私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

295、sideシシリー。可愛い弟。

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身寄りのなかった私にとっては、常にそばにいてくれる可愛い弟のような存在だったのだけど、ある日を境に、言葉遣いは敬語に。
私の事も「ねえさま」から「先輩」に変わってしまった。

理由を聞いても、赤に近いオレンジの瞳は、私の視線と合うことは無くて。
以前はどんな時でも、真っ直ぐに私を見てくれていたのに。

思いっきり他人行儀で、いきなり距離をとられてしまったようで、とても悲しかった。

「昔のままが良い!」と、訴える間も無く、私は卒業研究や資格試験にと東奔西走する事となってしまった。
……年の差も災いして、その後も所属が変わると居住区域も変わってしまい、ほぼ接点が取れないままに時間が過ぎていってしまった。


その次に会えたのがカイルザークが研究生として、シシリーわたしの研究室へと配属になった、つい先日のことだったりする。
再開を喜ぶ反面、私はひどく後悔をした。


(あの時、絶対に何かあったんだ。私に話せなかったってことは、話せないほどに嫌なことが。……なんで、聞いてあげなかったんだろう。私で対処できないような、どうしようもない事だったとしても、口に出して話すだけでもずいぶん楽になれただろうに。それでなくとも「獣人だ」と言うだけで、無言の差別だってあったのに……あからさまに態度を変えざるを得ない状況だったって事は、相当辛い事があったのだろうに。…カイルザークに酷い事をしてしまった)


「あの時は、忙しかったのだからしょうがない」そうじゃないよね。そんなの関係ない。
少なくともシシリーわたしが納得できるまでは、嫌がろうが逃げようが、しっかり話すべきだったんだ。
「言いたくなさそうだったから」なんて、空気を読んでる場合じゃ無かったんだ……。

……そうやって行動できていたら、心の底から、一緒に研究していける「今」を喜べたのに。


久しぶりに会った彼は、完全に別人のようになっていた。
私を軽く抜かしてしまっていた身長もそうだし、ふわふわと微風そよかぜにすら遊ばれていた髪の毛も、ずいぶん伸びて。
その身に纏っている雰囲気まで全く違う。

うるさいくらいに「ねえさま!ねえさま!」と、目をキラキラとさせながら後ろをついてまわっていた、あの人懐っこさはどこへいってしまったのだろう?
常ににこにこと浮かべている笑顔は、見事な営業スマイルで。


(あの時、唐突に現れた溝は…時間が解決するどころか、さらに深くなっているように感じて、ただただ悲しかった)


ただ、ふとした瞬間に見せる、何気ない仕草は懐かしいほどにそのままで、あぁこの人が成長したカイルザークなんだなと、なんとか自分を納得させていた。


それでも、同じ場で研究できるようになった今だって、私と2人きりにならないように、極力距離をとられているような気がずっとしていた。
そんなそぶりが見えるたびに悲しくなっていった。

──だから、今日は何も考えない。空気も読まないし、遠慮もしない。

だって、珍しく2人きりなのだもの。
ずいぶん時間がかかってしまったけど、ちゃんとあの時の事、ちゃんと聞くんだ。

昔と同じ関係に戻れなくても良いから。
せめて、素直に笑い合えるようになりたい。
そんな冷たい笑顔は、嫌だ。






******






妙に所在なげにキョロキョロとし始めるカイルザークに、なんでかな?と首を傾げかけて気づいた。


『あ、そうか!服を脱がないとダメだよね、ごめん。隣の部屋使って良いから、準備できたらこっちに来て?』


にこりと笑って、ゲストルームとして使ってる部屋を指差して、早く行っておいでと促してみる。

そうやっているうちに。カートに乗ってスリッカーが届いた。
思ったより大きい。
ペット用の倍以上の大きさだし、ブラシ部分もかなり長い。


『……気持ち悪いとか、怖いとか、ないんですか?』

『ん?何が?』


ペット用のスリッカーと見比べていると、不安そうな顔でカイルザークがこちらを見ていた。
覗き込むように目を合わせると、途端に怯えたように顔を赤くして俯いてしまう。


『獣人ってだけで、嫌がる人もいるから……』

『ん~見たことないから、なんとも言えないかな?でも、見た目は変わってもカイはカイだもの嫌ではないと思うよ?あ~でも触り心地がすごく良さそうよね!ほら、早く準備しておいで』


いや、確かにいきなり半獣化されたらびびるけど。
上半身だけ、もりっと筋肉質なオオカミさんみたいなのは見たことがある。
赤頭巾ちゃんに出てくるような二足歩行タイプの獣人さんね。

でも、イヤとかは無いなぁ。
すごーい!とは思ったけど。
気持ち悪いってのもよくわからないかな。


(半獣化したオオカミさんも、その突然の形状の変りっぷりに驚いたけど、そのあとはむしろその筋肉質な上半身を凝視してたっけ)


肉体美っていうのかな?
筋肉のつき方が綺麗なんだよね。
なんかこう、ついていて当たり前感のある、綺麗なラインなの。

完全獣化は、実は見たことがないから、かなり楽しみだったりもして、にこにことしてると、思いっきり戸惑われてしまった。


『え……』

『ほら、早く早く!』


しかも、なぜか頬を赤らめられてしまったし。
見てるこっちが恥ずかしくなるわけですが。

あの半獣化を披露していた狼の獣人さんは、人化していても、もともと筋肉質な人だった。
彼と比べると、かなり線が細いカイルザークは、どう変わるのかな?


『……怖かったら、すぐ言ってくださいね。戻りますから』


楽しみすぎてにやにやが止まらなくなっていると、意を決したようにカイルザークがゲストルームへと入っていった。
直後に、部屋の空気が一瞬変わったような緊張感が、ゲストルームから発せられた。
完全獣化する時の魔力の波動かな?

わくわくしながら開くドアを凝視して待っていると。


『!?』


完全獣化したカイルザークの姿を見て、言葉を失った。
息を飲んで、その姿に見入ってしまう。
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