異世界最強の強さを隠すために弱いふりをするのは間違っているだろうか

ちちまる

文字の大きさ
14 / 56

それぞれの旅立ち

しおりを挟む

エリスはゆっくりと目を覚ます。

そこは自分の屋敷のベッドだった。

あれからどうしたんだろうと、最後の記憶を思い出す。

アレクに抱かれて泣きじゃくっていた記憶を思い出したエリスは、恥ずかしさのあまり身体を丸めて布団の上で転げまくっていた。



散々転げまくったエリスは、しばらくして怒りの感情が込み上がってきた。



許せない、許せない、許せない、、、、、、



あれだけ私に教えを受けておきながら、実際は私より圧倒的に強くて、それを隠して弱いふりをしていましただったなんて。



「アレクに会って問い詰めてやる」



ベッドの上で意気込んだエリスは起き上がって、身支度を始めた。

手早く身支度を済ませた時、ドアをノックする音が聞こえた。

「エリスお嬢様、入ってもよろしいでしょうか」

オールステイン家の執事が訪ねてきたので、エリスは「どうぞ」と許可を出した。



「失礼します」

高齢の執事が部屋に入ってきた。

エリスは子供の頃から執事をウィル爺と呼んでおり、孫のように可愛がってもらっていた。

風貌は老骨に見えても剣の腕は未だ衰えていない剣士でもある。

父の護衛を務めていた時もあり、エリスが幼い頃は剣の稽古をつけてくれていた。



「お目覚めになられて本当に良かったです」

エリスは執事から眠っていた時に起きていた出来事を聞かされた。



「ドラゴンの脅威が消え去った後は、街に人が戻り、復興に取り掛かっています。

ケガをしたエリスお嬢様をここまで背負ってこられたのはアレク殿でございました」

エリスの肩が驚きで微かに震えた。



「そして、ドラゴンを倒したのはエリス様であると伝えられました」

「違うわ!」

エリスは全力で否定した。

執事は少しの沈黙の後、言葉を紡いだ。

「他にあの場を見た者はほとんどおられないのです」



「エリス様の仰る本当の真実に関しての議論は一旦置かせていただきます。

アレク殿が騎士団の方々や周りの人達にドラゴンを倒したのはエリス様であると伝えて回ったのです。

最初は皆が驚いておりました。それでもエリス様が倒されたということに対して一人も否定する者はいませんでした。

なぜなら、エリス様は騎士団や街の人々から厚い信頼と期待を得ているからです。

もし、アレク殿が倒したと自ら伝えていれば、ただの平民にそんなことができないと否定されていたでしょうな。

そして何より、エリス様がドラゴンに立ち向かって行ったという騎士団からの目撃証言もあったため、もはや誰も否定する余地はなかったのです」



エリスはしばらくの間、沈黙していた。アレクにしてやられたと痛感した。

考えた末に言葉を紡いだ。

「ウィル爺はドラゴンを私が倒したと本気で思っているの?」



ウィル爺はゆっくりと言葉を発した。

「失礼を承知で私の意見を申し上げるなら、完全に信じきれてはおりません。

エリス様をここまで背負ってこられたアレク殿を見たときに、この男から底知れぬ強い何かを感じとりました。もしやと思いましたが、これは一人の老骨剣士の勘であり、誰かに話しても戯言にしかならないのでしょうな」



「私が皆に話すわ。アレクも連れて本当の事を話すことにする」



ウィル爺はコホンと咳払いを入れた。

「アレク殿から伝言がございます」

「アレク殿はどこかへ旅に出ると、そしてエリスに絶対会いたくない、眠っているエリスが可愛かった。ちょこっと何かしても大丈夫だと考えても、本当に何もしてないから安心してくれよな。

最後に、お元気でさよならと伝えられました」



これを聞いたエリスの様子を鑑みたウィル爺は急いで付け加えた。

「私から助言致しますと、一人でも真実を話すのは、いたずらに市民の混乱を招くだけですのでお止めになられた方がよろしいでしょうな。もはやその功績を受け取ってしまってはよろしいのではないかと。

それでは私はこれにて失礼します」

ウィル爺は急いで部屋から出ていった。



一人部屋に取り残されたエリスは下を向いたまま固まって動かない。

その顔を下からのぞき込むと、怒りと恥ずかしさが入り混じっていて誰かに見られたくないという表情だった。

エリスはショックで絶望したという気持ちは微塵も感じられなかった。

むしろその逆で、心に熱い炎が灯っていた。



それから数日後、ターニヤ国王から危機を救ったとして、勲章をエリスに授与された。

国王陛下から褒美として何かないかと聞かれたエリスは迷わずこう答えた。



「この世界に異世界から来た最強の力を隠して私よりも強いのに弱いふりをしている不届き者がございます。その者を見つけ出して懲らしめるためにどうか私に時間をください」



「ハッ、ハッハッハー」

国王は笑っていた。

「此度の件に貴殿は多大な功績を残している。ならば国王として報いねばなるまいな。

よかろう。ならば貴殿に好きなだけ休暇という報奨を与えよう。その者を見つけ出して来るが良い」



「はは、謹んでお受けさせていただきます」



エリスは騎士団を退団したと捉えられても不思議ではない報奨を国王陛下から授かったのだ。



数日後、エリスが旅に出る。

ウィル爺は孫が嫁に出るというような気持ちで送り出していた。



「二度と会いたくない。上等じゃないの。その願い打ち砕いてやるわ。

会いたくないなら、こっちから追いかけて会いに行ってあげるわよ。

私を本気にさせたこと後悔させてあげるから」



その頃、アレクは旅の途中で「ヘーーーーーーーックシュン」というとてつもない大きなクシャミをしていた。

悪寒がするのは誰かが噂をしているのだろうか



アレクはエリスが追いかけて来ていることなど知る由もなかったのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...