悪役令嬢の短編小説

ちちまる

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運命の裏側に咲く花

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エミリアは自分が悪役令嬢であるという現実に苦しんでいた。彼女の物語は、普通の恋愛小説とは異なり、彼女が周囲から誤解され、憎まれる役割を強いられているからだ。彼女の父親は、厳格で権力を振るう公爵であり、エミリアにもその厳しさが求められていた。

ある日、エミリアは父親の命令で、隣国の王子との政略結婚のための初顔合わせに出席しなければならなかった。しかし、彼女はこの縁談に全く心を動かされていなかった。王子として知られるレオナルドは美しく、魅力的であることで有名だったが、エミリアにはそれが仮面のように感じられたのだ。

会場にて、レオナルドとエミリアは初めて対面した。彼の瞳は確かに美しかったが、エミリアはそこに冷たさを感じ取った。彼女自身が常に冷たくあることを強いられてきたため、同じような瞳を持つ人間に対しては特に敏感だった。

「エミリア様、お会いできて光栄です。」レオナルドの言葉に礼儀正しさは感じられたが、エミリアはただの一言も心から出たものではないと感じた。

しかし、この会合が進むにつれ、彼女はレオナルドの意外な一面を知ることになる。彼もまた、王子という立場に縛られ、本心を隠して生きることを強いられていたのだ。

ある晩、庭園でふたりきりになった時、レオナルドは突然、本音を漏らした。「実は僕も、この政略結婚には反対だ。でも、国のため、家族のためには、僕たちには選択の余地がない。」

エミリアはその言葉に心を動かされた。彼もまた、自分と同じように苦しんでいると知り、彼に対する見方が変わり始めた。

次第にふたりの間には、理解という絆が芽生え、政略結婚という名目を超えた、本物の関係が築かれていく。彼らはお互いの立場を利用して、国のためだけではなく、自分たちの幸せも追求することを誓い合った。

「エミリア、君との出会いは、僕にとって一筋の光だった。」レオナルドの言葉に、エミリアは涙を流した。

結婚式の日、エミリアはレオナルドの手を取り、新たな未来への一歩を踏み出した。彼女はもう悪役令嬢ではなく、ただ一人の女性として、彼の隣に立っていた。彼らの愛は、誤解や偏見を乗り越え、ふたりを繋ぎ止めるものとなった。

エミリアの物語は、悪役令嬢として始まったが、彼女自身の手で幸福な結末を手繰り寄せた。運命は、時として残酷だが、真実の愛はそれを変える力を持っているのだ。
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