ホラー小説のお話

ちちまる

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霧の中の囁き

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深夜、霧が街を覆い尽くす。この街では、霧が濃い夜になると、人々が次々と失踪するという噂があった。誰もその理由を知らない。霧の夜に外出する者は、二度と戻らない。

エマはその噂を信じていなかった。彼女にとって、それは都市伝説に過ぎなかった。しかし、ある夜、彼女の好奇心が彼女を危険な冒険へと導いた。霧が街を覆った夜、エマは失踪する友人の手がかりを求めて、霧の中へと歩みを進める。

霧は徐々に濃厚になり、視界はほとんどなくなる。エマは自分の足音以外にも、何かが囁いているような気がした。振り返ると、何も見えない。だが、囁き声はますます強くなり、彼女の名前を呼ぶようになる。

「エマ… エマ…」

彼女は怖くなり、足を早めるが、霧はますます彼女を包み込む。すると突然、彼女の前に古びた館が現れる。その館は地図にも載っていない。エマは、そこに答えがあるかもしれないと感じ、躊躇しながらも館の中へと足を踏み入れる。

館の内部は、外の霧に比べればまだ見えるが、不気味な静けさが漂っていた。彼女は、廊下を進みながら、壁に掛かる古い肖像画を見ていく。そこには、何世紀も前の服装をした人々の絵があったが、彼らの目は、見る者を貫くようで、エマは心地悪さを覚えた。

彼女が深く館の内部に進むにつれ、冷たい手が彼女の肩を触れる感覚に襲われる。振り返ると、そこには誰もいない。彼女の心拍数は上がり、恐怖が頂点に達する。

エマはついに、館の中心にある広間にたどり着く。そこには、巨大な絵画が壁に掛けられていた。絵画はこの館の主を描いており、彼の冷たくも美しい顔がエマを見下ろしていた。そして、彼女は理解する。この館の主が、霧の中から人々を引き寄せ、永遠の住人としてこの館に留めているのだ。

広間の中央には、失踪した人々の肖像が並んでいた。彼らの表情は苦痛ではなく、むしろ解放されたように見える。そして、エマの足元には、まだ描かれていない空の額縁が一つ置かれていた。

その瞬間、館の主が絵の中から現れ、冷たい声で囁く。

「ようこそ、エマ。君もここで永遠に美しいままでいられる。」

エマは叫び声を上げようとするが、声は出ない。彼女の前の世界はゆっくりと霧に包まれ、彼女自身もその一部となっていく。霧の中で、彼女は最後に、自分が新たな肖像の一部になっていることを悟る。

霧の夜が明けると、エマの姿はなかった。彼女の家族や友人たちは彼女を探し続けるが、彼女が最後に見た世界は、もはやこの世のものではなかった。そして、街の人々は再び、霧が濃い夜の恐怖を語り続けるのだった。
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