京都伏見・たそがれ鉄道で会いましょう

秋月とわ

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第1会 祖母の優しさに触れる駅

第4話 ばーちゃんの弁当①

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 とんとんとん、包丁の小気味のいい音が、記憶の底から蘇ってくる。

 まだ陽が昇りきる前の、薄暗い台所。そこに立つばーちゃんはテキパキと手際よく朝食を作っている。子供の頃の俺は、あの音で目を覚ましていた。

 ──悠真、朝ごはん、できたで~。

 優しくも、どこか芯のある声だった。

 両親は、俺が物心つく前から海外で働いていて、ほとんど家にいなかった。代わりに、俺を育ててくれたのは、ばーちゃんだった。

 保育園の送り迎え、熱を出した日の看病、誕生日に作ってくれた不格好なホットケーキ。

 ばーちゃんのいる家は、いつも同じ匂いがした。味噌汁と、煮物と、柔らかい布団の匂い。その匂いに包まれて、俺はずっと育ってきた。

 保育園の頃から、ばーちゃんは毎日弁当を作ってくれていた。

 それはいつも玉子焼き、ひじき、きんぴら、漬物──素朴なものばかりで、おおよそ幼児が喜びそうなものではなかった。だけど、生まれた時からそれらを食べていた俺にとっては安心できる“家の味”だった。

 周りの子たちは、キャラ弁や凝った派手な作りの弁当だったけれど、俺は気にしなかった。

 だって他人のカラフルな弁当よりもばーちゃんが作った弁当の方が何倍も美味しいんだから。むしろ周りの方が、俺の幼児には似つかわしくない弁当に興味津々で弁当の時間は、いつも人気者だった。

「俺のばーちゃんの料理は世界一や!」

 口癖のようにいつも言っていたことを思い出す。俺の中では当時好きだった戦隊ヒーローに並ぶほど、ばーちゃんはかっこいい存在だった。

 小学校は給食で、ばーちゃんの弁当が食べられないと知った時はどれほどショックだったか。

 それなのに、いつからだろう、ばーちゃんの弁当が恥ずかしいと思い始めたのは。

 また弁当を持っていくようになったのは、高校生になってからだ。中学校も元々は弁当だったらしいが、俺の何コか上の先輩の時代から給食に変わったらしい。

 久しぶりの弁当は最初のうちは嬉しかった。懐かしい味が戻ってきて、初日なんて思わず「やっぱうまいな」と独り言を漏らしたほどだ。

「俺のばーちゃんの料理は世界一や」

 昔の口癖が口をつく。これからの高校3年間、またこの弁当を食べられると思うと、今から胸が踊る。

 だけど、その感動も長くは続かなかった。

 入学してしばらく経つと、ある程度の人間関係が出来上がる。イケてるグループ、特定の趣味を持った奴らが集まったオタクのグループ、そのどちらにも属さず、何事もほどほどにこなす小市民的なグループ。

 中学でもそうだったが、総じてイケてるグループというのは、そのメンバーが運動部で構成されている。文化部や帰宅部でイケている奴を俺は見たことがない。そこにいる奴らの大概はオタクか小市民だ。

 かくいう俺も小市民グループに属している。高校生活は無難に過ごすのもきっと悪くない。部活をほどほどにこなし、勉強も、良くはないけれど悪くもない成績を維持する。時には遊びや恋愛にうつつを抜かしたり、友達と馬鹿やったり。

 上手くやっていたと思う。友達も多くはないけれど何人かはできたし。昼メシもそいつらと一緒に食べることが増えた。

 違和感を覚え始めたのは、ある日の昼休みだった。
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