異世界最強の強さを隠すために弱いふりをするのは間違っているだろうか

ちちまる

文字の大きさ
37 / 56

人族と猫族

しおりを挟む

アレクと猫耳の姉妹は森の中で一晩を過ごしている。



晩御飯のメニューはウサギの焼肉だった。

焼肉のたれを使った焼肉は二人に好評のようだ。

どうやら猫族でも意外に肉がイケる口ということを知った。



晩御飯を食べ終えた後、お腹いっぱいになったソニアはテントの中で眠っている。



アレクが小さな火を焚きながら見張りをしていると、隣にレインがアレクの横に座った。

小さな焚火の明かりに、レインの美人さと猫耳をほのかに照らし出していた。



「少し、お話してもいいですか?」

「構わない」

「アレクさんは私たちのこと、どう思っていますか?」

「えっ!」

アレクはレインから直球に聞かれて動揺していた。



その様子を見たレインは誤解を招いていることに気付き、頬を赤らめながら、慌てて補足した。

「つまり、人族から見て獣人族をどう思うかについてですよ!」



落ち着きを取り戻したアレクは返答した。

「最初は驚いたけど、触りたくなるほどの猫耳だし、可愛いと思うぞ」



いつかその猫耳を触りたいと思っている。

それを聞いたレインは笑っていた。



「アレクさんは私たちしか知らないですからね」



「昔、人族と獣人族ではよく争いが起きていたんです。小さな争いから、部族の違いを受け入れることができずに全面闘争をしていたんです。結果的に獣人族は負けて、種族が劣っていると見なされるようになったんです。」



「アレクさんがそのような人でなくて良かったです」



その後もレインは人族と獣人族の歴史について詳しく話してくれた。



話を終えたレインはその場から立ち上がり、テントに向かって歩きだした。

「いつか今度は人族と獣人の話を抜きにして、私たちのことについてどう思っているか聞かせてもらいますよ」



去り際に笑顔でそう伝えたレインはテントの中に入っていった。



焚火の火が消えるまでの間、アレクはレインが話してくれた人族と獣人族の歴史について、もう一度頭の中で思い出すことにした。



昔、人族と獣人族は部族の地位を主張して対立していた。

獣人族の身体能力は人族より高く、身体だけでの闘争なら獣人族の方が有利だった。

ところが、人族は文明を開化させ、獣人族の身体能力を上回る武器、防具を生み出し、徐々に獣人族を追い詰めていった。

だが、明確に勝敗を分けたのは人族による魔法攻撃である。

魔法攻撃を受けてから獣人族が降伏するまでの時間はそう長くはなかった。



無条件での降伏を受け入れた獣人族は、かろうじて部族の存続は認められ、許された森の境界にて領土を保持することができた。

しかし、大半が奴隷として人族に強制労働させられていた。

それから長い年月が経ち、獣人族は強制労働から解放された。

解放された後でも、人族より獣人族の方が奴隷として多いのはその名残である。



今日では大規模な闘争時代を経験した人はいない。

人族と獣人族の間に子ができるほど、同じ街で仲良く暮らすことができている。

だが、一度、根付いた差別は薄まることはできても、消えるまでには至らなかった。

何千人かに一人、人族は獣人族を蔑み、獣人族は人族を恨んでいる。

それらの火種により、かつての闘争がいつ起きるのか、誰にもわからない。





「アレクさん、着きましたよ。ここが猫族の村です」

レインが村の門を教えてくれた。

奴隷商館から出発して2日後に到着することができた。

果たしてアレクは歓迎してもらえるのだろうか。

レインから昨日の話を聞いたアレクは帰りたい気持ちになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...