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第九章:皇女の凱旋、仕組まれた再会
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ある日の夕暮れ。静まり返った皇城の正門を、一隊の騎士たちが堂々と進んできた。その中心にいたのは、騎士と駆け落ちして姿を消したはずの第一皇女アステリアだった。
「アステリア……! 生きていたのか!」
謁見の間でヴィルヘルムが驚愕の声を上げる中、彼女は跪くこともなく、真っ直ぐに父を、そしてその傍らに「身代わり」として座らされているリゼを見つめた。
「お父様、ただいま戻りました。……そして、おかえりなさい。私の、たった一人の妹」
その言葉に、場が凍りついた。リゼは目を見開き、ヴィルヘルムは椅子から立ち上がった。
アステリアは冷徹なまでの笑みを浮かべ、懐から一束の文書を取り出した。
「お父様、私が本当に男一人のために皇位を捨てるとお思いでしたか? 私はずっと調べていたのです。なぜ、私の誕生日に母様が泣いていたのか。なぜ、この城には『不吉な魔力』を過剰に恐れる空気が蔓延しているのかを」
アステリアは、自身の「駆け落ち」の真相を語り始めた。彼女は外の世界で、信頼できる騎士たちと共に、神殿の奥深くに眠る禁書の記録を盗み出していたのだ。
「妹が生きてどこかに預けられていることは、母様が遺した日記で知っていました。私が城に居続けては、監視の目が厳しくて動けない。だから、私は『醜聞』という名の煙幕を張り、外から妹を探し出し、保護するための状況を整えていたのです」
アステリアの視線が、謁見の間の隅に控えていた大神官長を射抜いた。
「黒い魔力を『不吉』と断じ、リゼを殺せと父様に迫ったのは誰? 母様が産後、日に日に弱っていったのはなぜ? ……お父様、あなたは神殿から贈られた『滋養の薬』を母様に飲ませ続けていましたね」
ヴィルヘルムの顔から血の気が引いていく。
「あれは、妻の体を治すための……」
「いいえ。あれは魔力を徐々に枯渇させ、衰弱させる毒だった。神殿は、守護の力を持つ『黒い魔力の双子』が生まれることを極端に恐れた。なぜなら、その力が目覚めれば、神殿の『偽りの奇跡』が不要になるからです」
大神官長は顔を歪め、後ずさる。
「皇后エレナは、自分の命を削ってリゼに魔力を分け与え、彼女を逃がした。……母様を殺したのは、お父様、あなたの無知と、そこに付け込んだ神殿よ」
アステリアはリゼに歩み寄り、その泥に汚れたままの手を優しく取った。
「リゼ。あなたが連れてこられる時、マーサが殺されたことも知っています。私の騎士たちが間に合わなかった。……本当に、ごめんなさい。でも、もう一人にはさせない」
アステリアが剣を抜き、リゼの黒い魔力が彼女の剣に黄金の輝きを付与していく。
二人が並び立った瞬間、皇城全体の結界が、これまでにないほど眩い光を放ち始めた。それは、双子が揃って初めて完成する、帝国最強の守護結界の覚醒だった。
「さあ、お父様。いつまで呆然としているのですか? 私たちの大切なものを奪った者たちに、皇帝としての、そして父親としての『落とし前』をつけてもらいましょう」
ヴィルヘルムは、静かに愛剣を引き抜いた。その瞳には、かつての迷いはなかった。娘たちを守れなかった後悔を、今こそ剣に乗せて。
「アステリア……! 生きていたのか!」
謁見の間でヴィルヘルムが驚愕の声を上げる中、彼女は跪くこともなく、真っ直ぐに父を、そしてその傍らに「身代わり」として座らされているリゼを見つめた。
「お父様、ただいま戻りました。……そして、おかえりなさい。私の、たった一人の妹」
その言葉に、場が凍りついた。リゼは目を見開き、ヴィルヘルムは椅子から立ち上がった。
アステリアは冷徹なまでの笑みを浮かべ、懐から一束の文書を取り出した。
「お父様、私が本当に男一人のために皇位を捨てるとお思いでしたか? 私はずっと調べていたのです。なぜ、私の誕生日に母様が泣いていたのか。なぜ、この城には『不吉な魔力』を過剰に恐れる空気が蔓延しているのかを」
アステリアは、自身の「駆け落ち」の真相を語り始めた。彼女は外の世界で、信頼できる騎士たちと共に、神殿の奥深くに眠る禁書の記録を盗み出していたのだ。
「妹が生きてどこかに預けられていることは、母様が遺した日記で知っていました。私が城に居続けては、監視の目が厳しくて動けない。だから、私は『醜聞』という名の煙幕を張り、外から妹を探し出し、保護するための状況を整えていたのです」
アステリアの視線が、謁見の間の隅に控えていた大神官長を射抜いた。
「黒い魔力を『不吉』と断じ、リゼを殺せと父様に迫ったのは誰? 母様が産後、日に日に弱っていったのはなぜ? ……お父様、あなたは神殿から贈られた『滋養の薬』を母様に飲ませ続けていましたね」
ヴィルヘルムの顔から血の気が引いていく。
「あれは、妻の体を治すための……」
「いいえ。あれは魔力を徐々に枯渇させ、衰弱させる毒だった。神殿は、守護の力を持つ『黒い魔力の双子』が生まれることを極端に恐れた。なぜなら、その力が目覚めれば、神殿の『偽りの奇跡』が不要になるからです」
大神官長は顔を歪め、後ずさる。
「皇后エレナは、自分の命を削ってリゼに魔力を分け与え、彼女を逃がした。……母様を殺したのは、お父様、あなたの無知と、そこに付け込んだ神殿よ」
アステリアはリゼに歩み寄り、その泥に汚れたままの手を優しく取った。
「リゼ。あなたが連れてこられる時、マーサが殺されたことも知っています。私の騎士たちが間に合わなかった。……本当に、ごめんなさい。でも、もう一人にはさせない」
アステリアが剣を抜き、リゼの黒い魔力が彼女の剣に黄金の輝きを付与していく。
二人が並び立った瞬間、皇城全体の結界が、これまでにないほど眩い光を放ち始めた。それは、双子が揃って初めて完成する、帝国最強の守護結界の覚醒だった。
「さあ、お父様。いつまで呆然としているのですか? 私たちの大切なものを奪った者たちに、皇帝としての、そして父親としての『落とし前』をつけてもらいましょう」
ヴィルヘルムは、静かに愛剣を引き抜いた。その瞳には、かつての迷いはなかった。娘たちを守れなかった後悔を、今こそ剣に乗せて。
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