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第3章 新たな勇者編

新人戦4

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リールとカリンが闘技場に轟音と衝撃波を起こしている。しかし、周りの人間には二人の姿を見ることができないためポカンとしている。

「速いな····」

俺には見えないと分かってはいたが、なぜか魔法を使ってしまった。そう、カリンが先の戦いで使っていた魔法を。

「『加速アクセル』」

その瞬間、世界の動きがスローモーションになる。しかし、リールとカリンは通常のスピードで動いている。正直言って、二人とも速いんじゃあ意味がない。と思いながら俺は二人を見ている。俺が瞬きをすると、リールの周りに以前見たことのある黒いオーラが現れる。

「あれは!」

思わず大きい声を出してしまった····。でも二人は気づいてないから問題なし!

リールの黒いオーラは4枚の翼のような形に変わっていく。その瞬間、リールの姿が消える。カリンは一瞬驚いた様子を見せる。しかしカリンの周りにもまた緑色のオーラが現れた。そしてそれは2枚の大きな翼の形に変わった。

「あのオーラはやはり何か特別な力があるみたいだ····」

シュンと言う音と共にカリンの姿が消える。まだ速くなるのか。そう思いながら俺はまた、魔法を使用する。

「『加速アクセル』」

さらに世界の動きがスローモーションになる。ここまで来るともう止まっているようにしか見えない。だが俺にも変化が出てきた。

「体が痺れるように痛い····とんでもないスピードで魔力が削られているのか····」

そう思いながら俺は二人の方を見る。カリンもリールも本気の顔で楽しそうに戦っている。リールの胸も楽しそうにポヨンポヨンしている。俺の視線がそっちに向いていることは決してない。····本当だからな!

「そろそろ決着か····」

二人の魔力はもう残り少ないだろう。俺の魔力ももう。二人は全力で互いの武器を相手に叩き付ける。そして闘技場の真ん中で気絶した。そして俺は無意識に解除魔法を使用する。

「『解除リリース』」

世界の動きが元に戻る。そう、実際は数秒も経ってはいないのだ。隊長は気絶している二人を見て、

「引き分け!!」

結果を発表した。

「引き分けの場合ってどうなるんだ?」

次はいよいよ決勝なのだが、俺の対戦相手は一体誰になるんだ?そう思っていると隊長が近付いて来る。そしてこう告げた。

「不戦勝で優勝するか、後日二人が目覚めてからやるか、選べ」

俺は少し驚いたが、こんな簡単な選択肢を間違えるはずがない。もちろん後日二人が目を覚ましてからやるに決まっている。

「後日やらせてください!」
「分かった!それでは今日は解散だ!」
「はい!」

俺はそのまま闘技場から出て、宿に向かおうとする。向かおうとしたがやはりリールやカリンの事が心配になって医務室に向かう。

「あ····れ?体が····」

その途中、俺は意識を失ってしまった。
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「魔力を使いすぎてしまったようだな····」

お前は····俺の中の魔王の魂か····

「お前は魔力が少ないようだ····」

魔力量の検査ではダントツ1位だったんだぞ?少ないなんて事が····

「我が汝に助言する····これから寝る前には魔力の器を空にするのだ」

魔力の器なんてそう簡単に大きくなるのか?

「····毎日続けるのだぞ」

何でちょっと間を開けたんだ?ちょっと!ねぇ!
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「おい!····あれ?」

俺は騎士団本部の廊下で目を覚ました。

「アイツ····」
「また気を失っていたのか?」

セカンドが心配そうに聞いてくる。

「ああ、魔力を使いすぎてしまったようだ」

俺がセカンドに返事をすると、体が少し重たくなった。

「この違和感は····」

そして、強い電撃が走ったよう痛みと同時に体がどんどん動かなくなっていく。

「何だこの痛みは!!」

少しすると痛みが引いていき、動けるようになった。だが俺の体の中で何かが変わっていた。

「体が····軽い!?」

俺の体が異様に軽くなっていたのだ。

「どうやら魔力の器が倍以上に大きくなったようだな」
「倍!?そ、そんな急に大きくなんの!?」
「いや、の大きさにはまだ及ばない」
「元々ってどういう意味だ?」
「いずれ分かる」
「いずれ····か」

そんな事はさて置き、早く医務室に向かおう。

俺はめちゃめちゃ軽くなった体で医務室に向かう。走ろうとすると壁にぶつかってしまいそうなほど俺の走るスピードが速くなっていた。そして一瞬で医務室に着いた。

「カリン、大丈夫か?····って何してるの?」

俺が医務室に入ってカリンを呼んだ次の瞬間、俺の目に異様な光景が入る。カリンがベッドで寝ているリールの上に馬乗りになっていたのだ。

「か、翔さん!?こ、これは····えーっと」
「ゲンキソウデナニヨリダ。ソレジャアバイバイ」

2人の邪魔をしてはいけないと思い、俺は医務室を出る。

「いや、女同士はないだろ~ははっ!!」

そして医務室から離れた俺にカリンが叫んできた。

「待ってください!!誤解です!!」

その言葉を聞いた俺は方向転換し、カリンの方へ向かう。そして、カリンの肩に手を置いて、

「安心して!誰にも言わないから!隠し事のひとつやふたつ、誰にでもあるからさ!」
「違いますから!」

カリンの顔がものすごく赤くなっていた。ちょっとやり過ぎてしまったかもしれない。

「ごめん、ちょっとからかっただけさ」
「も~!次、調子に乗ったら本気で怒りますからね!」
「分かった」

俺とカリンは一旦、医務室に入った。そして俺はカリンから事情を聞いた。

「リールが風魔法使いじゃない?」
「彼女は恐らく····闇魔法使いです。実際に戦って確信しました」
「そんなわけないだろ?闇魔法は魔族にしか使えないんだぞ?リールは人間じゃないか····いや、まさかカリンは····」
「私は彼女が魔族だと思っています。それもトップクラスの魔人族と呼ばれている種類の····」
「····でも目的は何だ?」
「それが分からないんです····」

そうか、カリンはリールが魔族だから殺そうとしていたのか····

魔王軍が連合国へ飛ばした偵察部隊と考えると····騎士団に入った理由は戦力調査か!いや、でも何でそんなことをする必要があるんだ?数で押せば、簡単にこの国なんて滅ぼせるのに····魔王はもしかして心配性かなにかか?

俺が色々考えている内に、リールが起き上がる。

「先の戦いで私の正体を見抜いたな!!」
「····っ!翔さん!下がっていて下さい!」

カリンが俺の前に移動する。まるで俺を守っているかのように。

(女性に守られる男性って、何かダサくない?俺はダサいと思ってるよ。ていうか、風の勇者の末裔って言ったよな?カリンは勇者なのか?)

そう思った俺は立ち上がり、カリンの横に立つ。そして質問した。

「風の勇者の末裔って本当か?」
「····そうです。私は風の勇者の末裔です」
「俺も勇者だ」
「え?」
「え?」

場の空気が一気に凍る。そう、まるで時が止まったかのように····
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