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普通とは?
しおりを挟む序章:美貌という名の呪い
エリアス・ベルンシュタインの人生は、常に「静寂」とは無縁だった。
通りを歩けば馬車が止まり、微笑めば騎士たちが決闘を始め、溜息をつくだけで一国の王が宝物庫を開こうとする。神が気まぐれに全盛期の美を凝縮してしまったようなその容姿は、彼から平穏という概念を奪い去っていた。
「……もう、うんざりだ」
ある夜、彼は自らの美しい銀髪を泥茶色に染め、宝石のような紫蓮の瞳を隠すために、あえて視界を歪ませる粗悪な魔道具の眼鏡をかけた。さらに、魔力を吸い取り気配を消す「凡人のマント」を羽織る。
彼は決意した。今日からは辺境の「王立魔導学院」で、誰の目にも留まらない、石ころのようなモブ生徒として生きるのだと。
1. 誤算:石ころはダイヤモンドだった
入学から一週間。エリアスは満足していた。
誰からも告白されない。誘拐もされない。道ですれ違っても、誰も振り返らない。
これこそが、彼が切望した「普通の生活」だった。
しかし、彼は致命的な勘違いをしていた。
**「容姿さえ隠せば、自分はどこにでもいる平凡な人間になれる」**と思い込んでいたのだ。
2. 魔法実技の授業にて
「いいか、新入生諸君。この『魔力測定の水晶』を淡く光らせることができれば合格だ。平均的な魔導師なら、ロウソク一本分程度の光になる」
教師の言葉に、エリアスは頷く。
(なるほど。ロウソク一本分か。目立ってはいけない。全力の1%……いや、0.1%くらいに抑えれば、きっと『平凡』に見えるはずだ)
エリアスがそっと水晶に手を触れる。
彼は、自分がこれまで受けてきた「英才教育」が、この国の常識からどれほど逸脱しているかを知らなかった。
――パキィィィィィン!!
静まり返った教室に、硬質な音が響いた。
エリアスの触れた水晶は、光るどころか、内側から溢れ出した膨大な魔力の圧力に耐えきれず、粉々に粉砕してしまったのだ。
「……あ」
エリアスが固まる。周囲の生徒たち、そして教師が絶句して彼を見つめる。
「……す、すみません。これ、少し古かったみたいですね? 掃除、手伝います」
エリアスは慌てて、無造作に指を鳴らした。
本来なら、高度な魔法理論と長い詠唱を必要とする『時空復元(リ・コンストラクト)』。彼はそれを、まるで埃を払うかのような手軽さで行ってしまった。
バラバラになった破片が生き物のように集まり、一瞬で元の水晶に戻る。それどころか、付いていた傷まで消えて新品同様に輝いている。
「………………」
「…………エリアス君、君、今のは……」
「あ、今の、すごく簡単な手品です! 田舎の村ではみんなやってました!」
エリアスは冷や汗を流しながら、精一杯の「平凡な笑顔(と本人は思っている、ぎこちない表情)」を浮かべた。
3. 止まらない「異常」の露呈
その後も、エリアスの「普通」への挑戦は空回りし続けた。
* 座学の試験:
「難しすぎて誰も解けない」と言われた数百年未解決の魔導数式を、「暇つぶしのパズル」だと思って完答してしまう。
* 薬草学の授業:
「枯れ果てて復活不能」な伝説の霊草を、ただの雑草だと思って適当に魔力を注ぎ、教室をジャングルに変えてしまう。
* 放課後の裏庭:
絡んできた上級生を怒らせないよう、攻撃をすべて「たまたま転んだフリ」で回避し続け、逆に「伝説の体術使い」と勘違いされる。
エリアスは、寮の自室で頭を抱えた。
「おかしい……。顔は完璧に隠せているはずなのに。なぜみんな、あんなに驚いた顔で僕を見るんだ? やっぱり、まだ髪の色が明るすぎるのかな?」
鏡の中に映る、泥臭い茶髪の「平凡な」自分。
彼はまだ気づいていない。
隠しきれない天才性は、どんなに変装しても、太陽を指先で隠せないのと同様に露わになってしまうことを。
そして、その「得体の知れない凄まじい実力」が、かつての美貌以上に、より深く、より執拗な「執着」を周囲に生ませ始めていることに。
「……次は、もっと手を抜こう。もっと『普通』を研究しなきゃ」
深いため息をついたエリアスの背後で、彼の「異常さ」に気づいた生徒会長や、暗躍する魔導結社の調査員たちが、静かに、しかし熱狂的な眼差しを彼に向け始めていた。
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