雪女の恋愛小説

氷解の誓い

昔々、雪深い村に一人の青年がいました。彼の名は洋介。幼い頃から、他の子どもたちとは違い、冬の寒さを全く感じない体質でした。村の人々は彼を特別な存在として避け、孤独な日々を送っていました。

ある晩、洋介はいつものように森の中を散策していたところ、雪の中から突如として現れた美しい女性に出会います。彼女の名は雪女。彼女は純白の着物を纏い、その美しさはこの世のものとは思えぬほどでした。雪女は、洋介が凍てつくような冷たさに耐えうる唯一の人間であることを知り、彼に興味を持ちます。

「洋介、君は私の寒さを感じないのね。」

「ええ、私は寒さを知りません。でも、あなたの寒さは何かが違う。それは心に触れるようです。」

洋介と雪女は次第に互いに惹かれ合い始めます。彼女は夜ごとに彼を訪れ、二人は長い時間を共に過ごします。しかし、雪女は決して昼間に姿を見せることはありませんでした。洋介は彼女について村の老人に尋ねましたが、老人はただ首を横に振るだけでした。

「その女性は、この世のものではない。彼女に心を許すな。」

しかし、洋介の心はもう雪女に奪われていました。彼は彼女の真実を知りたくてたまらなくなり、ある日、夜明け前に彼女の後をつけます。雪の中を歩き続けた洋介は、ついに雪女が消え入る姿を目撃します。彼女は静かに雪山の中へと消えていったのです。

洋介は彼女を追い、雪山の奥深くにある氷の宮殿にたどり着きます。そこで、彼は雪女とその一族が住む場所を知り、彼女たちの秘密が人間の温もりを求めている存在であることを知ります。

「洋介、私たちは永遠に一緒にはいられない。でも、君と過ごした時間は私の心を溶かしました。」

「雪女、僕はどんな困難も乗り越えてでも、君と一緒にいたい。」

雪女は涙を流しながら、彼に最後のキスをします。そのキスは彼の全ての記憶を凍らせ、洋介は雪の中に静かに眠りにつきます。春が来ると、洋介は再び目覚めますが、雪女の記憶はすべて氷解してしまっていました。

村に戻った洋介は、雪女との出会いが夢だったのか現実だったのか分からずに過ごしますが、彼の心にはぬくもりが残されていました。それは、愛する人との短い時間が、どんな冷たい心も溶かすことができるという証だったのです。