ASMRの囁き

ちちまる

文字の大きさ
6 / 12

囁きの渦中で

しおりを挟む

街の灯りが遠く霞む夜、カイは自室の一隅に設えた小さな録音ブースで、準備を整えていた。彼の前には、細やかな音も逃さないバイノーラルマイクが置かれ、今宵のセッションに必要なさまざまな小道具が並べられている。カイはASMRアーティストとして、リスナーに最高のリラクゼーション体験を提供することに情熱を注いでいた。

この夜のテーマは「囁きのセリフ」。カイは、言葉の力と微細な音の調和を駆使して、聞く者の心に穏やかな波紋を描くことを目指していた。彼はマイクに向かい、ほのかな息の音を録音し始める。この息遣いだけで、リスナーの心はすでに遠い海辺に誘われ、静寂と安らぎの中へと漂い始める。

そして、カイは囁き始める。「夜の帳が静かに下り、世界は深い静けさに包まれます。この時間を私たちだけのものにしましょう。」彼の声は温かく、まるで聞く者一人ひとりに直接語りかけるよう。バイノーラルマイクはその囁きを左右から優しく包み込むように捉え、リアルな臨場感を生み出していた。

カイはさらに、ページをめくる音や、布がそっと触れ合う音など、生活の中で耳にするささやかな音を加えていく。これらの音は彼の囁きと絶妙に調和し、リスナーをより深いリラクゼーションの世界へと誘った。

「あなたの心に、穏やかな風が吹き渡ります。心配ごとはすべて遠くへと飛んでいき、残るのは平和と静けさだけ。」カイの言葉は、まるで魔法のように、聞く者の心に潤いと安堵をもたらす。

セッションが終わりに近づくにつれ、カイの声はさらに柔らかくなり、「良い夢を見てください。私たちの旅はまだ続きます。またここでお会いしましょう」という言葉で締めくくられた。マイクはその最後の言葉を捉え、静かにセッションを終了する。

カイが創り出した「囁きのセリフ」は、数多くのリスナーに愛され、夜ごとに彼らを癒しの旅へと誘った。彼の声と、マイクを通じて伝えられる囁きは、遥かな距離を超え、聞く者の心を温かく包み込む。この物語は、言葉と音が織りなす不思議な力を讃え、忘れがたい印象を残す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...