私は「あなたのために」生まれてきたわけではありませんのよ?~転生魔法師の異世界見聞録~公爵令嬢は龍と謳う。

まゆみ。

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はじまりはじまり。小さな冒険?

402、魔力の塊の行方。

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 ゼンナーシュタットが好きそうなもの!と、考えたのに。
 色々と予想外のものが出来上がってしまって、私自身、手を添えたまま固まる。


「いいえ、滅相もございません……」

「首輪を……僕に食べさせたいの?それとも、つけたいの?」


 ぽろりとレイの姿をした、ゼンナーシュタットの手のひらに、転がり落ちたもの。
 それは、金属でできた首輪に、南京錠。

 ……形状がどう見ても『監獄』で見た『牢の鍵』と『隷属の首輪』の類似品にしか見えなくて。


「確かに食べてたよねっ!あはははっ!」とか、ユージアの笑い声が聞こえたわけだけど…うん、ごめんなさい。
 ユージアだって笑ってはいるけど、見たくないよね、これ。

 エルネストに至っては、文字通り、目を丸くして「こんなの食べてたのかよっ!」って…笑うどころか、顔を引き攣らせたまま、固まってしまっている。

 必死に首をぶんぶん振って否定をする…!


「いやいやいや……なんか、ゼンってば、首輪とか鍵とか食べまくってた印象が強くて…」

「金属が主食って訳じゃないからね?!」

「ご、ごめなしゃ…」


 しかもここで噛むとかっ!
 ふっと息を吐くような音が聞こえて、顔を向けると…すっとゼンナーシュタットの口角が上がるのが見えた。


「ここで噛むとか……確信犯?」

「ないっ!ないかりゃっ…っ!?」


 にやりと意地の悪そうな笑みを浮かべているゼンナーシュタットと、背後でユージアとエルネストが爆笑している。


「…ははっ。だめだよ、ゼン。そろそろ許してあげて?セシリアってば、焦ると噛むみたいなんだよ」

「また『紋』か…良いな」


 ゼンナーシュタットがぶつぶつと呟きながら、ユージアへと手を伸ばそうとすると…。


「賑やかだね!」


 鈴の転がるような可愛らしい声が響く。
 振り向いた先には2人の幼児。

 裁判を行う場所として、子供…の出入りは珍しい。

 中心にある大きな机を囲むようにして、すり鉢状に広がるこの部屋で、部分的にはまだ、大人たちが準備で右往左往している状況ではあるにしても。

 どちらにしろ、ここの施設には似つかわしくない存在だ。

 1人は今、私の隣にいるゼンナーシュタットが借りている姿の、本当の持ち主。
 本物のシュトレイユ王子だ。
 ゼンナーシュタットと並ぶとちょうど拳ひとつ分の身長差があって、よく似た兄弟のように見える。


「ここは静かにしてなきゃダメなんだよ?」


 隣には、ちょっと渋い顔のカイルザークもいる。


「わぁ…。ゼンの姿!レオン兄様みたい!僕、大きくなったら、こんな姿になるの?」

「うん、この姿に、なるかもしれないよってだけだよ。……レイ…ごめんね。姿を借りてしまって」


 周囲をくるくると回るように、瞳を輝かせながら、ゼンナーシュタットの姿を観察していく。
 時折「うん、うん!」と頷いては、嬉しそうに微笑んでいる。


「その姿で悪いことをしてなければ、良いよ。……僕、何もしてないのに怒られたくないからね?」

「…悪いことはしてないよ。それに……もう、しない」


 小さく、ゼンナーシュタットの「ごめんなさい」が聞こえて振り向くと、シュトレイユ王子が、背伸びをしてゼンの頭を撫でていた。
 少し滑稽こっけいに思えて、笑みがこぼれる。

 あ、でも、ゼンナーシュタットも生まれて間もないんだもんね。
 年齢差を考えたら、間違ってないのか……それでも、なんか変な感じ!


「そうだね、今日の変身は特別だって聞いてるから。今日のことも怒らない……でもね……」


 シュトレイユ王子はゼンナーシュタットの耳元に片手を添えると、ゴニョゴニョと内緒話を始めてしまった。
 その口元は悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。

 ゼンナーシュタットは目をぱちくりとさせると、ほっとしたように笑う。


「ああ…それくらいなら…許可がでればだけど、良いよ」

「うん!じゃあ、後でお願いね?」

「なんの闇取引をしたのかな~?」


 にやりと笑みを浮かべると、じりじりとゼンナーシュタットへ近づくユージアに誤解、誤解!と、軽く手を振ってみせる。


「闇だなんて…!違うよ。レイはこれから、レオンと一緒に式典に出席することが許されたらしくてさ」

「おおおお!おめでとう!すごいね!」

「それでね……正服とかスーツをそれぞれにしつらえなくちゃいけなくて、その採寸と試着の手伝いをしてもらえないかな?ってお願いしたの!」

「それは良いね!……そっくりに化けれるのなら、身体の寸法も一緒にできるもんね?」

「それはもちろん…ただ、今は謹慎中だから、お手伝いをしていいか、聞いてからね?」

「うん!楽しみにしてる!」


 ゼンナーシュタットとユージアのやりとりを、小さく頷きながら見守っていたシュトレイユ王子が、元気よく返事をする。
 ……王族だから、採寸とか試着の数も凄いんだろうなぁ。


(昔、母様が『お姫様は、一つの式典で着るのは一着なのに、作るドレスは5着以上』とか言ってたし)


 これ『一つの式典』に、だからね?
 その日1日で、いくつもの式典に出席するのなら、その分のドレスも作るわけでしょう?
 どれだけのドレス持ちなんだろうか……と、思いっきり呆れてしまった記憶がある。


「ねぇ、セシリア。その首輪…貸して?」

「あ……っ」


 そういえば、咄嗟にゼンナーシュタットの手から回収していた、首輪と大きな南京錠の形をした魔力の塊に、シュトレイユ王子が軽く触れると、一瞬にして真っ黒な塊に変化した。


「うわっ」

「しーっ!ユージア、大丈夫だから」


 シュトレイユ王子が、声を上げたユージアに静かにするようにと、口に指を当てる仕草をして見せる。
 そのあと、その指をそっと、真っ黒な塊に近づけて、つんつんとつつくと、ぶわりと黒い塊が膨張して、四方八方にはらはらと散り始めると、会場を準備していたスタッフや、既に入場を済ませていた人々が、騒然となる。


『これはすごい…』
『蝶?!どこから…?』
『なんて幻想的なんだ…』


 真っ黒な塊から剥がれ落ちた、黒のかけら達は黒のスジを基調にした、ステンドグラスで作られたような、極彩色のさまざまな彩りの蝶となって、はらはらと飛び立つ。

 ひらひらときらきらと自ら飛んだ軌跡に、光の粒を撒き散らしながら、人々の頭上すれすれ自由気ままに、飛び回る。

 徐々に動きがまとまり始め、蝶の大群がくるりふわりと室内を大きく一周すると、私の頭上でくるくる回り始める。

 全ての蝶が私の頭上に集まりきったところで、蝶自身が花吹雪となって降り注いだ。
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