京都伏見・たそがれ鉄道で会いましょう

秋月とわ

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第3会 赦しを願った駅

第7話 金髪の巫女①

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 早朝の伏見稲荷大社は、ひと気がなかった。普段、国内外問わず観光客で混雑しているが、さすがに朝っぱらから参拝する物好きはいないらしい。

 本殿の前に立った俺は、ふっと小さく息を吐いて顔をあげた。どっしりと構える本殿は朝日を浴びて神々しい。今にも奥から神様が出てきそうな雰囲気だ。

 財布からいくばくかの小銭を取り出して賽銭箱に投げ入れ、鈴を鳴らす。朝の澄んだ空気にガラガラという荘厳な音が響いた。そして二拝二拍手一拝して、願いを唱える。

 願いはもちろん安産祈願──ではなくて、先日からずっと胸に引っかかる何とも言えない気持ち悪さ、その払拭にほかならない。

 この前、香織と参拝に来たときには無駄足だった。きっと、一度で取り除けるほど軽いものではないのだろう。病気だって軽い風邪なら、薬を一回飲めば治ってしまうが、インフルエンザなら一週間は安静が必要になる。それと同じことだ。

 お百度参り──とまでは行かないまでも、できるだけ参拝を心がけようと思っている。だから今日も香織には朝イチから会議があると嘘をついて、早めに家を出た。

 伏見稲荷を経由してから会社に行くのは、なかなか骨が折れる。だが、今はこの不快感を取り除くことが先決。少々のことは我慢しよう。

 参拝を終えて、本殿を背にしたとき、視界の端で何かが動いた。何気なく視線で追うと、そこには竹ぼうきを持つ巫女の姿が見えた。神社の人かと一瞬、納得しかけたがよく見ると金髪。それに女性にしては思いのほか大きい。

 完全に姿を認識して、息をのむ。

 それは、この前会ったアニメ好きのプリンセスだった。

 まさかホントに神社の人なのか?

 プリンセスは俺に気づくとニヤリと笑みを浮かべ、竹ぼうきを杖のように片手で立てる。そしてツカツカと俺の方へと歩み寄ってきた。

「朝っぱらから、精が出るのう」
「……ええ、近くに寄ったものですから」
「近くにのう……」

 彼女は意味ありげに眉を上げる。

「わざわざ、こんな時間に来るなど、よほど切実な願いでもあったのかと思ったわ」
「いえ……妻が妊娠したので安産祈願です。こちらの神社は有名ですし、ご利益もあると思いまして」
「まあ、力があることは否定せんな。うぬの判断も間違ってないぞ」

 なぜか彼女は自分が褒められたかのように腰に手を当て、胸を張った。この人は、どのポジションで話しているのだろうか?

「──お姉さんは、ここの巫女さんなんですか? この前も会いましたよね」
「気になるか──?」
「どっちかといえば……。言いたくないならいいですけど」

 遠慮を示すように、俺は両方の手のひらを彼女に向ける。けれど彼女は、そんなことを気にする素ぶりもなく、俺をじーっと値踏みするように眺めると、不敵に笑う。

「ここの巫女……に近い存在かの。巫女よりは偉いが」
「巫女さんとは違うんですか?」
「巫女よりは偉いのじゃ。役職持ち、みたいなもんかの」

 お屋敷で働くメイドには上役としてメイド長という役職があると聞いたことがある。それと同じように巫女にも巫女長という役職があるのだろうか。詳細はわからないが、彼女の言い草からすれば、ヒラの巫女を束ねる立場にあるのだろう。

 神社といえど、一般的な会社のような序列から逃れられないのは、組織として仕方ないとこであるが、なんだか夢が壊れる。神社の序列なんて神様、神主、巫女ぐらいしかないと思っていた。

「それより、うぬ。まだ面白い匂いがしておるな。以前よりさらに強まっておる」

 鼻をひくつかせる巫女長に、俺は先日、訊きそびれたことを思い出す。あのとき、気がつくと彼女はどこかに消えていたのだ。

「それ、この前も言ってましたよね。中身がどうのこうのって……。どういう意味なんですか」
「どういう意味も何も、そのままの意味じゃが?」

 ケロッとした様子で、彼女は続ける。
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