異分子マンション

カナデ

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 ドアスコープから外を窺うと、青いエプロン姿のシュンスケが立っていた。面倒に思いながらもドアを開ける。

「やっほー、リツコちゃん」

「何してるの? コンビニは?」

「トイレ休憩用のプレートを出してきたから大丈夫。それより、今夜一緒に飲まない? リツコちゃんの入居祝いってことで」

「一人暮らしの女の部屋に押し掛けてきて、いきなりそれ?」

「まぁそう固いこと言わずに。今日はオレの異彩をバーンと大公開しちゃうよ」

「……そんなノリでいいわけ?」

「オレ、ファミリアの住人はみんな友達だと思ってるからね。リツコちゃんは隣人だからさらに特別って感じ? うん、がっつり仲良くしちゃおう!」

「……あなた、ここの住人から『うるさい』とか『鬱陶しい』とか言われたことない?」

「さすがリツコちゃん、ナイス推理!」

 シュンスケはハイタッチを求めるように手を掲げたが、もちろん無視した。

 本来ならこんな誘いなど一蹴するが、ハルはシュンスケのことを「何かと力になってくれる人」と言っていた。それに――異彩のことを聞かせてくれるというのなら聞きたい。

「分かった、ちょっとだけなら付き合ってもいいよ」

「ありがと! 八時でコンビニを閉めるから、また来るね。――あ、今日は全部オレがおごるよ」

 こちらの返事も聞かず、シュンスケは階段の方へ走り去っていった。ここが特殊なマンションということもあり誘いを受けてしまったが、本当にこれでよかったのか分からない。

 溜め息をつきつつ部屋に戻ると、母さんに引っ越し完了を知らせる電話を掛けた。その後は段ボール箱の荷ほどき。あっという間に時間が過ぎてしまい、キリをつけたときには午後七時半を回っていた。

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