5 / 6
記憶の中の君へ
しおりを挟む春の新学期、桜の花びらが風に舞う中で、私はいつもと変わらない高校生活を送っていた。クラスの中で特に目立つ存在ではなかったが、静かで落ち着いた日々が好きだった。ある日、図書室で本を読んでいると、背後から声が聞こえた。
「何を読んでいるの?」
振り返ると、そこにはクラスメートの秋斗が立っていた。彼は少し照れくさそうに微笑んでいた。彼はどちらかと言えば内向的で、クラスでもあまり目立たない存在だった。しかし、その落ち着いた雰囲気と知的な印象が私には魅力的に映っていた。
「詩集だよ。少し難しいけど、読んでいると心が落ち着くんだ。」
秋斗は興味深そうに頷き、隣の席に座った。それから、私たちは図書室で顔を合わせるたびに話すようになった。彼は本当に物知りで、話すたびに新しい発見があった。
ある日、彼が提案した。
「ねえ、交換日記をしないか?君ともっと話してみたいんだ。でも、直接言葉にするのは苦手だから。」
その提案に私は驚いたが、同時にとても嬉しかった。彼との交換日記は、新しい楽しみになりそうだった。
「もちろん。私も君ともっと話したい。」
こうして、私たちの交換日記が始まった。最初は日常の出来事や好きな本について綴っていたが、次第にお互いの感情や考えを深く共有するようになった。
「今日、放課後に見た夕焼けがとても綺麗だった。君にも見せたかったな。」
「僕も見たよ。同じ空を見ていたんだね。なんだか不思議な気持ちだ。」
そんな何気ないやり取りが、私たちの絆を深めていった。彼の言葉はいつも優しくて、読むたびに心が温かくなった。
ある日、秋斗が日記に書いた言葉が、私の心に深く響いた。
「実は、僕には秘密があるんだ。心臓に持病があって、定期的に治療を受けているんだ。」
その告白に、私は涙がこぼれた。彼がそんな辛い状況にあるとは知らず、ただ楽しい日々を過ごしていた自分が恥ずかしかった。
「秋斗君、そんなことがあったんだね。知らなくてごめん。でも、これからは一緒に支え合っていこう。君のことをもっと知りたいし、君の力になりたい。」
その後も、私たちは交換日記を通じてお互いを支え合った。彼の病状は一進一退だったが、私たちは毎日を大切に過ごしていた。
「今日も病院で検査があったけど、君の言葉を思い出して頑張れたよ。」
「私はいつでも君のそばにいるから、辛い時はいつでも頼ってね。」
そんな日々が続いていたある日、秋斗が突然学校を休んだ。心配になった私は、彼の家を訪ねることにした。インターフォンを押すと、彼の母親が出てきた。
「秋斗君は…?」
彼の母親は悲しそうな顔をして言った。「秋斗は今、入院しているの。病状が悪化してしまって…」
その言葉に、私は愕然とした。何も知らずにいた自分が悔しくて、涙が止まらなかった。
次の日、病院を訪れた私は、ベッドに横たわる秋斗を見つけた。彼は驚いた顔をした後、微笑んだ。
「来てくれてありがとう。でも、大丈夫だよ。少し休めばまた元気になるから。」
しかし、彼の顔には疲れが滲んでいた。私は交換日記を手に取り、彼に見せた。
「これからも続けよう。君の言葉が、私の力になるから。」
秋斗は頷き、また少しずつ交換日記を続けるようになった。彼の病室で、私たちは静かに言葉を交わし合った。病気と戦う彼の姿に、私は何度も勇気をもらった。
ある日、彼は涙を浮かべながら、こう言った。
「もしも…僕がいなくなっても、君は前を向いて生きてほしい。君の笑顔が、僕の一番の宝物だから。」
その言葉に、私は何も言えなかった。ただ、彼の手を握りしめることしかできなかった。
その後、彼の病状は悪化していった。最後のページに彼が書いた言葉は、今でも私の心に深く刻まれている。
「君と過ごした時間が、僕にとっての宝物。ありがとう。そして、さようなら。」
彼が亡くなった日は、晴れ渡った空に美しい夕焼けが広がっていた。私は彼との思い出を胸に、これからも生きていくことを誓った。
彼との交換日記は、私の宝物となった。ページをめくるたびに、彼の優しい笑顔が浮かんでくる。彼が教えてくれた大切なことを胸に、私は前を向いて生きていく。
「記憶の中の君へ」は、私たち二人だけの大切な物語。いつまでも色褪せることのない、心の中に刻まれた思い出だ。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる