魔法犯罪の真実

水山 蓮司

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第2章 血の追求者

2-11:追憶・医療実習

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『ではこれより街中で起きたことを想定した怪我や病気の処置、その医療実習を始めていきます』
 当時、特任医療教官とくにんいりょうきょうかんとして医療を生徒に指導していた絵実が医療専攻の高等部の生徒を新宿エリアに集めて実践方式として実習をしていた。
 街中で人通りが多く誤解、妨害が入らないようにあらかじめ警視庁と検察庁の許可をとり、捜査員の警備も手配した上で行おうとしている。
 実践ということで怪我人役や病人役などが街中で配置されている。
 わかりやすくその役をやっている人たちの頭上にその症状が表示している。
『実践するにあたって1グループ6人で制限時間は20分でそれ以外はこれといってルールはありませんが、必ずしも1人でやらなければならないというわけではありません。場合によって2~3人になってやるのも構いません。また自分の技量を考えた上で怪我人や病人を適切に処置するかしないか、任意の判断とします。最後に実践とはいえ現場に近い状況とほぼ同じ条件で行いますのでくれぐれもいい加減にやらないようにしてください』
 絵実が言い終えたところで生徒は「はい」と返事をした。
 その中に当時、高等部の生徒だった東雲菫の姿もあった。
 スタートする位置は皆バラバラであらかじめ絵実が決めた配置に着いてスタートする形をとっていた。
 菫は3グループ目だったため前のグループの動きを見る余裕があり効率良くどう動くか考えることが出来た。
 そして自分の番となりスタートの合図がある時にインカムをつけてスタートする。
 スタートする時と時間の知らせ以外で処置の方法がわからない時に絵実からヒントを聞けるようにするためつけられる。
『では3グループ目、スタート!』
 その合図と共に菫は特段、駆けつけることなく歩き出して周りを見渡す。
 すると早くも一人目の怪我人役の人を見つけて症状を確認する。
 表示されているものは「鋭利な刃物による大怪我」だった。
 左腕にわかりやすく怪我を負っているところを確認するため実際に触れてみると、確かに本物に近い感触であることが感じとれた。
 実物で例えるなら特殊メイクで使っている素材を極限まで人肌に近づけ本当に怪我をしているようにみせた技法とでも言えるだろう。
 パッと見たり触ったりするだけでは判断が難しく、ある程度時間をかけて触って確認しないことには本物と見分けがつかないレベルであり、技術が発達している証拠である。
 一通り確認が出来たところで患部に治癒魔法を施して、みるみるうちに怪我が塞がっていく。
 その状態が完了出来たところで怪我人役の頭上に表示してある表記が「完了」と変換される。
 こうして次に向かう際も周りを見渡すと今度は、道端に横たわる人を発見して、すぐに症状を確認すると「意識不明の状態だが命に別状なし」と表記されている。
 顔は青白く目立った外傷もなく手首を触り脈拍を測る。
 極端に弱まっていることがないため胸元あたりに適度に治癒魔法を施し、更に表記されている症状のところを「搬送要請」と変換させ次の場所に向かう。
 実習でなければ本当に救急を呼ぶところだが実習のため省略が可能である。
 こういった要領で次々と異なる症状を持った人の治癒にあたっては、自分だけでは時間がかかると判断したものは表示されている症状のところを(複数人による治癒が必要)とだけ書き加えて他の人が治癒してくれることを考えて数をこなしていく。
 この実習において他の人よりも数多くこなせば良いというわけでもなく、早く治療出来れば良いというわけでもない。
 大切なのは正確に症状を把握した上で適切な処置を行うこと、判断を誤って独りよがりの治療をしないこと。
 少しでも驕り高ぶって治療しようものならそれは人の気持ちに寄り添えていない悲しい結果しか生まないことは自明の理である。
 そうこうしている間に残り1分を切ろうかとする時だった。
 気を抜かずに治療に取りかかろうと思っていたがとんでもない症状を目にした。それは、

「意識不明の重体な上、内臓が破裂している可能性が高い」

 息を整えて取り組もうとしたが、ピクッと手が止まり、
(さてこれはどうしたものでしょうか…)
 内心少し焦りが生じて判断も鈍ってしまった。
 数十秒、一考した後に取りかかろうとした手を引いて何もせず表示されている症状のところを「大至急救急要請だいしきゅうきゅうきゅうようせい」とだけ書き加えて終わらせた。
 それから少し時間が経過して、
『そこまで!3グループ目お疲れ様でした!』
 絵実の合図で実習が終了した。


 全7グループの実習が終了して思い通りに捗らず苦い顔をしている人がいれば、思った以上に自分の動きが出来て嬉しそうにしている人がいれば、可もなく不可もなく最低限のことが出来たと胸を撫でおろす人の姿と生徒によって反応は千差万別だった。
 実習を通して治療するにあたって大切なことを今一度伝えた後に絵実は菫に声をかける。
『東雲さんお疲れ様でした。素晴らしい立ち回りでした』
『いえ恐れ入ります』
 菫は軽く頭を下げる。
 ここで絵実が気になっていたことについて菫に尋ねる。
『答えられたらで良いんだけど、ラスト1分にかかろうとした時に治療せず「大至急救急要請」とだけ書き加えたことについて聞いてもいいかな?」』
 その問いに少し考え返答する。
『残りの時間では厳しいというのもそうですが、仮にもし時間があったとしても今の自分の技量ではとてもじゃないですが、及ばないと考え断念しました』
 まずはその状況と自分自身の技量という理由から述べて話を続ける。
『もう一つの理由としましては本当に治療して治せるものなのか、先生の前で申し上げるには失礼な発言かもしれませんがその疑念がありました』
『構わないわ。話せるところまで続きをどうぞ』
 絵実が優しく促すと菫は想いを打ち明ける。
『治療して症状が改善出来るようであればそれに越したことはありません。医療に携わる人という以前に一人の人間としてそれが一番だと考えています。しかしこの国に留まらず、世界の中で今こうしている間にも自分の思っていることが出来ずに苦しんでいる人々が存在していることもまた現実です。怪我や病気に大きい小さいは関係ありません。自分が良かれと思って治療した結果、更に症状が悪化してしまい最悪、命を落とす事例もあります。そうならないためにも判断する力が当然試されます。本日行った実習は命が落ちることがないとわかっていても、いざ本当の現場での医療であればそうはいきません。自分の医療行為が正しいのか、それとも間違っているのか、多くの要素を含めて判断して処置することの難しさを改めて思い知らされました』
 想像していた以上の規模の大きさの話にすぐに答えは出せずにいたが、自分が経験してきたことを踏まえて今度は絵実が菫に想いを伝える。
『確かに医療は数学の公式や理科の実験のように明確な答えはありません。先ほど、東雲さんが言っていたように自分が良かれと思ってやった医療行為によって命を落とす事例もあります。そんな厳しい条件の中でも私たち医療に携わる人間は人の命を「繋ぐ」ことに集中して臨んでいます』
『命を繋ぐ?守るのではなくて?』
 菫のオウム返しに頷き話を続ける。
『もちろん守るという意味でも捉える人によっては間違っていないです。ただあくまでも私個人の見解ですが「守る」よりも「繋ぐ」という解釈の方が人として成り立っているだけではなく、つたなさはあるかもしれませんがそれでも必死に自分の道を歩いて「生きる」尊さを知っていけるのだと考えていますよ』
 その言葉にジーンときたのか頭を下げて言葉にする。
『まだまだ勉強不足でした。改めて気付かされたことが多くあり、それがまた自分の活路にすることが出来ました。先生ありがとうございました』
『いいえ。私に出来ることは皆に自分の取りかかる医療を間違ったことに使わないように伝えていくことなので。その気持ちをいつまでも忘れずにいてください』
『はい』
 こうして菫の実習を終えたのであった。

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