異分子マンション

カナデ

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 ファミリアには〝人の心を読む能力〟を持つ女性がいるという。彼女が各地を巡り、住人候補を選定しているそうだ。

「とても信じられないけど……その女の人がどこかであたしを見かけて、心を読んで秘密に気付き、このマンションに来るよう誘ったってことですか?」

「えぇ。不躾な勧誘方法であることは重々承知ですが、現状こうした方法を取るしかなくて。申し訳ありません」

「……ホント、何の嫌がらせかと思いましたよ」

「僕たちの秘密に関しては、大袈裟なくらい慎重に扱わなければならないのです。ファミリアに住む方は多かれ少なかれ〝他人ひとと違う〟ことに生きづらさを感じ、〝普通〟という枠組みを恨めしく思いながらも、同時に〝普通でいたい〟と考えてしまう歯がゆさをお持ちになっている。リツコさんも『誰かに知られたらおしまいだ』と思っていらっしゃるのでは?」

 ハルの言うとおりだ。
 特殊コンタクトで眼を隠し、見知らぬ街に引っ越してから、あたしは過去を消したつもりで生きてきた。

 もう二度と、あんな苦しい思いはしたくない。
 できることなら本当に記憶から消してしまいたい。

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