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繰り返す悪役令嬢の終末
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51回目の朝。差し込む光は希望ではなく、ただの呪いだった。
冷たい石畳、鋭い刃の感触、群衆の罵声。50通りの「死」の記憶を抱えたまま、リシュールは動かない体で天井を見つめていた。今回の体は、指一本動かすだけで肺を焼くような激痛が走るほど、脆く、儚い。
「……やっと、終わるのね」
これまでの50回、彼女は抗い続けた。善行を積み、国外追放を狙い、あるいは魔法の研鑽に励んだ。しかし、運命という名の巨大な歯車は、彼女を必ず断頭台へと運んだ。
だが、今回は違う。何もしなくても、この命は冬を越せないだろう。
リシュールは、初めて安らかな気持ちで死を待っていた。
◆狂い始めた「予定調和」
しかし、運命は彼女を離さなかった。
ある日、重い扉が開く。現れたのは、過去50回のリシュールを冷酷に処刑台へと送り込んだ第一王子、ヴィンセントだった。
本来なら、健康で家柄の良い令嬢が選ばれるはずの婚約者選定。病床のリシュールが選ばれるはずなどなかった。
「リシュール。顔色が悪いね」
ヴィンセントは、50回見てきたどの表情よりも甘く、そして恐ろしいほどに穏やかな笑みを浮かべて彼女の枕元に座った。
「……殿下、何故ここに。私のような、明日をも知れぬ病人は、あなたの隣には相応しくありません」
「いいや、君がいい。君でなければならないんだ」
彼の指先が、リシュールの頬をなぞる。その瞳の奥には、底知れない暗闇――執着という名の深淵が渦巻いていた。
ヴィンセントには、断片的な記憶があった。
何度も、何度も、自分の手で殺めてきた少女。その度に、心に言いようのない喪失感が刻まれてきた。
51回目。目覚めた瞬間、彼は理解した。**「今度こそ、彼女を誰の手にも、死にすらも渡さない」**と。
◆終わらない愛の鳥籠
ヴィンセントの行動は迅速だった。
リシュールを貶めようとした側室、彼女の健康をネグレクトした家臣、そして彼女に「悪役」の濡れ衣を着せようとしたかつてのヒロイン。
それらすべてを、彼はリシュールの視界に入らぬ場所で、徹底的に、音も立てずに「排除」していった。
「リシュール、外は毒気が強い。この部屋にいれば、私が魔法で君の命を守り続けられる」
彼は自らの膨大な魔力を使い、リシュールの部屋を最高級の結界で満たした。それは治療という名目の、完璧な「監禁」だった。
リシュールは、豪華な天蓋付きのベッドから出ることすら許されない。
しかし、不思議なことに、50回味わった「処刑への恐怖」はどこにもなかった。
「見て、リシュール。君を苦しめていた者たちは、もう誰もいないよ。ここには、僕と君、そして穏やかな時間だけがある」
ヴィンセントは、彼女を抱き上げ、慈しむように髪を梳く。
彼の瞳は、かつて彼女を死に追いやった冷徹な王子のそれではない。獲物を永遠に手に入れた悦びに浸る、狂信者の瞳だ。
◆永遠のまどろみ
リシュールは気づいていた。
彼が時折、服に付着させてくる微かな血の匂いに。
彼が部屋を出た後、外でどれほどの悲鳴が上がっているのかに。
けれど、彼女はもう、何も問わなかった。
抗うことに疲れ果てた彼女にとって、狂った王子の腕の中は、この世で唯一「処刑」が訪れない場所だったからだ。
「……ええ、ヴィンセント。私を、どこへも行かせないで」
その言葉に、ヴィンセントの瞳が歓喜で濡れる。
彼はリシュールの細い首筋に顔を埋め、獲物を愛でる獣のように喉を鳴らした。
彼女は、彼が作った美しく安全な鳥籠の中で、外界の残酷さを一切知らぬまま、幸せな死へと向かう時間を買われたのだ。
51回目にして、彼女はついに勝った。
それが、愛という名の永遠の牢獄であったとしても。
冷たい石畳、鋭い刃の感触、群衆の罵声。50通りの「死」の記憶を抱えたまま、リシュールは動かない体で天井を見つめていた。今回の体は、指一本動かすだけで肺を焼くような激痛が走るほど、脆く、儚い。
「……やっと、終わるのね」
これまでの50回、彼女は抗い続けた。善行を積み、国外追放を狙い、あるいは魔法の研鑽に励んだ。しかし、運命という名の巨大な歯車は、彼女を必ず断頭台へと運んだ。
だが、今回は違う。何もしなくても、この命は冬を越せないだろう。
リシュールは、初めて安らかな気持ちで死を待っていた。
◆狂い始めた「予定調和」
しかし、運命は彼女を離さなかった。
ある日、重い扉が開く。現れたのは、過去50回のリシュールを冷酷に処刑台へと送り込んだ第一王子、ヴィンセントだった。
本来なら、健康で家柄の良い令嬢が選ばれるはずの婚約者選定。病床のリシュールが選ばれるはずなどなかった。
「リシュール。顔色が悪いね」
ヴィンセントは、50回見てきたどの表情よりも甘く、そして恐ろしいほどに穏やかな笑みを浮かべて彼女の枕元に座った。
「……殿下、何故ここに。私のような、明日をも知れぬ病人は、あなたの隣には相応しくありません」
「いいや、君がいい。君でなければならないんだ」
彼の指先が、リシュールの頬をなぞる。その瞳の奥には、底知れない暗闇――執着という名の深淵が渦巻いていた。
ヴィンセントには、断片的な記憶があった。
何度も、何度も、自分の手で殺めてきた少女。その度に、心に言いようのない喪失感が刻まれてきた。
51回目。目覚めた瞬間、彼は理解した。**「今度こそ、彼女を誰の手にも、死にすらも渡さない」**と。
◆終わらない愛の鳥籠
ヴィンセントの行動は迅速だった。
リシュールを貶めようとした側室、彼女の健康をネグレクトした家臣、そして彼女に「悪役」の濡れ衣を着せようとしたかつてのヒロイン。
それらすべてを、彼はリシュールの視界に入らぬ場所で、徹底的に、音も立てずに「排除」していった。
「リシュール、外は毒気が強い。この部屋にいれば、私が魔法で君の命を守り続けられる」
彼は自らの膨大な魔力を使い、リシュールの部屋を最高級の結界で満たした。それは治療という名目の、完璧な「監禁」だった。
リシュールは、豪華な天蓋付きのベッドから出ることすら許されない。
しかし、不思議なことに、50回味わった「処刑への恐怖」はどこにもなかった。
「見て、リシュール。君を苦しめていた者たちは、もう誰もいないよ。ここには、僕と君、そして穏やかな時間だけがある」
ヴィンセントは、彼女を抱き上げ、慈しむように髪を梳く。
彼の瞳は、かつて彼女を死に追いやった冷徹な王子のそれではない。獲物を永遠に手に入れた悦びに浸る、狂信者の瞳だ。
◆永遠のまどろみ
リシュールは気づいていた。
彼が時折、服に付着させてくる微かな血の匂いに。
彼が部屋を出た後、外でどれほどの悲鳴が上がっているのかに。
けれど、彼女はもう、何も問わなかった。
抗うことに疲れ果てた彼女にとって、狂った王子の腕の中は、この世で唯一「処刑」が訪れない場所だったからだ。
「……ええ、ヴィンセント。私を、どこへも行かせないで」
その言葉に、ヴィンセントの瞳が歓喜で濡れる。
彼はリシュールの細い首筋に顔を埋め、獲物を愛でる獣のように喉を鳴らした。
彼女は、彼が作った美しく安全な鳥籠の中で、外界の残酷さを一切知らぬまま、幸せな死へと向かう時間を買われたのだ。
51回目にして、彼女はついに勝った。
それが、愛という名の永遠の牢獄であったとしても。
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