スズノハの約束

秋月とわ

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1章

第4話 お母さんのいない夏休み

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 勉強机の椅子に座り、扇風機に当たりながらスマホで友達のりっちゃんとメッセージのやり取りをしていた。りっちゃんは今いちばん仲がいい友達だ。

 せっかくの夏休みをど田舎で過ごさなければいけないという嘆きに彼女は『いいじゃん旅行できて!』と返信してきた。分かってないな……と呆れてしまう。

 りっちゃんの両親はあまり遠出が好きじゃないようで、『夏休みはどこにも連れていってもらえない』と逆に嘆き返されてしまった。できることなら変わってほしいくらいだ。例えどこにも連れて行ってもらえなくても、りっちゃんには両親がいるんだから。それだけで幸せなはずだと最近になってしみじみ思う。

 ふいに私はスマホの写真アプリを開いた。カメラロールを遡ってお母さんの写真を探す。パジャマ姿で病院のベッドに上半身を起こした状態で布団に入っているお母さんと一緒に撮った写真だ。

 頬はこけて、頭にはニット棒をかぶっている。室内なのに帽子をかぶっているのは別にオシャレをしているわけじゃなくて、治療の副作用で髪が抜けてしまったのを隠すためだ。

 この写真がお母さんと一緒に撮った最後の写真だった。この後、お母さんはどんどん弱っていって、写真に写るのも嫌がった。私もそんなお母さんの姿を残したくなくて、写真を撮ろうと誘うこともなくなった。

 お母さんの病気はガンだったと聞いている。具体的にどこが悪いのかお父さんは教えてくれなかった。ガンという病名を私に伝えることすら、躊躇していたように思う。

 小学生の私ですら、ガンが死に直結している病気だと知っている。病名を聞いた時、私はすぐに悟った。お母さんが、死んでしまうと。その事実が受け入れられなくて、涙を流したことも1度や2度ではない。

 だけど、現実はそんなに優しくない。涙を流したからといって、神様が特別にお母さんを助けてくれるということもなく、お母さんは4ヶ月前にこの世を去ってしまった。

 残された私とお父さんで、今は2人暮らしをしている。でも仕事が忙しいお父さんはほとんど家に帰ってこない。私が起きると同時に出かけて、私が寝てから帰宅する。

 ご飯はいつもひとりでスーパーの惣菜を食べている。お母さんが入院してからずっとこんな生活だ。私にとってこの生活は日常になっていた。だから、お母さんが死んでしまおうと、入院してようとやる事は変わらない。

 それなのに、1人で特売の惣菜パックを箸で突ついていると、いいしれない寂しさが襲ってくる。まるで心の中にぽっかり穴が空いたみたいに。

 薄暗いキッチンで1人夕食を食べながら、その姿を三人称視点で想像して悲しくなる。そして私をほったらかしにしているお父さんに怒りが沸々と湧いてくる。

 私の家族はお父さんしかいないのに、そのお父さんは私より仕事ばかりにかまけている。実際にそれが許せなくて、お父さんに怒ったこともある。

 それなのにお父さんは、困ったような笑顔を浮かべて「すまん」というだけだった。それが夏休みになった途端に、私をお母さんの実家──富浦のおじいちゃんとおばあちゃんちに行くように言ってきたのだ。しかも8月中、1ヶ月間も!

「未来も家でひとりだとつまらないだろう? おじいちゃんとおばあちゃんのところに行けば寂しくないぞ。それに海も山もある。退屈なんてきっとしない!」

 さも名案だという風に語るお父さんを、私は醒めた目で見ていた。要は体のいい厄介払いなのだ。めんどくさい私の面倒を見たくなくて、こんな田舎に送りつけたのだ。今ごろ、さぞ気楽な生活をしていることだろう。

 そのくせ、しつこいほどメッセージを送ってきて“父親として心配してます”とアピールしてくるのが、ほんとムカつく。本当は邪魔だと思っているくせに。
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