旅をしている彼を思い出す。
こんなの相手の男性に失礼だと思ってお付き合いは断った。
トーイが活躍し、国民の間で絶大な人気者になった頃、国王陛下が、
「勇者トーイが魔王討伐に成功したら王女マルガリーゼを降嫁する」
と宣言した。
マルガリーゼ様の姿絵を見たことがある。とても美しい姫だった。
(きっと本物のお姫様なんて見たら、どんな男性だって心を動かされるに違いないもの。)
一度何処かの貴族のお嬢様を間近で見た事がある。
平民の自分たちとは比べ物にならないぐらい艶かで手入れの行き届いた髪。
肌のあまりの白さに驚いた。胸元や背中はドレスを着る時に露出するから日焼けは厳禁だそうだ。
きっと王女様なんて本物を見ると魂が抜けそうになるぐらい美しいのだろう。
「本当に王女様と婚約したんだ。手の届かない人になっちゃったな。」
多すぎた買い物を後悔しながらトボトボと家に帰った。
返事がないのが分かっていて、小さく呟いた。
いつも静かなこの家も、トーイが一人来ただけで一気に明るくなった。
賑やかさの残像だけを残してトーイはまた去っていった。
ずっと不在にしていた時より余計に寂しく感じる。
彼の言葉を信じて待っていた。
昔から約束を破ったことなんて無いから………。
でも、宴に連れていかれたのだから戻るのは難しいのかもしれない。
「もう、こんな時間………。」
もう、流石に戻っては来ないだろう。
だけど、もう少し……。
大変な旅に出ていたトーイを少しでも労ってあげたい。
獅子肉にかぶり付く彼を見たかった。
そう思っている間に椅子に座ったままうとうとと眠ってしまい、朝を迎えた。
★★★
「トーイたちのための宴だもの。帰って来れないよね。」
独りで喋りながら冷めてしまった唐揚げを片付けた。
「もしかしたら今晩また来るかも。好物でも作ってやるか…。」
彼が戻ってきた時に懐かしい料理を食べさせてあげたい。
そう思った私は、町に買い出しへと出掛けた。
彼の好物だった野菜や果物を買っていく。
「さすがに買いすぎたかぁー。トーイが来なかったら腐らせちゃうわ。」
独り暮らしだというのに買った食べ物の量に驚いてしまう。
あの頃より更に沢山食べるのだろうと思って余計に買いすぎた。
「おーい!号外だ!マルガリーゼ様と勇者トーイ様の婚約が発表されたぞっ!!」
(えっ??)
新聞売りの少年が号外を高々と掲げ次々と売り捌いていく。
新聞のあまりの人気に人々は我先にとコインを片手に新聞に手を伸ばす。
(そうか、彼は王女様と結婚するのか。)
もう私の家で食べ物をねだることは無いのだろう。
王女様の婚約者になったのだから、女性の独り暮らしの家に来れる訳が無い。もう、立場が違うし二度と会えないかもしれない。
(貰った獅子肉どうしよう……?トーイは私に結婚の報告に来るつもりなのかな?)
報告に来ても家には入らないだろう。報告だって手紙かもしれない。
(もう待つ必要ないんだな。)
町がこの話題で大騒ぎになっているのを、どこか遠くに聞きながらぼんやりとそんな事を思っていた。
『大きくなったらアイ姉ちゃんと結婚する。』
少年時代の彼のそんな戯言を本気にしてたわけじゃ無い。
そんなの本気にする方が馬鹿だ。
彼に言ったら
『そんな事言ったっけ?覚えてないや。』
そう言われるかもしれない。
けど、何故か忘れられなくて……。
今までに縁談だってあった。
カッコいい人だっていたし、私を口説いてくれた男性だっている。
一度デートだってした。
でも…
デートをしていてほんの少し感じる後ろめたさ。
恋人でもないのに………。
美味しい物を食べていても、魔王討伐の旅をしている彼を思い出す。
こんなの相手の男性に失礼だと思ってお付き合いは断った。
トーイが活躍し、国民の間で絶大な人気者になった頃、国王陛下が、
「勇者トーイが魔王討伐に成功したら王女マルガリーゼを降嫁する」
と宣言した。
マルガリーゼ様の姿絵を見たことがある。とても美しい姫だった。
(きっと本物のお姫様なんて見たら、どんな男性だって心を動かされるに違いないもの。)
一度何処かの貴族のお嬢様を間近で見た事がある。
平民の自分たちとは比べ物にならないぐらい艶かで手入れの行き届いた髪。
肌のあまりの白さに驚いた。胸元や背中はドレスを着る時に露出するから日焼けは厳禁だそうだ。
きっと王女様なんて本物を見ると魂が抜けそうになるぐらい美しいのだろう。
「本当に王女様と婚約したんだ。手の届かない人になっちゃったな。」
多すぎた買い物を後悔しながらトボトボと家に帰った。
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