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第3章 新たな勇者編

新人戦3

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新人戦が始まって、色々な事に気がついた俺は今、ある事に迷っていた。

「そういえば、カリンの速さにどうやって対抗しようか別の案を考えてなかったな」

そう、『天使化』を使えばあの速さに到達できるのは確実だが、ファーストとセカンドに禁止にされてしまったからな。別の魔法を考えないといけないのだが、カリンと世間話をしていたせいか、もう準決勝まで時間が無くなっていた。

「やっぱり、同じ魔法を使うしかないか····」
「いや、我に考えがある」
「本当か!?教えてくれ、セカンド!」

長年封印されていたセカンドが考えたことなら、絶対に得だ。

「時間を操る魔法を使えばいい」
「え?そんなこと出来るのか?」

時間を操る魔法····か。聞いた感じ、魔力の消費がヤバそうな気がするんだが?

「ああ、魔力の消費は確かに多いな」
「俺の心を読むな!!」
「だが、お前の魔力量と回復力なら問題は無い」

えぇ····俺の事無視しやがったよこいつ。まぁ、良いや。

「でも時間を操るってイメージ難しくないか?」
「正直イメージはどうでもいいんだぞ?どんな魔法か分かっていればそれで魔法は使える。な」
「どういう事だ?」

いや、本当は分かっていたのかもしれない。さっきだってそうじゃないか、見た魔法をそのまま相手に返していたじゃないか。やはり俺だけが特別なのか?それとも····

「お前には魔王の魂が宿っている。そうだろ?」
「ど、どうしてそう思うんだ?」
「忘れたか?我にも魔法の魂が封印されている。魔王の魂は引き合うからな」

やっぱり、あの時見た夢の中で聞こえてきた声は、本当に····いやでも、どうして俺に?

「魔王とは魔を極めし者、全ての魔法を創った存在だ。だから今、存在している魔法ならば見ただけでも使うことが出来る。新しく創る場合はイメージが必要だけどな」
「でも、見たものを使ってしまってはこの世界のルールに反してしまうんじゃないか?」
「魔法の名前を変えれば良い。そうすれば大丈夫だろう」

そうか。魔法の名前を変えれば他の人間にバレることはない。しかし、剣技の方はどうだろうか。あれは名前を変えたところでどうこうできるものじゃない。どうしようか。

「剣技の方は、偶然見様見真似でできたことにしておけ」
「そうやって簡単に言うけどよぉ····」
「世界は広い。似たような技は沢山あるのだ。何とかなる」
「それもそうか····」
「あと、どうしてもピンチになった時の対処方法を教えておこう」
「おう」
「他の人間の前で使えば恐らくお前は監獄行きだがな。ハッハッハ!」
「えぇ····それは困るよ。セカンド」
「まぁ、人間との戦いで使うことはないだろうから、安心しろ」
「その対処方法は····」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「これより!!準決勝第1試合!!マリル・ホーネンスと暁翔の試合だ!!」
「出番か····」

次の試合はマリルとか‥。マリルには先程申し訳ないことをしてしまった。この世界のことを知らないとはいえ、伝統の技を真似してしまったのだから。だけど手加減は出来ない。それは戦いを侮辱することになるからな。

俺は、闘技場の真ん中まで急ぎ足で向かう。そこには既に、マリルがいた。俺はマリルに頭を下げながら、

「お待たせしました····」

と言うとマリルは少し微笑みながら、

「気にしていないから大丈夫だ」

と言った。そして俺は、マリルの前に立つ。

「カウント!始め!」
「10!9!8!7!」

俺はファーストとセカンドを鞘から抜き構える。マリルも自らの剣を抜き、構えている。

「6!5!4!3!」

マリルの剣技は非常に強力だ。魔法を受け流す剣技を使えるのだからそもそもの剣の技術も高いということなのだろう。魔法を受け流すのならば剣も当然受け流してしまうだろう。

「2!1!」

ここで俺は剣を投擲する構えに変える。マリルは少し驚くがほとんど構えを変えない。

「0!」
「ふっ!」

俺はファーストをマリルの足下に投げる。何故直接狙わないかと言うと、直接狙うと弾かれる可能性があるからだ。

「そんな攻撃!当たらないぞ!」

マリルは迫り来るファーストを跳躍して避けた。そう、俺のに。

「はぁぁぁ!」

俺はセカンドを握ったまま、跳んだマリルに全速力で向かっていく。

「まさか!お前!」

このとき、マリルは俺の狙いに気付いた。マリルはすぐに回避行動に移りだそうとする。だが、既に跳躍してしまったマリルは足掻くことすらできない。これこそが狙いだ。

「最初の投擲は囮!本命はこっちだ!」

マリルが着地するよりも速く、俺は彼女に剣を突き立てる。

「勝者!!アカツキ・カケル!!」

俺は彼女に一礼し、ファーストを回収する。

「お疲れ様」
「その戦法は····」
「ん?なんか言ったか?」
「いいえ、何も」

何か怪しいな。俺はそう思いながらファーストとセカンドを鞘に納めて、次の試合を観戦するために移動をした。次はリールとカリンの試合だ。おそらくここに居る殆どの人間は、戦いを目で追うことが出来ないだろう。リールもカリンもとんでもない速さで戦うだろうしな。

「続いて!!準決勝第2試合!!リール・ネラスとカリン・キュリエールの試合だ!!」

リールとカリンが闘技場の真ん中で試合の始まりを待っていた。お互いにやる気満々だな。この勝負はどちらが相手の考えを先に読むことができるかで決まる。

「カウント!!始め!!」
「10!9!8!7!」

リールはどこからか杖を取り出し、構える。先程のリールは武器を使わず素手で戦っていたが、本気ということなんだろうか。それに反応したカリンも自らの剣を抜き構える。

「6!5!4!3!」

リールは後ろに体重をかけ、カリンは前に体重をかける。この勝負は長くなるぞ。でも少し残念なのが、その勝負を俺は直視できないということだ。

「2!1!」

互いの覇気によって俺の所にまで緊張感が漂っていた。

「0!」

その瞬間、2人の姿が完全に俺の視界から消える。そして同時に俺の体に2人の武器が交わった事による衝撃波が吹き抜けた。
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