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第2章 血の追求者
2-20:一時休戦のち今後の捜査
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「ふうー」
「真奈さん大丈夫?少し休んだら?」
背もたれにかかって今までよりも長く深い息を吐く真奈の様子を見て修助が声をかける。
「時光たちと比べたらマシな方よ。でもありがとうね」
オペレート室から時光の戦闘を見て達人の時と同様につけ入る隙がないほどに菫の攻撃が凄まじいものであった。
「それにしてもあの場面で若弥くんが登場してくるとは」
「そうね。割合としては半々と思っていたけど、もし怜司の救済がなければ間違いなく殺されていたわね」
「若弥くんがどれだけ先を読んでいるのか恐ろしくて敵わないな」
「それを言ったら怜司も負けないくらい先を読んで動いているから2人を戦わせたら下手すれば国の一つや二つ破壊出来るんじゃないかしら?」
「想像するに難くないね」
などと真奈と修助が少し冗談交じりの話をする。
「まあ冗談はこれくらいにして今後どうするかね」
真奈がそう切り出すと修助も気持ちを切り替える。
「確かにそれは言えているね。結局のところ東雲さんを捕獲出来ず若弥くんの妨害も受けているわけだから同じ手が通じないところが厳しいところだね」
「でもその反面、こちら側としては時光たちを殺しにかかれば間違いなく怜司が現れて返り討ちに遭うプレッシャーを与えることが出来たわけだから若弥としても容易に動けなくなったはずよ」
「状況としてはほぼイーブンってところかな?」
「ええ」
そう2人で話をしているとモニターからコールサインが出た。
出所は日本医療機関からだった。
画面をタッチしてモニターに映っていたのは綾菜と歩果だった。
『真奈ちゃん、修助ちゃんお取込み中のところだったらごめんね。大丈夫だったかな?』
「急ぎの件はないから大丈夫よ。医療機関の状況はどうかしら?」
真奈の問いかけに歩果が答える。
『今のところ目立って総合的に重症者はいませんが副作用による軽症者から中症者の割合が多いです。その中でも様子を見て入院させている方もいます。病床使用率も15~20%といったところです』
「可能な範囲で構わないから症状の種類をお願い出来るかな?」
今度は修助の問いに綾菜が答える。
『そうだね。実際に搬送されてくる人の多くの割合として目眩、発熱、中度の頭痛が占めているかな。少数で起きている症状は嘔吐感、喘息といった感じだよ』
医療機関の大まかな状況を把握したところで次の話題に入る。
「それを踏まえた上で医療の立場として2人は捜査している私たちに要望はあるかしら?」
真奈がそう問うと2人は少し考えて答えを出す。
『結構厳しい物言いになりますが、一刻も早く菫さんを捕獲して事態の悪化を防がないことにはいつまでも終わらないと考えられます』
『私も歩果ちゃんの言っていることに賛成かな。治療する分にはいいけど、数があまりにも多いと他の患者さんに影響が及ぶからそこを含めて今後はより一層迅速に動いた方が良さそうだね』
複雑な心境で厳しめに言う歩果に、やんわりと追求する綾菜の意見に真奈が考えをまとめて切り返す。
「ちなみにギリギリまで長い目であとどれくらい医療機関が保つか聞かせてくれるかな?」
『このままのペースでいきますと最低でも4日前後、長い目で見ても1週間くらいが限度です。それ以上となりますと、自宅待機という形になって医療現場が追いつかなくなる可能性が高いです』
『可能性はとても低いけど、もしかしたら自宅待機中に亡くなってしまうことも考えられそうだから、それも考慮しておいた方が良さそうだね』
考えられそうな事例を2人が簡潔に説明すると真奈が苦い顔しながらも自分の考えをまとめて想いを伝える。
「わかったわ。2人ともありがとう。こちらも全力で対策を練って対応出来るようにするけど、2人の力が必要になってくることもあるからその時はお願いね」
『わかりました。その時はご支援します』
『OKだよ真奈ちゃん。その時はよろしくね』
2人は了承して話がまとまると、ここで修助が気になっていたことを告げる。
「今更だけど怪我を負っている時光くんは2人のどちらかに治療してもらう感じじゃなかったのかな?」
『私たちはそのつもりでいたんだけどね』
綾菜が言いづらそうにチラッと歩果に向いて言うとその意図を察して歩果が答える。
『医療機関に着いて早々に絵実先生に引っ張り出されて説教をくらっていましたね。「そんな怪我で堂々と患者さんの前を歩くとは何事なの!」と凄い迫力でしたよ。それで結局、絵実先生に治療されて今は舞香さんと恵さんの監視下のもとで安静にしています』
淡々と語っているようで歩果も若干引き気味であった。
「そりゃああれだけの怪我を負っていたらそうなるわね。いつ頃復帰出来そうかな?」
『今日、明日と安静にしていればすぐにでも復帰出来ますよ。ただし少しでも捜査の時に本人の様子に違和感がありましたら止めていただけると助かります』
真奈の質問に歩果が念を押すように答える。
「わかったわ。まあ私たちが言っても本人が素直に聞いてくれるとは思えないけど念のためね」
『そうだね。時光ちゃん責任感じて一人歩きするところがあるから大変だよね』
半分諦めたように言うと綾菜が賛同する。
「時光くんの状況もそうだけど隙を狙って東雲さんが何か仕掛けてくる可能性も充分に考えられるけど2人はどう見ている?」
修助の懸念していることに2人は思ったことを伝える。
『楽観的な言い方になるかもしれませんが、菫さんの方から襲撃してくる可能性は低いと考えられます。その理由として医療機関へ来た舞香さんと恵さんの話を大まかに聞いたところ菫さん自身が打った注射に副作用が出たそうですね。それも自分自身が思っている以上に強い効果だと推測出来ます。間を空けて万全の状態に戻すまで街中にいる方々の投与した薬の効果を見つつ、襲撃するタイミングを見ているのではないかと考えられます』
歩果が菫の立場になって次の手を捲し立てるように私見を述べるとそれに続き綾菜も考えを伝える。
『菫さんの方も恵ちゃんの攻撃を急所が外れたとはいえダメージを負っているわけだし、後ろ向きに考えなくていいと思うよ。一日でも早く捕獲したい気持ちはわかるけど焦ったところで菫さんの術中にはまったら、それこそ取り返しのつかない状況になるんじゃないかな』
2人の意見と自分の考えを照らし合わせて修助は気持ちを落ち着ける。
「わかった。一旦は仮定の話を抜きにして様子を見ることにするよ。いらない気を回してごめん」
『いいえ。懸念材料がある以上、どうしても考えてしまうことですから自分を責めないでください』
『そうだよ修助ちゃん。一人で抱え込まないでね』
2人は優しく修助を宥める。
「それじゃあ2人の言い分を前提に考えると東雲さんは明日とその次の日あたりは出現しないとして、その間に薬を投与された人たち、言うまでもなく副作用によって搬送される人々が増えるとマズイんじゃないの?」
真奈の指摘に歩果が険しい顔して答える。
『言われるまでもなくこのままの状態が続けば間違いなく医療現場がパンクすることは容易に想像出来るでしょう。このままの状態が続けばの話ですが』
「一体どういう意味よ?」
最後に含みのある言い方をした歩果に真奈が説明を求めようとした時だった、
『真奈ちゃん、修助君お疲れ様。無理していないかな?』
「絵実先生!」
綾菜と歩果の後ろから絵実が割って入ってきた。
ハッとした真奈だったが、すぐに正気に戻り尋ねる。
「率直に搬送された人たちの方は大丈夫なんですか?」
『ええ、今のところ一段落してようやく落ち着いたって感じね。後は様子を見つつ容体が急変したら戻って治療するだけなんだけどね』
「そうでしたか」
ホッと一息つき改めて思うことを告げる。
「先ほど、歩果がこのままの状態が続けばと含みのある言い方をしているように思えたのですが先生の方で策を考えているのですか?」
真奈の質問に頷き答える。
『ええもちろん。確かにこのままだと医療機関はもちろん、シェルターの方も長くは持たないわ。そこでそうなる前に医療機関から「緊急医療特別措置令」をこれから発令しようと考えているの』
「その措置令の概要ですが説明をお願い出来ますか?」
『ええ、可能な限り簡潔にまとめた資料があるから参照してね』
修助の要望に絵実があっさり承諾し、真奈と修助のモニターの前に画面が展開されそのファイルをタッチして記されている概要を確認する。
次の概要がその措置令の内容である。
――空気中によって感染あるいは医療薬品などによる著しい副作用によって日常生活に妨げがあり、医療機関にて治療や状況によって入院する必要性のある者が多く見られ、推測されるであろう人数が大幅に超えてくる場合、国や自治体の返答を待つことなく直ちに措置令の発令することを認める。
ただしその場合には医療機関から国民に向けて発令理由を説明し適切な治療を進めると共に感染あるいは医療薬品などの原因を追求することを命じる。
その原因を調べた結果が判明しようとそうでなくとも国あるいは自治体に報告すること――
概要を確認した上で真奈が質問する。
「この措置令が発令されてどれだけの人の流れが抑え込めると考えていますか?」
『そうね。初期の段階で3%くらいがいいところね。今回は感染ではなく医療薬品によるものだからヒトからヒトに移ることは考えづらいけど、もしもの時を考えてお家で待機してもらった方が助かるわ。それに』
「「それに?」」
絵実の言葉に真奈と修助が口を揃えて話の先を求める。
『これから協力してもらう人やここ近日に注射を打って何らかの副作用がある人に自分の望んでいる治療を選択出来るように提供しようとも考えているんだ』
「その治療内容についてもお願い出来ますか?」
修助の要望に、これも絵実はあっさり答える。
『ええ。まず治療する方法は2つあって一つが医療機関で注射する方法で、もう一つが自宅にて薬を服用する方法よ』
まず大まかな内容を伝えて詳しく説明に入る。
『改めて医療機関での注射による方法についてだけど即効性のあるものを打たせてもらうわ。総合的な効果として打った翌日から遅くても3日以内に効果が出始めて症状を大幅に抑え込むことが出来るわ。ただ注射の効果が比較的強いため個人差によって頭痛や微熱などの副作用があるデメリットがあるから、それを踏まえた上で判断する必要があると思っているよ』
簡潔に医療機関による治療の良し悪しを説明した後に、もう一つの方法の説明に入る。
『もう一つの自宅での治療についてだけど、医療機関に訪れることなく自宅に薬を届けてそれを服用してもらう方法よ。錠剤、粉、ゼリー、シロップの4種類の中から自分の体質にあったものを選んでオンラインあるいは電話での申し込みの形をとらせてもらおうかと考えているわ』
服用する薬の種類と申し込み方法を先に伝えて説明を続ける。
『薬の効果としては遅効性で総合的な効果として服用して最速でも5日前後から遅くても10日以内に効果が出始めて注射の効果と同じく症状を大幅に抑え込むことが出来るわ。ただ注射の方法とは違って宅配や申し込みする手間や効果が出始める時間がかかるところがデメリットだけど副作用はほとんどないことが特徴よ』
2種類の治療方法の説明を受けた上で修助が質問する。
「それぞれの治療方法はわかりました。そのうち医療機関で注射を受ける際ですが予約する形をとらないことには医療機関が殺到することが予想出来るのですが、どう対応すると考えていますか?」
その問いに絵実が可能な限り簡潔に答える。
『そこについてはまず、注射を希望している人にスマホやネットなどでこちらが用意したアンケートに答えていただき、それから指定した場所と時間をアナウンスするので当日受診してもらう形をとろうかと考えているわ。もしどうしても急な用事や外せない仕事が起きた場合、その場所を指定していただき訪問での形になるけどその方法も考えているわ。ただし基本的には指定した場所で受けてもらうのが前提と思っているのでそこを勘違いしないように呼びかけする予定でもいるわ』
修助に続いて真奈からも質問する。
「ここまでを振り返って注射にしても薬の服用にしても対象年齢をどこまで定めているのか、また注射の副作用がいつ頃発症するのか、お聞かせいただけますか?」
その質問にも絵実はハッキリ答える。
『注射と薬の服用いずれも全年齢対象と定めて調整を行っているわ』
まずは年齢問わず誰にでも受けられることを伝え説明を続ける。
『ただ重度の持病を抱えている人がいれば念のため、かかりつけ医に相談した上で受診してもらうことをおすすめするわ。万が一に容体に異変が起きて苦しい想いをしないように、あらかじめ医療機関に伝えてくれると助かるということ。それから注射での副作用についてだけど一概に言えないわね。それというのも打った数時間後に発症する人がいれば翌日の朝に発症する人がいると考えられるため住んでいる環境や体質によって変わるから記者会見で説明する予定よ』
今後控えている記者会見を含め、また患者の治療する時間を考えると限度があるためここまでに留めて説明を終える。
「「あの私たちからもいいですか?」」
「ん?どうしたのかな?」
真奈と修助の後ろにいて、ここまで黙っていた志穂と美穂が絵実に尋ねる。
お互いに顔を見合って頷き志穂が質問する。
「時ちゃんの怪我ですけど、実際にどれほどの深さか教えていただけますか?」
歩果の説明を踏まえた上で質問してきている意図だと考え答える。
『そこまで暗い顔しなくても大丈夫よ。まずまずの深さだったけど安静にしていれば今まで通り動けるから気にしないでね。舞香ちゃんと恵ちゃんの方も時光ほど外傷は目立っていないから大丈夫よ』
「「そうでしたか。では」」
一応はホッと出来たがそれでもまだ何か拭い切れていない感じでいたまま声を揃えてオペレート室を後にする。
「2人ともちょっと――」
真奈がそう言いかけて呼び止めようとするところ修助が肩を抑え首を横に振る。
モニター越しで見ていた絵実が話かける。
『真奈ちゃん、今はそっとしておきましょう。時間はかかるかもしれないけど2人なら大丈夫だと私は信じているから』
「そうでしたね。お見苦しいところ失礼しました」
その場の空気が少し暗くなってしまったところ、
『もう真奈ちゃん暗いよ。日頃から私にあれだけ、えっちなことをしようと言っているのに真奈ちゃんが拒否するから顔だけじゃなくて気持ちまで老けちゃうよ』
『あら、そうでしたの。言っていただければ私も混ざって真奈さんとの身体中どこまでも舐めたり嗅いだりサワサワしたりと羞恥プレイに耽ることを惜しみませんよ』
「ちょっと貴女た何言っているの⁉」
綾菜がその場の空気をぶち壊し、それに便乗して歩果も被せるようにして真奈を辱めると顔から火が噴くように真奈が声を荒げる。
『それじゃあ真奈ちゃん私と一夜過ごすこともダメかな?』
「先生まで⁉」
2人のノリに更に便乗した絵実が色っぽくして冗談めかしに言ってみせると真奈の方も更に顔を真っ赤にして慌てふためく。
さすがに大人げなく、からかい過ぎたと思って絵実がこう返す。
『フフッ冗談よ真奈ちゃん、ごめんね。また何かわかることがあればその時は連絡させてもらうからよろしくね』
そう言って綾菜と歩果のいるところから立ち去り、それが確認とれたところで2人もそれぞれ述べる。
『私たちも、もう少し後処理が残っているからそっちに戻るけどいつでもえっちなことをしたくなった遠慮なく言ってね真奈ちゃん』
『溜めすぎて自分で発散するような、もったいないことをせず思い切ってイキたい時は我慢しないでくださいね』
「誰が頼むかー!」
2人のエロボケに真奈は今までよりも大声でツッコミを入れる。
2人は言うことだけ言って最後に手を振ってフェードアウトした。
「まあ真奈さん落ち着いて深呼吸しようか。怒り狂ったところで2人のペースに巻き込まれるだけだからね」
修助の言葉を聞き入れて言われた通り深呼吸して少しずつ落ち着きを取り戻した。
「はあああ。だいぶうるさくしちゃったようでごめんね。でもありがとう」
「気にしなくていいよ。俺たちもやることをやって今日は終わらせようか」
「そうね。最後の最後で余計な体力を削られた気がするし」
「ははっ。お疲れ様」
今まで起きた出来事の情報を整理してその日を終わらせた修助と真奈であった。
「真奈さん大丈夫?少し休んだら?」
背もたれにかかって今までよりも長く深い息を吐く真奈の様子を見て修助が声をかける。
「時光たちと比べたらマシな方よ。でもありがとうね」
オペレート室から時光の戦闘を見て達人の時と同様につけ入る隙がないほどに菫の攻撃が凄まじいものであった。
「それにしてもあの場面で若弥くんが登場してくるとは」
「そうね。割合としては半々と思っていたけど、もし怜司の救済がなければ間違いなく殺されていたわね」
「若弥くんがどれだけ先を読んでいるのか恐ろしくて敵わないな」
「それを言ったら怜司も負けないくらい先を読んで動いているから2人を戦わせたら下手すれば国の一つや二つ破壊出来るんじゃないかしら?」
「想像するに難くないね」
などと真奈と修助が少し冗談交じりの話をする。
「まあ冗談はこれくらいにして今後どうするかね」
真奈がそう切り出すと修助も気持ちを切り替える。
「確かにそれは言えているね。結局のところ東雲さんを捕獲出来ず若弥くんの妨害も受けているわけだから同じ手が通じないところが厳しいところだね」
「でもその反面、こちら側としては時光たちを殺しにかかれば間違いなく怜司が現れて返り討ちに遭うプレッシャーを与えることが出来たわけだから若弥としても容易に動けなくなったはずよ」
「状況としてはほぼイーブンってところかな?」
「ええ」
そう2人で話をしているとモニターからコールサインが出た。
出所は日本医療機関からだった。
画面をタッチしてモニターに映っていたのは綾菜と歩果だった。
『真奈ちゃん、修助ちゃんお取込み中のところだったらごめんね。大丈夫だったかな?』
「急ぎの件はないから大丈夫よ。医療機関の状況はどうかしら?」
真奈の問いかけに歩果が答える。
『今のところ目立って総合的に重症者はいませんが副作用による軽症者から中症者の割合が多いです。その中でも様子を見て入院させている方もいます。病床使用率も15~20%といったところです』
「可能な範囲で構わないから症状の種類をお願い出来るかな?」
今度は修助の問いに綾菜が答える。
『そうだね。実際に搬送されてくる人の多くの割合として目眩、発熱、中度の頭痛が占めているかな。少数で起きている症状は嘔吐感、喘息といった感じだよ』
医療機関の大まかな状況を把握したところで次の話題に入る。
「それを踏まえた上で医療の立場として2人は捜査している私たちに要望はあるかしら?」
真奈がそう問うと2人は少し考えて答えを出す。
『結構厳しい物言いになりますが、一刻も早く菫さんを捕獲して事態の悪化を防がないことにはいつまでも終わらないと考えられます』
『私も歩果ちゃんの言っていることに賛成かな。治療する分にはいいけど、数があまりにも多いと他の患者さんに影響が及ぶからそこを含めて今後はより一層迅速に動いた方が良さそうだね』
複雑な心境で厳しめに言う歩果に、やんわりと追求する綾菜の意見に真奈が考えをまとめて切り返す。
「ちなみにギリギリまで長い目であとどれくらい医療機関が保つか聞かせてくれるかな?」
『このままのペースでいきますと最低でも4日前後、長い目で見ても1週間くらいが限度です。それ以上となりますと、自宅待機という形になって医療現場が追いつかなくなる可能性が高いです』
『可能性はとても低いけど、もしかしたら自宅待機中に亡くなってしまうことも考えられそうだから、それも考慮しておいた方が良さそうだね』
考えられそうな事例を2人が簡潔に説明すると真奈が苦い顔しながらも自分の考えをまとめて想いを伝える。
「わかったわ。2人ともありがとう。こちらも全力で対策を練って対応出来るようにするけど、2人の力が必要になってくることもあるからその時はお願いね」
『わかりました。その時はご支援します』
『OKだよ真奈ちゃん。その時はよろしくね』
2人は了承して話がまとまると、ここで修助が気になっていたことを告げる。
「今更だけど怪我を負っている時光くんは2人のどちらかに治療してもらう感じじゃなかったのかな?」
『私たちはそのつもりでいたんだけどね』
綾菜が言いづらそうにチラッと歩果に向いて言うとその意図を察して歩果が答える。
『医療機関に着いて早々に絵実先生に引っ張り出されて説教をくらっていましたね。「そんな怪我で堂々と患者さんの前を歩くとは何事なの!」と凄い迫力でしたよ。それで結局、絵実先生に治療されて今は舞香さんと恵さんの監視下のもとで安静にしています』
淡々と語っているようで歩果も若干引き気味であった。
「そりゃああれだけの怪我を負っていたらそうなるわね。いつ頃復帰出来そうかな?」
『今日、明日と安静にしていればすぐにでも復帰出来ますよ。ただし少しでも捜査の時に本人の様子に違和感がありましたら止めていただけると助かります』
真奈の質問に歩果が念を押すように答える。
「わかったわ。まあ私たちが言っても本人が素直に聞いてくれるとは思えないけど念のためね」
『そうだね。時光ちゃん責任感じて一人歩きするところがあるから大変だよね』
半分諦めたように言うと綾菜が賛同する。
「時光くんの状況もそうだけど隙を狙って東雲さんが何か仕掛けてくる可能性も充分に考えられるけど2人はどう見ている?」
修助の懸念していることに2人は思ったことを伝える。
『楽観的な言い方になるかもしれませんが、菫さんの方から襲撃してくる可能性は低いと考えられます。その理由として医療機関へ来た舞香さんと恵さんの話を大まかに聞いたところ菫さん自身が打った注射に副作用が出たそうですね。それも自分自身が思っている以上に強い効果だと推測出来ます。間を空けて万全の状態に戻すまで街中にいる方々の投与した薬の効果を見つつ、襲撃するタイミングを見ているのではないかと考えられます』
歩果が菫の立場になって次の手を捲し立てるように私見を述べるとそれに続き綾菜も考えを伝える。
『菫さんの方も恵ちゃんの攻撃を急所が外れたとはいえダメージを負っているわけだし、後ろ向きに考えなくていいと思うよ。一日でも早く捕獲したい気持ちはわかるけど焦ったところで菫さんの術中にはまったら、それこそ取り返しのつかない状況になるんじゃないかな』
2人の意見と自分の考えを照らし合わせて修助は気持ちを落ち着ける。
「わかった。一旦は仮定の話を抜きにして様子を見ることにするよ。いらない気を回してごめん」
『いいえ。懸念材料がある以上、どうしても考えてしまうことですから自分を責めないでください』
『そうだよ修助ちゃん。一人で抱え込まないでね』
2人は優しく修助を宥める。
「それじゃあ2人の言い分を前提に考えると東雲さんは明日とその次の日あたりは出現しないとして、その間に薬を投与された人たち、言うまでもなく副作用によって搬送される人々が増えるとマズイんじゃないの?」
真奈の指摘に歩果が険しい顔して答える。
『言われるまでもなくこのままの状態が続けば間違いなく医療現場がパンクすることは容易に想像出来るでしょう。このままの状態が続けばの話ですが』
「一体どういう意味よ?」
最後に含みのある言い方をした歩果に真奈が説明を求めようとした時だった、
『真奈ちゃん、修助君お疲れ様。無理していないかな?』
「絵実先生!」
綾菜と歩果の後ろから絵実が割って入ってきた。
ハッとした真奈だったが、すぐに正気に戻り尋ねる。
「率直に搬送された人たちの方は大丈夫なんですか?」
『ええ、今のところ一段落してようやく落ち着いたって感じね。後は様子を見つつ容体が急変したら戻って治療するだけなんだけどね』
「そうでしたか」
ホッと一息つき改めて思うことを告げる。
「先ほど、歩果がこのままの状態が続けばと含みのある言い方をしているように思えたのですが先生の方で策を考えているのですか?」
真奈の質問に頷き答える。
『ええもちろん。確かにこのままだと医療機関はもちろん、シェルターの方も長くは持たないわ。そこでそうなる前に医療機関から「緊急医療特別措置令」をこれから発令しようと考えているの』
「その措置令の概要ですが説明をお願い出来ますか?」
『ええ、可能な限り簡潔にまとめた資料があるから参照してね』
修助の要望に絵実があっさり承諾し、真奈と修助のモニターの前に画面が展開されそのファイルをタッチして記されている概要を確認する。
次の概要がその措置令の内容である。
――空気中によって感染あるいは医療薬品などによる著しい副作用によって日常生活に妨げがあり、医療機関にて治療や状況によって入院する必要性のある者が多く見られ、推測されるであろう人数が大幅に超えてくる場合、国や自治体の返答を待つことなく直ちに措置令の発令することを認める。
ただしその場合には医療機関から国民に向けて発令理由を説明し適切な治療を進めると共に感染あるいは医療薬品などの原因を追求することを命じる。
その原因を調べた結果が判明しようとそうでなくとも国あるいは自治体に報告すること――
概要を確認した上で真奈が質問する。
「この措置令が発令されてどれだけの人の流れが抑え込めると考えていますか?」
『そうね。初期の段階で3%くらいがいいところね。今回は感染ではなく医療薬品によるものだからヒトからヒトに移ることは考えづらいけど、もしもの時を考えてお家で待機してもらった方が助かるわ。それに』
「「それに?」」
絵実の言葉に真奈と修助が口を揃えて話の先を求める。
『これから協力してもらう人やここ近日に注射を打って何らかの副作用がある人に自分の望んでいる治療を選択出来るように提供しようとも考えているんだ』
「その治療内容についてもお願い出来ますか?」
修助の要望に、これも絵実はあっさり答える。
『ええ。まず治療する方法は2つあって一つが医療機関で注射する方法で、もう一つが自宅にて薬を服用する方法よ』
まず大まかな内容を伝えて詳しく説明に入る。
『改めて医療機関での注射による方法についてだけど即効性のあるものを打たせてもらうわ。総合的な効果として打った翌日から遅くても3日以内に効果が出始めて症状を大幅に抑え込むことが出来るわ。ただ注射の効果が比較的強いため個人差によって頭痛や微熱などの副作用があるデメリットがあるから、それを踏まえた上で判断する必要があると思っているよ』
簡潔に医療機関による治療の良し悪しを説明した後に、もう一つの方法の説明に入る。
『もう一つの自宅での治療についてだけど、医療機関に訪れることなく自宅に薬を届けてそれを服用してもらう方法よ。錠剤、粉、ゼリー、シロップの4種類の中から自分の体質にあったものを選んでオンラインあるいは電話での申し込みの形をとらせてもらおうかと考えているわ』
服用する薬の種類と申し込み方法を先に伝えて説明を続ける。
『薬の効果としては遅効性で総合的な効果として服用して最速でも5日前後から遅くても10日以内に効果が出始めて注射の効果と同じく症状を大幅に抑え込むことが出来るわ。ただ注射の方法とは違って宅配や申し込みする手間や効果が出始める時間がかかるところがデメリットだけど副作用はほとんどないことが特徴よ』
2種類の治療方法の説明を受けた上で修助が質問する。
「それぞれの治療方法はわかりました。そのうち医療機関で注射を受ける際ですが予約する形をとらないことには医療機関が殺到することが予想出来るのですが、どう対応すると考えていますか?」
その問いに絵実が可能な限り簡潔に答える。
『そこについてはまず、注射を希望している人にスマホやネットなどでこちらが用意したアンケートに答えていただき、それから指定した場所と時間をアナウンスするので当日受診してもらう形をとろうかと考えているわ。もしどうしても急な用事や外せない仕事が起きた場合、その場所を指定していただき訪問での形になるけどその方法も考えているわ。ただし基本的には指定した場所で受けてもらうのが前提と思っているのでそこを勘違いしないように呼びかけする予定でもいるわ』
修助に続いて真奈からも質問する。
「ここまでを振り返って注射にしても薬の服用にしても対象年齢をどこまで定めているのか、また注射の副作用がいつ頃発症するのか、お聞かせいただけますか?」
その質問にも絵実はハッキリ答える。
『注射と薬の服用いずれも全年齢対象と定めて調整を行っているわ』
まずは年齢問わず誰にでも受けられることを伝え説明を続ける。
『ただ重度の持病を抱えている人がいれば念のため、かかりつけ医に相談した上で受診してもらうことをおすすめするわ。万が一に容体に異変が起きて苦しい想いをしないように、あらかじめ医療機関に伝えてくれると助かるということ。それから注射での副作用についてだけど一概に言えないわね。それというのも打った数時間後に発症する人がいれば翌日の朝に発症する人がいると考えられるため住んでいる環境や体質によって変わるから記者会見で説明する予定よ』
今後控えている記者会見を含め、また患者の治療する時間を考えると限度があるためここまでに留めて説明を終える。
「「あの私たちからもいいですか?」」
「ん?どうしたのかな?」
真奈と修助の後ろにいて、ここまで黙っていた志穂と美穂が絵実に尋ねる。
お互いに顔を見合って頷き志穂が質問する。
「時ちゃんの怪我ですけど、実際にどれほどの深さか教えていただけますか?」
歩果の説明を踏まえた上で質問してきている意図だと考え答える。
『そこまで暗い顔しなくても大丈夫よ。まずまずの深さだったけど安静にしていれば今まで通り動けるから気にしないでね。舞香ちゃんと恵ちゃんの方も時光ほど外傷は目立っていないから大丈夫よ』
「「そうでしたか。では」」
一応はホッと出来たがそれでもまだ何か拭い切れていない感じでいたまま声を揃えてオペレート室を後にする。
「2人ともちょっと――」
真奈がそう言いかけて呼び止めようとするところ修助が肩を抑え首を横に振る。
モニター越しで見ていた絵実が話かける。
『真奈ちゃん、今はそっとしておきましょう。時間はかかるかもしれないけど2人なら大丈夫だと私は信じているから』
「そうでしたね。お見苦しいところ失礼しました」
その場の空気が少し暗くなってしまったところ、
『もう真奈ちゃん暗いよ。日頃から私にあれだけ、えっちなことをしようと言っているのに真奈ちゃんが拒否するから顔だけじゃなくて気持ちまで老けちゃうよ』
『あら、そうでしたの。言っていただければ私も混ざって真奈さんとの身体中どこまでも舐めたり嗅いだりサワサワしたりと羞恥プレイに耽ることを惜しみませんよ』
「ちょっと貴女た何言っているの⁉」
綾菜がその場の空気をぶち壊し、それに便乗して歩果も被せるようにして真奈を辱めると顔から火が噴くように真奈が声を荒げる。
『それじゃあ真奈ちゃん私と一夜過ごすこともダメかな?』
「先生まで⁉」
2人のノリに更に便乗した絵実が色っぽくして冗談めかしに言ってみせると真奈の方も更に顔を真っ赤にして慌てふためく。
さすがに大人げなく、からかい過ぎたと思って絵実がこう返す。
『フフッ冗談よ真奈ちゃん、ごめんね。また何かわかることがあればその時は連絡させてもらうからよろしくね』
そう言って綾菜と歩果のいるところから立ち去り、それが確認とれたところで2人もそれぞれ述べる。
『私たちも、もう少し後処理が残っているからそっちに戻るけどいつでもえっちなことをしたくなった遠慮なく言ってね真奈ちゃん』
『溜めすぎて自分で発散するような、もったいないことをせず思い切ってイキたい時は我慢しないでくださいね』
「誰が頼むかー!」
2人のエロボケに真奈は今までよりも大声でツッコミを入れる。
2人は言うことだけ言って最後に手を振ってフェードアウトした。
「まあ真奈さん落ち着いて深呼吸しようか。怒り狂ったところで2人のペースに巻き込まれるだけだからね」
修助の言葉を聞き入れて言われた通り深呼吸して少しずつ落ち着きを取り戻した。
「はあああ。だいぶうるさくしちゃったようでごめんね。でもありがとう」
「気にしなくていいよ。俺たちもやることをやって今日は終わらせようか」
「そうね。最後の最後で余計な体力を削られた気がするし」
「ははっ。お疲れ様」
今まで起きた出来事の情報を整理してその日を終わらせた修助と真奈であった。
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さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
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