ミステリー小説

ちちまる

文字の大きさ
1 / 11

霧の中の秘密

しおりを挟む

霧が濃い夜だった。街の灯りもぼんやりとしか見えず、人々の足音も遠く、不鮮明なものに聞こえる。そんな夜に、アーヴィング探偵事務所の扉が静かに開いた。

「探偵…お願いがあるのですが」

声の主は、若い女性だった。彼女は黒いベールで顔を隠し、名乗ることもなく、ただその場に立っている。アーヴィングは彼女を椅子に座らせ、話を聞いた。

「私の婚約者が…消えました」

「消えた?」アーヴィングは眉をひそめた。「どういう意味ですか?」

「一週間前、彼は仕事で出かけたまま帰ってきません。警察にも届けましたが、霧の中で迷子になったとしか…」

アーヴィングは考え込む。霧の町は小さなコミュニティで、失踪事件は珍しい。しかも、霧が原因であるはずがない。

「彼の名前は?」

「エドワード・ミルトンです」

翌日、アーヴィングは調査を始めた。エドワードの自宅、職場、そして彼が頻繁に訪れたという小さなカフェまで足を運ぶ。しかし、手がかりは何も見つからない。唯一の情報は、エドワードが最後に見られたのは、街の外れにある古い橋の上だということだけだった。

アーヴィングはその橋に向かった。霧が濃く、視界はほとんどなかった。橋の中央に立ち、彼は何かを感じ取ろうとした。突然、足元に何か硬いものが触れた。彼はしゃがみ込み、手探りでそれを確認する。一枚の写真だった。写真にはエドワードと見知らぬ女性が写っている。女性は笑っていたが、エドワードの表情は硬い。

「なぜ、この写真がここに?」

アーヴィングは写真をポケットにしまい、橋を後にした。翌日、彼はその女性の身元を突き止めることに成功する。彼女の名前はリリアン・グレイ、エドワードの元同僚だった。

リリアンを尋ねたアーヴィングは、彼女から驚くべき事実を聞き出す。

「エドワードは私と逃げるつもりだった。でも、最後の瞬間に彼は決心がつかなかった。それで私たちは別れた」

アーヴィングは謎が深まるばかりだ。エドワードが失踪した本当の理由は何か?そして、なぜリリアンはそれを隠していたのか?

調査を進める中で、アーヴィングは街の裏側に隠された秘密に気づく。霧の中には、ただ迷い込むだけのものではなかった。街の外れには、昔から続く秘密結社があった。そして、エドワードの失踪はその結社の仕業だった。

結社は霧を利用して、自分たちの活動を隠していたのだ。エドワードはその秘密を知りすぎてしまい、消されたのだった。

アーヴィングはこの情報をもとに結社を追い詰めるが、最終的には霧の中、真実は完全には明かされない。彼はエドワードの婚約者に、エドワードがどのような運命に遭遇したのかを伝えることしかできなかった。

しかし、その夜から、霧が濃くなるたびに、街の人々は霧の中に秘められた真実を恐れるようになった。そしてアーヴィングもまた、霧の中に隠された他の秘密を探し続けることを誓った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...