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完璧すぎた普通
しおりを挟む第2章:統計学的な「普通」の罠
エリアスは猛省していた。
先日の水晶粉砕事件は、自分の「普通」に対する認識が甘かったからだ。彼は図書館に籠もり、あらゆる文献から「平均的な学生」のデータを抽出した。
「なるほど……。平均的な学生は、一日に3.4回ほど言い間違いをし、歩行中に0.8回ほど足元をふらつかせ、会話の2割は中身のない世間話で構成されているのか」
彼は手帳にびっしりと**『普通の人間の振る舞い:観測データ』**を書き込み、それを完璧にトレースすることにした。
1. 「計算され尽くした」世間話
食堂にて。エリアスは隣に座ったクラスメイトのケビン(自称:この学校で一番普通な男)に話しかける。
「やあ、ケビン。今日は実によい天気だね。降水確率は統計的に見て15%以下。これは一般的な世間話の導入として、成功率82%の話題だ。君の体調も、平熱の範囲内と推測するが、どうかな?」
「え、あ……うん? まあ、元気だけど……エリアス、お前、なんか喋り方怖くないか?」
「おっと、失礼。今の発言は『普通』より少し丁寧すぎたようだ。修正しよう。……『まじかよ、天気がいいから気分上がるわー。うけるー』」
「(……全然受けてない顔で言われた……!)」
エリアスは無表情に「うけるー」と付け加えた。彼は気づいていない。「平均的な若者の言葉」を、古語辞典を引くような真剣な眼差しで、抑揚なく出力することがどれほど異常かを。
2. 「狙いすぎた」ドジ
廊下を歩きながら、エリアスは次のフェーズに移行した。
(データによれば、普通の子は少し抜けているところがある。よし、ここで『何もないところでつまずく』という高度な普通を披露しよう)
エリアスは、石床のわずかな段差を計算。
関節の角度を「不器用に見える32度」に固定し、重心を意図的に0.5秒遅らせて崩した。
「おっと、いけない。私はなんてドジなんだ。まるで計算外の出来事のようだ」
ガシャン! と派手な音を立てて転ぶエリアス。
しかし、彼の肉体はあまりにも優秀すぎた。反射神経が勝手に作動し、転倒の勢いを利用して無駄のない三回転バク転を披露。最後は片手で着地し、眼鏡一つズレていない。
「…………」
「…………」
通りかかった生徒たちが足を止める。
「今の見たか? 凄まじい体幹だ……。わざと転ぶフリをして、周囲の警戒心を解く訓練か何かか?」
「あの無機質な台詞……。あいつ、暗殺部隊の出身じゃないのか?」
「(よし、今の転倒は平均的なドジスコアを稼げたはずだ)」
エリアスだけが、満足げに砂を払って立ち去った。
3. 「普通」の定義を書き換えるテスト
魔法学の小テストが返却された。
エリアスは、平均点が60点であることを予見し、わざと40点分を白紙で出した。残りの60点分も、あえて間違えやすいポイントをリサーチして回答した。
しかし、放課後。彼は教官室に呼び出される。
「エリアス君。……このテストの回答について説明してくれるかね?」
「はい。平均的な点数を目指した結果ですので、特に問題はないかと」
教官は、震える手で答案用紙を突きつけた。
「問題は大ありだ! 君が間違えたこの5問……。これらは、そもそも問題文の前提条件が間違っているトラップ問題だ。解けないのが正解なんだ。だが君は……わざわざ『問題文のここが間違っているため、あえて誤った公式を適用して、出題者が期待しているであろう誤答を導き出した』と注釈まで付けているじゃないか!」
「えっ」
「しかも、白紙にした後半の40点分。これ、透かしで見ると、裏面に魔法文字で『正解はこうだが、目立つので書かない』という暗号が薄く刻まれている。 採点魔道具が反応してパニックを起こしているんだぞ!」
エリアスは血の気が引くのを感じた。
「普通」を完璧に演じようとするあまり、「普通ならどう間違えるか」の分析精度が、国家レベルの解析官を超えてしまっていたのだ。
4. 向けられる新たな「執着」
その日の夜。エリアスは自室で頭を抱えた。
「なぜだ……。容姿を隠し、言動も統計に基づいた『普通』に寄せているのに、なぜみんなあんなに僕を注視するんだ?」
彼の部屋のドアの外では、
「あのエリアスとかいう奴、底が知れない。わざと凡人を演じて、我々を試しているのか?」
「あの鍛え抜かれた動き、そしてあえて誤答を選ぶ傲慢さ……。ゾクゾクするわ。彼を支配してみたい……」
と、新たな形の執着と嫉妬、そして好奇心が渦巻いていた。
容姿を隠したことで、逆に**「謎に包まれた不気味な天才」**という、さらに目立つ属性を上書きしてしまったことに、エリアスが気づく日はまだ遠い。
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