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はじまりはじまり。小さな冒険?
292、お仕置きにしても、やりすぎです。
しおりを挟む「降ろしてってば!」
「駄目だ」
廊下にポイならともかく、悲鳴が聞こえるような所って何なのよ?
流石にやり過ぎだと思って、助けに行きたいのに降ろしてもらえない。
じたばたともがいてみても、お腹に回された腕に身体をガッチリとホールドされていて、ルークの膝から降りることができない。
それどころか、落ちないようにと余計に抱き込まれる始末。
抱き込まれて自然に近づいてくるルークの顔を、両手でググっと押し戻しながらその優美な顔をじっと見上げる。
……ま、手で押し戻してるから歪んじゃってるけどね。
「じゃあ、私も飛ばして!」
「……」
ルークは黙り込むと、一息ついてから席を立つと食堂へと足を向ける。
私を抱えたまま!
降ろそうよ!?
「あの部屋に、害などはない……獣人以外には」
「獣人に害があるなら、駄目でしょう!?」
まぁ確かに暴れてたのは獣人二人組だけどさ…害があるのは駄目でしょう!
やり過ぎですよっ!
それに……。
「ユージアの悲鳴も聞こえてるんだけど、本当に害はないの?」
今向かっているキッチンのさらに奥の部屋のはずなのに、カイルザークやエルネストの声は悲鳴としか認識できないのが、ユージアの声だけはっきりと大きく聞こえてくるのだった。
……これ、花紋の効果なのかな?
「……多少、染みる程度だ」
「害、あるじゃない……」
少しムッとしたような顔になると、あからさまに視線をそらしてボソリと呟く。
その反応が逆ギレのようにも見えて、その大人気の無さに思わずジト目になってしまった。
とにかく降ろして~!と再び、もがくと先ほどよりも強く抱え込まれてしまうし。
それはもう、抱えてるのではなく、がっつり抱きしめてますよ?と言った格好で。
(しかしあれだよね、この状況。大人であれば異性に抱きつかれてるわけだから、充分にパニックなんだろうけど、実は子供心として大人の温もりが嬉しい)
ルークから香る白檀の香りも好きだ。
頭を撫でられたり頬をすりすりされるのも好きだ。
特に、ぎゅっ!とされているのが、すごく安心する。
きっとあの軽食を食べても、このまま抱えられてたら、速攻で睡魔に負けて昼寝してたと思う。
そうじゃなくても現に、身体がぽかぽかしてきてるんだよね……。
あくびも出そうになってるし。
でも、今はそれどころじゃないのですよ!
******
「それにしても…なんなのよあれは」
「父さんの言った通りだったな……」
「まぁ…兄さんも姉さんも…落ち着いて。初対面からしてあんな感じだったらしいから」
後ろからフィリー姉様達の声が聞こえていた。
ふ…不可抗力だからね?!
遠ざかる姉様達の声を聞きながら、食堂へと移動していく。
キッチンスペースではルナとフレアがアイランド型の作業台に、軽食を盛り付けているところだった。
私に気づいたのか、チラリとこちらに視線を向けたルナが、にこりと可愛らしく笑むと手をひらひらと振っていた。
……いや、見送ってないで助けようよ!?
私の思考読めるんでしょう?!
この悲鳴のような思考は読めたのか、ルナがすっと伏せると、肩を竦めて見せた。
つまり…無理、と。
隣で、サラダの盛り付けをしていたフレアもこちらに顔をあげると、満面の笑みで手をひらひら。
何か見捨てられたような気がしてきて無性に悲しくなってしまった。
******
ルナとフレアになんとも言えないような爽やかな(?)笑みで食堂から見送りをされて、奥の個室が並ぶ廊下を進んでいた。
相変わらず抱かれたままで、隙あらば頬擦りされたり、頭にキスを落とされたり……。
「そろそろ本当に、怒るよ?」
「子供を愛でるのであれば、怒らないのでは?」
「顔近っ!…そうじゃなくて、状況を考えて?!」
ちなみにその間にもカイルザークやエルネスト、ユージアの悲鳴が聞こえ続けているんですけどね。
つまり、どう考えても、そんなことをしている場合では、ない。
「一体、どんな部屋なのよ」
「……私の、部屋だ」
「は!?」
ルークの個室に送り込まれると、子供達…主に獣人には害があるし、獣人ではないユージアにしても、痛みが染みるような地獄絵図が広がっていると。
どんな部屋なのよ……。
洗濯し終わったままの衣類が椅子に少し多めにかけてある程度だった、シシリーの部屋の方が明らかにマシじゃないですか。
「えっと…シシリーの部屋以上、ってことかな?」
「いや……そういうことでは」
ぎくり。と、歩を止めると、なぜか恥ずかしそうに顔を仄かに赤らめる。
ちょっと待て?何を思い出したらそんな表情になるのさっ?
ていうか…シシリーの部屋で何を見たのよ!?
「まぁ…確かに、長居はしたくない部屋ではあるが……」
視線を合わせずらそうに、軽く伏せながらポツリと呟く。
……聞いた私の方こそ、いたたまれなくなってくるんですけど!
思わず頭を抱えそうになっていると、少し先の今までの部屋より、扉の作りが豪華な…星詠みのクロウディア様の部屋の扉と似た作りの観音開きの扉が、バタン!勢いよく開くと、真っ暗な室内から、両脇に子供を抱えた大人のシルエットが転がり出てきた。
「っっっは!はーーーーっ!」
そのシルエットは、その場に子供を転がすと、ダッシュで扉を閉める。
転がされた子供達は、ゲホゲホと激しく咽せながら、仰向けに転がると顔に手を当てたり、目を擦ったりしている。
「やっとまともに呼吸でき…た」
「死ぬかと…思った…」
「むしろ、死にかけたっ…」
大人に見えたのはユージアで、扉を閉めると、その場に座り込んで、他の二人と同じ様に涙目になって咽せていた。
「大丈夫?!」
「だいじょばない……喉痛い目が痛い…こんなの『監獄』だけで間に合ってるから」
「涙が…止まらない」
カイルザークの耳もしっぽも、力なくぺたりと垂れ下がってしまっている。
余程非常事態だったのか、床に転がっているエルネストまで、耳としっぽが出ていて、同じような状態になってぐったりとしていた。
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